上 下
17 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

エリスの護衛 ――1

しおりを挟む

「なによ、そんなにあたくしを見て! あたくしのテーブルマナーに文句があるというのっ?」
「いや、きれいに食べるなと思って」
「あああ当たり前でしょう!」
「でも、ここついてる」

 とんとん、とソースがついているところを自分の口端を人差し指で軽く突いて教えると、シェリルは恥ずかしそうに顔を朱に染めてナプキンで口を拭いた。その仕草も優雅だ。っていうか、オレ以外本当に華やかな顔立ちだから、見ていると眩しさを感じてしまう。

「そういえば、キャサリンから聞いたが、本当に明日で良いのかい?」
「はい、もちろん。早く知りたいですし」
「そうか。なら、ちょうどいいからヒューの息子も紹介するよ。これから、エリスを護ってくれる子だからね」

 ガチャンとスプーンが床に落ちた音がした。どうやらシェリルが落としたようだ。

 そしてわなわなと身体を震わせて、オレに鋭い視線を向けた。拳まで強く握っている。一体どうしたんだ。

「どうしていつも、エリスばかり……!」
「シェリル?」

 キャサリンさんが心配そうに声を掛けた。だけど、シェリルは食事も途中だというのに、食事の席から逃げるように出て行ってしまった。意味がわからなくてユーインさんを見ると、彼らははぁ、と同時に小さく息を吐いた。

「追いかけなくてもいいんですか?」
「シェリルも頭を冷やしたほうがいいだろう」

 淡々とそんなことを言っているけど、目の奥に心配ですって書いてある気がした。ちらりと誰かに目配りをして、視線が合った人がこくりとうなずいてシェリルを追っていく。なんだかんだ、可愛い娘なのだろう。

「ところで、その息子さんってどんな人なんですか?」
「ヒューの息子のこと?」

 首を縦に動かす。明日会うんだろうけど、少しでも情報が欲しい。誰? ってなるだろうし。七年間の『エリス』の記憶がないから、会ったことがある人だとしたら、なんだか申し訳ない気がする。

「そうだね、なんというか……天才、がぴったりな子かな」
「天才?」
「十二歳なんだけど、すべて優秀というか、優秀過ぎるというか……。完璧すぎて子どもっぽくないから、エリスが相手してくれると嬉しいなぁ、と」

 ユーインさん、ヒューの息子のことを気に掛けているんだな。でも、そんな完璧な子をオレに仕えさせて良いのかな? もっと良いところがあるのでは? と首を傾げると、ユーインさんは肩をすくめた。

「シェリルとエリスが五歳の誕生日のときに会っているけれど、エリスとはそれきりだね」

 会ったことあるのか。記憶がないことを伝えていたほうが良いんじゃないかな。なんせオレは『エリス』の記憶がないのだから。それから、今日の姿見のことを伝えて謝ると、「あの部屋に姿見なんかあったかな?」と首を捻っていたが、怪我がなくて良かったと言ってくれた。さすがに『エリス』のことは言えなかった。

 スープを食べ終わったので、ふたりにおやすみなさいと挨拶をして、部屋へと戻りベッドへダイブする。ふかふかのベッドは気持ちが良い。――目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。食べたあとにすぐ眠るのは身体によくないことは知っているけれど、睡魔には勝てなかった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...