26 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
帰宅 ――2
しおりを挟む食堂に入ると、つまらなそうに頬杖をついたシェリルがいて、オレに気付くとキッときつく睨みつけてきた。
「こんなに遅く帰ってくるなんて、あたくしを餓死させるつもり!?」
「いや、餓死はしねーだろ……」
この屋敷に住んでいる限り、衣食住は約束されているからなぁ。呆れたようにオレが口を開けば、シェリルはキィィと変な声を出す。そして、オレの後ろにいるカイルに気付くと、彼女は目を大きく見開いて、顔を真っ赤にさせた。
「な、なんでカイルがいるの!?」
「カイルは今日から、エリス付きの護衛兼使用人になったんだよ」
「エリスの!? な、なんでですの? あたくしが頼んだときは断ったじゃないッ!」
「シェリル、落ち着きなさい」
ユーインさんがシェリルに近付いて彼女の肩に手を置き、視線を合わせるようにしゃがみ、ゆっくりと言い聞かせるように彼女に向かい合ったが、シェリルはぷいと顔を背けてしまった。もしかして、シェリルはカイルのことが好きなんだろうか? そう考えれば、なんとなくさっきの言葉も納得できる気がした。
「おかえりなさい、エリスさま。食事の用意ができていますよ」
ポーラが嬉しそうに耳をぴくぴくと動かしながら、立ったままのオレを席へと促す。お腹も空いたし、と椅子に座るとシェリルと視線が交わった。めっちゃ睨んでくるー。睨まれるようなことはしてない、と思うんだがなぁ。
「あたくし、今日ご飯いらないッ!」
「あ、シェリル……!」
ユーインさんの手を振り払って、シェリルは食堂から出て行ってしまった。ユーインさんとキャサリンさんは顔を見合わせて、重々しくため息を吐いた。
「本当にどうしちゃったのかしら、シェリル……」
キャサリンさんが頬に手を添えて困ったように眉を下げた。ユーインはシェリルに手を振り払われたのがショックだったのか、硬直していた。大丈夫だろうか。彼はゆらりと立ち上がり、オレに近付いてきたと思ったら、がばっと抱きしめてきた。
そんなにシェリルに振り払われたのが衝撃だったのか……、オレはぽんぽんとユーインさんの背中を叩いてみた。さらに力強く抱きしめられてちょっと息苦しい。
「うう、家族団らんが……」
「なんかすみません……」
「いや、エリスが謝ることじゃないよ。それにしても、本当、シェリルの様子がおかしいな……」
シェリルはカイルが好きだからじゃないの? と心の中で呟いたけど、口にはしない。カイルはただ黙ってオレの近くに立っていたから、彼に声を掛けて軽食をシェリルに持っていって欲しいとお願いした。
「私が、ですか?」
「そう。悪いけど、お願いできない?」
「かしこまりました」
「それと、オレからだって絶対言わないこと。OK?」
カイルは目をぱちくりと瞬かせたが、すぐにこくりとうなずいてくれた。食堂から出て行くのを見て、ゆっくりと息を吐く。ユーインさんは身体を離し、そっとオレの髪を梳くように撫でた。
5
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま



BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

この恋は無双
ぽめた
BL
タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。
サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。
とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。
*←少し性的な表現を含みます。
苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる