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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
デザイナー ――2
しおりを挟むこくこくと何度もうなずくと、ますます首を傾げてしまった。
白いシャツ、黒いズボン、安定のファッション! オレが求めているもの!
「そうですか、白黒の……」
地味な顔だからそれが良いんです! 埋もれたいんです! と言いたい。変に目立つことは避けたいから。
「……今まで、エリスの服装は過剰な装飾のあるものだけだったろう? だがね、この子には本当に白のシャツと黒のズボンが似合っていてね、とても驚いたんだ。なんというか、エリスの良さが際立っているというか……、ああ、この子の良さを伝えられないのがもどかしい!」
ユーインさんはカーメルさんに向けて、どれだけ似合っていたのかを説明しようとしていたみたいだけど、額に手を当てて軽く首を振りながら言葉を紡ぎ、最後には額に当てていた手を握りしめた。
……親バカだなだぁ。オレの中でユーインさんがどんどんと親バカなイメージに変わっていく。三年ぶりに目覚めた息子を可愛がりたいのだろうけど、なんか複雑な気持ちになる。複雑と言うか、一番は申し訳なさか。なんせ、『エリス』の記憶が欠片もないから。
眉を下げて微笑むと、ユーインさんはハッとしたように口を閉じて、少し照れたように笑った。
「伯爵は親バカですね」
オレが口にしないことをさらっと言っちゃったよ、カーメルさん!
ユーインさんは「そうかも」と後頭部に手を置く。兄妹仲は良さそうだ。
「カーメル、伯爵呼びはやめてくれないか。お前に言われると背筋が凍る」
「まぁ、酷い。お兄さまったら、こんなに可愛い妹を前にしてなにを言うのですか」
こんな風に仲が良くなれるのだろうか、オレとシェリルは。そして、カイルはカーメルさんが来てから一言も喋っていないけれど、大丈夫かな? と彼のほうに視線を向けると、カイルは目元を細めてユーインさんとカーメルさんを見ていた。
その表情がなぜかとても……哀調を帯びていて、どうして彼がそんな表情を浮かべるのかがわからなくて思わずカイルの袖をクンと引いた。
「……エリスさま?」
我に返ったようにオレを見るカイルの顔は驚きに満ちていて、さっきの表情よりは年相応に見えて、なぜかホッとする。
「さっきから黙っていたから、気になって」
「あ、旦那さまとカーメルさまが話しているのを、久しぶりに見たので、なんだか嬉しくて」
誤魔化すように頬を掻くカイルに、それ以上追及しなかった。カイルもなにか、隠していることがありそうだ。でも、それを無理に暴こうとは思わない。気が向いたら話してくれるかもしれないし、な。
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