上 下
34 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

散歩 ――2

しおりを挟む

「なろうと思ったこともありません。シェリルさまの護衛は、私ではないので」

 やけにきっぱりと言い切るなぁ。どういう意味なのかさっぱりわからない。ちらりとシェリルに視線を向けると、彼女は炎の魔法を出していた。どうやらうまくいったのだろう。嬉しそうに跳ねている。

「そういえば、カイルの部屋ってどこにあるんだ?」
「エリスさまの部屋の近くにしてもらいました。なにかあったときにはすぐに対処しますので、ご安心ください」
「休めるときにはちゃんと休めよー?」

 ワーカーホリックになりそうなカイルに、眉を下げて肩をすくめる。とはいえ、オレが狙われることなんてそうそうないだろう。だって、毒を用意したのは『エリス』なのだから。

「心配してくださるのですか?」
「カイル、お前十二歳なんだぞ? 普通、十二歳は遊ぶのが仕事だろ?」

 あと勉強。小六か中一って考えると、やっぱり、まだ子どもだと思うんだよ。カイルは目を丸くして、それから辺りを見渡し、オレの手を引っ張った。近くの部屋に入ると、扉を閉める。

「エリスさま、十二歳は立派に仕事をこなせる年齢ですよ」
「え?」
「平民たちの間では、一桁の年齢から畑仕事を始めます。親が商売人でも同じです。五歳の子どもだって、畑仕事をしますよ?」
「ええっ?」

 そんなに小さな年齢から働いているの? と目を大きく見開いた。そして、カイルがとん、と自分の胸に手を置いた。

「あなたはまるで……この国とは別の常識を知っているように話しますよね」

 どきり、と心臓が跳ねた。カイルがじっとオレを見つめる。その瞳に映るオレは、明らかに動揺を隠せていない。カイルはそんなオレの肩に手をポンと乗せてじっと見つめてきた。

 ――すべてを見透かされているような、感覚。なにも言わないオレにカイルは眉を下げて微笑んだ。

「散歩の続きをしましょう。どこか、行きたいところはありますか?」
「んー、そうだな……じゃあ」

 顎に手を乗せて考えるように視線を巡らせる。そして、思い付いたところを口にすると、カイルはキョトンとした表情になった。それから、ふわりと微笑んでうなずく。

「では、ご案内します」

 オレの肩から手を離して、歩き出す。歩きながらいろいろな話をした。そして、目的地についたのか足を止めるカイル。オレも足を止めて目の前の扉を見上げる。

「……忙しくないかな」
「エリスさまの訪問を邪険にする方ではないですよ」

 背中を押すような言葉に、小さく首を縦に動かしてから扉をノックした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...