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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
秘密の場所 ――1
しおりを挟むベッドから降りてカイルについていく。どこに行くつもりなんだろう。
「行きたい場所は上の階なので、見つからないように気をつけましょう」
「わかった」
使用人たちの目を盗んで歩いていくのはなかなかスリルがあって楽しかった。階段をのぼり、これ以上は行けないだろうと思ったら、カイルは奥の部屋に入る。手招きされたのでオレも奥の部屋と足を進めて入り、ぱたんと扉を閉めると、今度は「こっちです」と細めの階段を指した。
細めの階段をゆっくりとのぼって、ついたところは――屋根裏部屋!
「メイドたちの部屋が主な場所です。さらにここからあそこをのぼります」
カイルが指した場所を見ると、しっかりとした階段があった。細めの階段をのぼったあとだから、ちょっとホッとした。カイルが先導して歩く。ちょっときつい角度の階段で、先についたカイルが手を差し出す。その手を掴み、なんとかのぼりきった。
さぁ、と柔らかい風が頬を撫でる。身体を包み込むような陽の温かさを感じ、顔を上げる。
「ここから見える景色が、とても綺麗なんですよ」
カイルが案内した場所は、屋上だったようだ。遠くまで良く見える。ここってこんなに広い場所だったのか、と思わず息を呑んだ。オレンジ色の夕日に包まれた町が遠くに見え、中庭もその色に染まっている。その風景を見て、なぜか目や鼻の奥がツンと痛んだ。
ぽたぽたと水が頬を濡らす。あれ、雨なんて降ってないのに……? と空を見上げると、カイルが目を見開いてハンカチを取り出し、差し出した。首を傾げて見ていると、カイルはぽんぽんと軽い力でハンカチをオレの目尻に押し当てた。
そこで泣いていることに気付いた。『咲耶』がこの風景を見て、泣くわけがないから、泣いているのは『エリス』なのだろう、と。
「ごめん、なんか急に……」
「いえ……」
カイルからハンカチを受け取って、自分で涙を拭く。それから数回深呼吸を繰り返し、もう一度風景を眺めた。
「綺麗だな」
「ええ。エリスさまにお見せしたいと思っていました」
カイルも風景に視線を向けてから、淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
涙はいつの間にか引っ込んだ。『エリス』はきっと、このルトナーク領を愛していたのだろう。身体に沁みついているのかもしれないな、郷愁が。そしてこの景色、きっと朝日でも綺麗だろうなぁと思う。いつか見てみたいものだ。
「もう大丈夫でしょうか?」
「うん、ありがとう」
こんなに綺麗な世界だとは思わなかった、って言ったらこの世界の創造主に失礼か。どうしても日本と比べてしまうのは仕方ないかもしれないけれど。
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