最終目標はのんびり暮らすことです。

1章:乙女ゲームの中に転生したみたい？

協力関係 ――1

　カイルは少し黙り込んでから、じっとオレを見つめた。吸い込まれそうな紫水晶の瞳に、思わず見つめ返す。そして、意を決したように口を開いた。

「昨夜、エリスさまのおっしゃられたことを考えてみました」
「うん？」

　どのことについて考えたんだろう。シェリルのこと？　それともオレが辺境地でのんびり暮らしたいってこと？　パチパチと目を瞬またたかせてカイルを見ると、彼はふっと表情を緩めた。

「シェリルさまを救いたいというエリスさまの気持ちを、考えてみました。そして、シェリルさまを救ったあとのルトナーク家のことを」

　そっちも考えたんだ？　と驚いてしまった。シェリルを救ったあとのルトナーク家、オレにはあんまり想像できないけれど、カイルには想像がついたってこと？

「カイルはルトナーク家と付き合い長いの？」
「父がルトナーク家で働いているでしょう？　たまに手紙で近況報告を受けるくらいですよ」

　会話じゃなくて手紙ってところがヒューっぽい。この親子も結構不思議な関係だよなぁ。

「シェリルさまがエリスさまと仲直り……というのも変ですが、した場合、ルトナーク家はきっともっと素敵な家庭になると思います」

　今のルトナーク家も悪くないとは思うけどね。シェリルがオレを毛嫌いしていることを除けば。むしろオレのほうが異分子だから、混ざっちゃ悪いというか。本当の『エリス』ではないから罪悪感があるというか。

「エリスさまが我々に対して一線引いていることも、気になりますし」

　やっぱり態度に出ていたか。それとも、カイルが鋭いのか？　どっちだろう。感心したようにカイルを見るとその視線に気付いた彼が、「エリスさま？」と首を傾げた。

「んーと、とりあえず、オレが最優先に考えることは、シェリルのことなんだ。……頼まれているから」
「頼まれている、ですか？」
「そ。理由はまだ言えないけれど、話す時期はオレが決めていいか？」
「もちろんです」

　話すつもりがあるかどうか、もあとで決めようと思う。だってさ、結構衝撃的だと思うんだよね。オレにシェリルを救って欲しいと頼んだ相手が『エリス』とこの世界の『神』だから。

　それにしても神さま、十代のオレに頼むことか？　とちょっと思ったりもする。この身体なんてまだ十歳だし。同じ年齢のシェリルより身長が低いことが少し気になってはいるしね。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけれど。

　とりあえず、オレの一番の目標はシェリルを救うこと。

「えっと、じゃあ、協力者ってことでよろしく？」

　正直、この世界に疎いオレがどうやってシェリルを救えるのかさっぱりだったが、カイルというこの世界の住人が手助けしてくれるっていうのはとてもありがたいことだ。