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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
デザイナー ――4
しおりを挟む「では、採寸を始めますね! お兄さま、空いている部屋をお借りしてもよろしくて?」
「ああ、そっちの部屋が空いているから、使ってくれ」
「ありがとうございます。行きますよ、エリス」
「は、はい」
ユーインさんが執務室にある右側の扉を指した。カーメルさんはオレに声を掛けると、スタスタと早足で歩いていく。あの扉はどこに繋がっているんだろう? と考えながら扉の中に入り、すぐに納得した。
仮眠室だ、ここ。扉を閉めると、くるりと身体を反転させて、カーメルさんがピッとメジャーを取り出した。この世界、メジャーあるんだな。
「それでは、採寸を始めますね」
「お願いします」
カーメルさんは一度目を閉じて深呼吸をしてから、ゆっくりとまぶたを上げる。さっきまで話していた雰囲気とはがらりと変わり、研ぎ澄まされたナイフのように感じた。
そこからてきぱきと指示をされて、両手を横に伸ばしたりしてサイズを測られる。いろんなところのサイズを測るんだなぁ。日本では既製品の服を着ていたから、なんだか不思議な感覚だ。十七歳の『咲耶』にとって、オーダーメイドの服は高級すぎて買えなかったし、買うとしても恐らく社会人になってからだろうから……いや、それでも買うかどうか怪しいな。
だからこそ、この世界でこんな風にデザイナーを呼んで作ってもらうっていうのは、思い切り『貴族』って感じがする。……貴族なんだけどね? 貴族の子どもというだけで恩恵を受けられるのはありがたい。でもやっぱり、良心が痛む。
「エリス? どうしました?」
「え?」
「眉間に皺を刻んじゃって。悩みごとでも?」
人差し指でオレの眉間をぐりぐりとマッサージするように、押している。
「いえ、なんでも……」
「なんでもない子が、そんな顔しませんわよ?」
確かに、そうかも? ちらりとカーメルさんを見ると、彼女は眉を下げてオレを見つめていた。とはいえ、本当に悩んでいることも言うわけにもいかず、沈黙だけが続く。
「……あまり溜め込まないようにね。エリスは我慢強いから、心配ですわ」
「我慢強い?」
「ええ。自分の感情を抑える癖があるみたいに見えますもの。子どもなんだから、もっと自由に感情を出して良いのよ? お兄さまも、お義姉さまも、そう願っているはずです」
「シェリルみたいな?」
「ふふ、そうね。シェリルは自分の感情に素直ね」
くすくすと笑い合って、なんだか肩の力が抜けた気がする。眉間から指を離して、ぽんぽんとオレの背中を叩く手つきがあまりにも優しくて、本当に心配してくれていたんだと思い、「ありがとうございます、カーメルさん」と頭を下げた。
「あら、わたくしはなにもしてなくてよ? それじゃあ、採寸はこれで終了です。がんばって速攻で作るから、待っていてくださいね」
「楽しみにしています」
意気込むように拳を握るカーメルさんに、オレも力強くうなずいて執務室に戻る。扉を開けるとカイルが近付いて来て、「お疲れさまでした」と言われたけど、それはカーメルさんに言うべきだと彼の肩を叩いて、カーメルさんに視線を向けると、カイルは素直に彼女に「お疲れさまでした」と声を掛けた。
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