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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
散歩 ――2
しおりを挟む「なろうと思ったこともありません。シェリルさまの護衛は、私ではないので」
やけにきっぱりと言い切るなぁ。どういう意味なのかさっぱりわからない。ちらりとシェリルに視線を向けると、彼女は炎の魔法を出していた。どうやらうまくいったのだろう。嬉しそうに跳ねている。
「そういえば、カイルの部屋ってどこにあるんだ?」
「エリスさまの部屋の近くにしてもらいました。なにかあったときにはすぐに対処しますので、ご安心ください」
「休めるときにはちゃんと休めよー?」
ワーカーホリックになりそうなカイルに、眉を下げて肩をすくめる。とはいえ、オレが狙われることなんてそうそうないだろう。だって、毒を用意したのは『エリス』なのだから。
「心配してくださるのですか?」
「カイル、お前十二歳なんだぞ? 普通、十二歳は遊ぶのが仕事だろ?」
あと勉強。小六か中一って考えると、やっぱり、まだ子どもだと思うんだよ。カイルは目を丸くして、それから辺りを見渡し、オレの手を引っ張った。近くの部屋に入ると、扉を閉める。
「エリスさま、十二歳は立派に仕事をこなせる年齢ですよ」
「え?」
「平民たちの間では、一桁の年齢から畑仕事を始めます。親が商売人でも同じです。五歳の子どもだって、畑仕事をしますよ?」
「ええっ?」
そんなに小さな年齢から働いているの? と目を大きく見開いた。そして、カイルがとん、と自分の胸に手を置いた。
「あなたはまるで……この国とは別の常識を知っているように話しますよね」
どきり、と心臓が跳ねた。カイルがじっとオレを見つめる。その瞳に映るオレは、明らかに動揺を隠せていない。カイルはそんなオレの肩に手をポンと乗せてじっと見つめてきた。
――すべてを見透かされているような、感覚。なにも言わないオレにカイルは眉を下げて微笑んだ。
「散歩の続きをしましょう。どこか、行きたいところはありますか?」
「んー、そうだな……じゃあ」
顎に手を乗せて考えるように視線を巡らせる。そして、思い付いたところを口にすると、カイルはキョトンとした表情になった。それから、ふわりと微笑んでうなずく。
「では、ご案内します」
オレの肩から手を離して、歩き出す。歩きながらいろいろな話をした。そして、目的地についたのか足を止めるカイル。オレも足を止めて目の前の扉を見上げる。
「……忙しくないかな」
「エリスさまの訪問を邪険にする方ではないですよ」
背中を押すような言葉に、小さく首を縦に動かしてから扉をノックした。
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