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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

爵位について ――2

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「……あの、ちなみにユーインさんのご両親は……」
「……元気すぎて困るくらいさ。この前もこんなものを送ってきたよ」

 すくっとソファから立ち上がり机に向かうと、なにかを取り出して戻ってきた。手紙のように見える。そして、それをオレに差し出した。

 読んでも良いのかな、と思いながら受け取り、手紙の中身を確認する。そう言えば、文字は読めるのか、オレ。日本語や英語しか読めないと思っていたけれど、この世界の文字は問題なく読めるみたいだ。母国語である日本語と、学校の授業で習う英語はその範囲でだけ読み書きが出来るようになったけど……なんでこの世界の文字が読めるんだ?

 そのことを疑問に思いつつ、手紙に視線を落とすと……、うん、とても隠居生活を楽しんでいるような文章が描かれていた。押し花のしおりを大量に作ったのでお裾分けしますという内容や、国中を巡って流行のことを書いてあったり、手紙というよりは日記に近い感じだ。

「ちなみにこれは、誰からなんですか?」
「エリスにとっては祖父だね。私の父からだよ」
「へぇ~」

 ユーインさんのお父さんってどんな人なんだろ?

 ……こんなにイケメンのお父さんだ、きっとイケメンなのだろう。さすさすと自分の頬に触れてみると、ユーインさんがこほんと咳払いをした。

「そんな感じで、隠居生活を楽しんでいるよ」
「老後に楽しみがあるのは良いことですよ」

 この世界の平均寿命がどのくらいかは知らないけど……、まぁ、亡くなって当主交代よりは、生きているうちに交代してあとは自由に生きると言うのも良い選択だと思う。

「……ユーインさんは、爵位が必要だと思いますか?」
「必要な人には必要だし、必要ない人には必要ないんじゃないかな。人それぞれ価値観は違うのだし。……エリスはどう?」
「そうですね……オレには必要ないかな……?」

 伯爵家の長男としてこう言うのは変かもしれないけど、日本人として過ごしていた時間が長いから、貴族制度についてよくわからないことが多いし、そもそも感覚が庶民だと思うんだよ。

「オレが無知ってことだとは思うんだけど、爵位って重いものだと考えていて……」
「そうだね。でも、こうも考えられるよ。領地の人たちのお悩み相談人ってね」
「お、お悩み相談人……?」
「領地を経営するってことは、この地を良くするためになんでもするってことだ。領民の声を聞いて、悩んでいることを解決する。それが領主の役目だからね。……まぁ、中には重い税金で領民を苦しめている領主もいるみたいだけど」

 それはダメなことでは……。ユーインさんはそんなことしないだろうけど。でも、重い税金で領民を苦しめている人って、どんな世界でもいるんだなぁ。歴史の授業を思い出して、なんとも言えない不思議な気持ちになった。心中は複雑だ。

「……私はね、シェリルとエリス、どちらがルトナークを継いでも構わないと思っている。とはいえ、シェリルのほうが難しいのは理解出来ているかい?」

 真剣な表情で尋ねられて、オレも顔を引き締めてユーインさんを見つめる。目元がふっと柔らかくなり、ぽんぽんとオレの頭を愛しむように撫でた。
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