上 下
32 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

協力関係 ――2

しおりを挟む

 すっと手を差し出すと、カイルは一瞬目を見開いて、それからすぐにオレの手を取りぎゅっと握る。そして、なにかを確かめるようにじっとオレの目を見た。

「カイル?」
「そろそろ朝食の時間ですよ」
「あ、すっかり話し込んじゃったな。じゃあ、食堂に行くかぁ」

 タイミングよくぐぅ、と腹が鳴った。それを聞いたカイルは、手を離してぽんとオレの背中に手を置き、「行きましょう」と食堂へ歩き出す。

 えっと、協力者を得たってことで良いんだよな?

 ちらりとカイルの顔を見ると、考えていることがまるでわからない笑みを浮かべていた。十二歳が浮かべる表情か? と考えたけれど、オレはカイルのことを知らないからなぁ。いつか、彼の笑みの理由を知ることがあるんだろうか?

 そんなことを考えながら食堂まで歩いた。カイルが扉を開き中へ入るように促(うなが)す。

 食堂に入るとすでに全員が揃っていた。シェリルもきちんといつもの席に座っていて、内心ほっとした。でもまぁ、やっぱり睨まれたんだけど。ギロリと鋭い眼光をこっちに向けるシェリルに気付かないふりをしていつもの席に座ると同時に、料理が運ばれてきた。

 美味しそうな匂いに食欲が刺激される。食事前の祈りを終えて、パクパクと勢いよく食べていたらユーインさんとキャサリンさんが驚いていた。

「とってもお腹が空いていたのね?」
「そんなとこです」

 少しずつ、食べる量が増えていっている、とは思う。とはいえ、オレが記憶している十歳の頃の食事量にはまだ遠い。あの頃くらい食べられるようになるのはいつのことだか。

 とりあえず、カイルという協力者を得たことで少しだけ心が軽くなった。まだ十二歳の子を協力者に選んでしまったことに、ちょっとだけ罪悪感を覚えるけど。

 そう、考えてみればまだカイルは十二歳なんだよなぁ。それなのに、オレの護衛ってどんだけ優秀なんだ。

「美味しいかい?」
「今日も美味しいですよ。本当に」

 なんと今日はスープとサラダ、ロールパン一個を完食だ。この調子なら、そのうちメイン料理も食べられるかも? と淡い期待を抱きながら食事を終える。

「エリス、シェリル、今日はどんな風に過ごす予定かな?」
「オレはカイルと一緒に遊びます」

 決定事項。すまん、カイル。巻き込んで。ユーインがちらりとカイルに視線を向ける。彼はこくりとうなずいた。

「シェリルは?」
「魔法の練習。上手に使えるようになりたいもの!」

 目をキラキラと輝かせて、シェリルはぐっと両手の拳を握った。目標があることは良いことだな。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

処理中です...