4 / 12
4話
しおりを挟む「だからね、アーサーと同室になるって聞いた時に驚いたんだよ。先輩らしく出来るかなぁって」
そう言って花のように微笑むルイ先輩に、俺は「先輩は先輩でしょう?」と答えた。ルイ先輩は目を一瞬瞬かせて、「ふふ」と花が綻ぶように笑った。
「ねぇねぇ、ぼくたちにも挨拶させてくださいよ~!」
「そうそう。ってことで自己紹介。オレは三年のジャック。書記長だ」
「ぼくは二年のエイヴェリー! 書記だよ」
水色に近いシルバーブロンド、好奇心を隠さない茶色の瞳はキラキラと輝いて俺を見ている。人懐っこそうによろしくね! と笑うのがエイヴェリー先輩で、茶色の髪は肩まで伸びてちょっとうっとうしそうにしているのがジャック先輩。髪結ばないのかな? 鳶色の瞳をすっと細めて俺を見ている。な、なんだろ……?
「で、さっきから気になっていたんだけど、それ前見えるのか?」
俺の髪型のことを指しているのだろう。俺は明るく「見えますよ!」と答えた。そして、それと同時にぐぅ、と腹の虫が鳴いた。それを聞いて慌てて腹に手を置くと、ルイ先輩がクスクス笑って、
「おれらもお腹空いたし、ご飯にしようか」
と、言ってくれた。リアム先輩も「そうだな」とうなずき、それぞれ手を合わせて「いただきます」と口にしてから箸を持つ。
異世界の漫画だけど、日本人が描いたからかこういう作法は日本のままだ。ナイフとフォークもちゃんとあるけどさ。和洋中、様々な料理が並んでいるからちょっとしたビュッフェの気分になる。
そしてその料理の美味しいこと……! 茶碗蒸しとか煮物とかの和食も、パンもパスタも、酢豚やチンジャオロースもどれも絶品! 食べるのに不自由しないのって本当にありがたいなぁ……。……まぁ、本当……何でも有りな食事になっているような気がするけれど……。
「それともうひとり、生徒会副会長にユーゴを勧誘した」
「……ッ!?」
「彼は来年、生徒会長になるだろう。しっかりと支えてやってくれ」
にこやかにそう言うリアム先輩に、俺はぽかんと口を開けてしまった……。辺りを見渡してユーゴが居ないか確認したけれど、見当たらなかった。さっきあんな別れ方をしたから、今会ったら絶対気まずい……! と思っていたけれど、リアム先輩が「ユーゴは来ないよ」と肩をすくめた。
「誘ったけど断られた。そのうち生徒会メンバーで歓迎会をするつもり」
「……ユーゴは、その勧誘を受けたんですか?」
こくりとうなずいたリアム先輩に、俺はゆっくりと息を吐いた。マジか。……そう言えば確かにユーゴとアーサーは生徒会の役員だった。ユーゴが副会長なのも、アーサーが庶務長なのも原作通りだ。ただ、これはもう少し先の話だったような気がする。特に、アーサー……俺が庶務長になるのは今の生徒会が解散してからだったハズだ。
……俺が原作にない行動をしていたから、ストーリーが違くなった?
考え込んだ俺に、ルイ先輩がぽんと俺の肩を叩く。
「大丈夫だよ、きっと仲良くなれるよ」
……何か誤解されているような気がする。別にユーゴと仲良くならなくても、俺は困らないんだけど……。むしろ、ユーゴの幸せを考えると俺が傍にいないほうが良いのでは? と思いつつ、からあげを頬張る。公爵家の次男だし、お近付きになりたい人は山のように居るだろう。そのうちに好きな人も出来るだろうし、……深く考えなくても良いよな、多分。
「それに生徒会の仕事のことも、ちゃんとフォローするからさ」
ぱちんとウインクしたのはチェスター先輩。……まぁ、ユーゴとふたりきりになることはあまりないだろうし……。でも、生徒会ってそんな簡単に入って良いのだろうか……。ちょっと不安になってそのことを口にすると、先輩たちはキョトンとした顔をしていた。
「え、だって代々任命式だよ、この学園。そりゃ色々基準はあるけどさぁ」
「そ、そうなんですか?」
「そう。男爵から公爵まで、様々な爵位の人たちが集まるからね。その中でも公爵家や王族は確実に生徒会入りが決められている。他の人たちはそれなりに向いていそうな人たちを勧誘するって感じ」
選挙ないんだ……。漫画でどうだったっけ……。覚えてない。ただユーゴとアーサー、リアム先輩とルイ先輩がイチャイチャしているところしか覚えていない……! ただただ萌えのために読んでいた漫画だから、大まかなストーリーを覚えているくらいで、細かい設定なんかは思い出せないんだよなぁ……。
「……あれ、ではどうして兄が生徒会長だったのでしょうか?」
だってうちは男爵家だ。男爵家の人間が生徒会長になるって、かなり珍しいのでは? と考えていたら、その答えはリアム先輩が眉を下げて小さく息を吐きながら教えてくれた。
「サイラス先輩は魔法の才がとても……素晴らしくてな。全生徒に認められていたよ」
……兄よ、一体何をした……?
「兄に魔法の才があるのは俺も知っていますが……。そんなに?」
「魔法の実技で的を全部壊したりしてたよ~」
「えっ」
いや、それどういう状況で……? って言うか、兄はそんなこと一言も口にしてくれなかった。長期の休みで屋敷に戻った時に、俺に魔法を教えてくれたりはしたけれど……考えてみれば学園のことはあまり話してくれなかったなぁ。
「それにしても、サイラス先輩金髪だったけど……アーサーは茶髪なんだ?」
ギクッと身体を硬直させると、ジャック先輩が「魔法で染めているように見える」と呟いた。正解です。……あれ、そう言えばジャック先輩とリアム先輩って瞳の色同じなんだなぁとふたりを交互に見ると、ルイ先輩が小さく笑う。
「実はリアムとジャック先輩は従兄弟なんだよ。リアムのほうが数ヶ月年上だけどね」
「え、そうなんですか!?」
そんな設定あったっけ? 全然覚えてない。……いや、設定も何も関係ないか。確実に原作のストーリーとは違う展開になっているのだから……まぁ、目立たず、のんびりと、ボーイズなラブを傍観しようとひっそり意気込んだ。
1
お気に入りに追加
1,394
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します
バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。
しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。
しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生───しかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく……?
少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。
(後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。
文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。
また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる