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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

帰宅 ――2

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 食堂に入ると、つまらなそうに頬杖をついたシェリルがいて、オレに気付くとキッときつく睨みつけてきた。

「こんなに遅く帰ってくるなんて、あたくしを餓死させるつもり!?」
「いや、餓死はしねーだろ……」

 この屋敷に住んでいる限り、衣食住は約束されているからなぁ。呆れたようにオレが口を開けば、シェリルはキィィと変な声を出す。そして、オレの後ろにいるカイルに気付くと、彼女は目を大きく見開いて、顔を真っ赤にさせた。

「な、なんでカイルがいるの!?」
「カイルは今日から、エリス付きの護衛兼使用人になったんだよ」
「エリスの!? な、なんでですの? あたくしが頼んだときは断ったじゃないッ!」
「シェリル、落ち着きなさい」

 ユーインさんがシェリルに近付いて彼女の肩に手を置き、視線を合わせるようにしゃがみ、ゆっくりと言い聞かせるように彼女に向かい合ったが、シェリルはぷいと顔を背けてしまった。もしかして、シェリルはカイルのことが好きなんだろうか? そう考えれば、なんとなくさっきの言葉も納得できる気がした。

「おかえりなさい、エリスさま。食事の用意ができていますよ」

 ポーラが嬉しそうに耳をぴくぴくと動かしながら、立ったままのオレを席へとうながす。お腹も空いたし、と椅子に座るとシェリルと視線が交わった。めっちゃ睨んでくるー。睨まれるようなことはしてない、と思うんだがなぁ。

「あたくし、今日ご飯いらないッ!」
「あ、シェリル……!」

 ユーインさんの手を振り払って、シェリルは食堂から出て行ってしまった。ユーインさんとキャサリンさんは顔を見合わせて、重々しくため息を吐いた。

「本当にどうしちゃったのかしら、シェリル……」

 キャサリンさんが頬に手を添えて困ったように眉を下げた。ユーインはシェリルに手を振り払われたのがショックだったのか、硬直していた。大丈夫だろうか。彼はゆらりと立ち上がり、オレに近付いてきたと思ったら、がばっと抱きしめてきた。

 そんなにシェリルに振り払われたのが衝撃だったのか……、オレはぽんぽんとユーインさんの背中を叩いてみた。さらに力強く抱きしめられてちょっと息苦しい。

「うう、家族団らんが……」
「なんかすみません……」
「いや、エリスが謝ることじゃないよ。それにしても、本当、シェリルの様子がおかしいな……」

 シェリルはカイルが好きだからじゃないの? と心の中で呟いたけど、口にはしない。カイルはただ黙ってオレの近くに立っていたから、彼に声を掛けて軽食をシェリルに持っていって欲しいとお願いした。

「私が、ですか?」
「そう。悪いけど、お願いできない?」
「かしこまりました」
「それと、オレからだって絶対言わないこと。OK?」

 カイルは目をぱちくりとまたたかせたが、すぐにこくりとうなずいてくれた。食堂から出て行くのを見て、ゆっくりと息を吐く。ユーインさんは身体を離し、そっとオレの髪を梳くように撫でた。
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