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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

カイルの告白 ――1

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「そっか、ありがとう」

 カイルはオレのことをじっと見つめて、それから言葉を紡いだ。

「エリスさまはなぜ、シェリルさまのことを気に掛けるのですか?」

 ちょっと棘のある言い方だった。オレが驚いていると、カイルは自分の言葉にハッとしたように息をみ、そのまま黙り込んでしまった。きっと、言うつもりのない言葉だったのだろう。

 オレがシェリルを気に掛ける理由わけ……か。『エリス』に頼まれたからって言うのもあるけど、身内が身を滅ぼそうとしているのを黙って見ていようと思ったオレが、きっとおろかだった。

 ――そんなこと、黙って見ていられるわけがないのに。

 オレはゆっくりと深呼吸をしてから、カイルを見つめる。

「信じるかどうかはカイルに任せるけれど、オレはこのままシェリルが育ったら大変なことになると思っている。あの子がやったことのとばっちりでユーインさんやキャサリンさんが傷つくのは見たくないんだ。それと、家はシェリルが継いだほうが良いなって思っている」

 だってそうだろ? あの優しい両親はオレのこと……『エリス』の事情を知らない。『エリス』の記憶が『咲耶サクヤ』になったことを知らない。言ったところで絵空事だと思われるのがオチだろう。

 だけど――『エリス』はオレにシェリルを、この家を託したのだ。恐らく、毒を飲むのは怖かっただろう。本当に死んでしまったら? って考えたと思う。『エリス』が死ねばシェリルを助けられない。本当に賭けたんだと思う。――そして、彼はその賭けに勝った。

「……では、エリスさまはどうするのです?」
「田舎でのんびり暮らすのが目標かな。もちろん、カイルはこの家に残っていい」

 オレに付き合わせるのは申し訳ないし。出世を考えているのなら、シェリルについていたほうがいい。そう思っていたのだけど、カイルはふるりと首を横に振った。

「私はエリスさまについていきます。――たとえそれが、この世界の果てでも」

 地獄までついてくる気か、こいつ。いや、この世界って地獄あるのか?

「なんでそこまでオレに入れ込んでいるわけ?」

 オレはカイルの知っている『エリス』ではないのに。いや、この身体は『エリス』のものだけど、中身は違う。

 まぁ、一度会っただけなら中身が違うと気付いていないのかもしれないけれど、だからと言って今日だけでそんなに入れ込むのもおかしい気がする。

 カイルは真剣な表情を浮かべて、すっとオレの前にひざまずいた。

 な、なんだ? と思っていると、彼は顔を上げてオレを見つめる。その澄んだ瞳を見て、なにを言われるのか予想できなかった。
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