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2話
しおりを挟む入学式は無事に終わった。新入生代表はユーゴだった。ユーゴの設定を思い返してみる。成績優秀、人当たりも良く、常にモテている。所謂陽キャと言うやつだ。だが、そんなユーゴは何と一目惚れをしてしまう! それが昨日の出来事なんだよな、ユーゴはアーサーの容姿に惚れる。が、昨日の俺はまさに顔を隠していたから惚れられるわけがない!
つーか、この漫画互いが一目惚れしていて、入学式が終わってクラスメイトの自己紹介時点で、ユーゴとアーサーが互いのことに気付いていて、一日で仲良くなってラブラブになるノンストレスな漫画だったんだよ。エッチが主な漫画だったし。案外ユーゴが独占欲強いんだよなー。
ま、昨日のことなんて覚えていないだろ。そんなことよりもこのクラス、中々BLカップルが多そうな気がする。ああ、目の保養……!
「全員揃ってるかー、ホームルーム始めるぞー」
そして、ここ異世界のハズなのに、学園は大学式ではなく高校式なのが面白いところだよな……。生徒会もちゃんとあるんだぜ……ルイ先輩は副会長だ。推せる。次の生徒会長ルイ先輩だろうなぁ。
「じゃあ順番に自己紹介、アーサーから」
「はい。アーサー・デュボアです。デュボア男爵家の次男です。デュボアに遊びに行く時は、是非自然を感じていってください」
なんせ自然しかない土地だからな! ぺこりと頭を下げるとぱちぱちとまばらな拍手が聞こえた。椅子に座って次の人が自己紹介をしていく。次々と終わって、最後はユーゴだ。
「ユーゴ・ルグラン。公爵家の次男。よろしくお願いします」
おお、漫画と一字一句同じセリフ。公爵家の次男ってこともあり、かなりの視線を浴びている。イケメンでもあるしな! この漫画、イケメン率高いことでも有名だった。ルイ先輩だって美形だし。美形と言うか……美人? ちなみに先輩は生徒会長と付き合っている。
自己紹介と明日からの授業のことを担任の先生が話して今日は解散。みんながそれぞれ帰る支度を始めた。俺はどうしようかと悩み……。ちょっと校内を見回ってから寮に戻ることを選択した。確か、漫画ではすぐに帰ろうとしたところをユーゴが呼び止めるんだよな。
みんなが帰って行く流れに沿って俺も教室を出た。そして、一年の教室を見回る。結構な数の教室がある。……すげー、漫画で見たまんまだ。ちょっとミーハーが入っていることは気にしないで欲しい。だって俺、この漫画のことすっげー好きで追ってたから。
二階に上がると二年、三階に上がると三年の教室があるのか。わかりやすくて良い。二、三年生はこのまま授業が始まるみたいだから、そのまま上まで行ってみた。屋上ってどこだろ。あ、四階に貴族用のサロン発見。主に生徒会が使っているから、ある意味生徒会室。
その上が屋上か。高いところから王都を眺めるのも乙だろうとワクワクしながら屋上に向かった。屋上に続く鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
屋上へ足を踏み入れて、さぁっと流れる風が頬を撫でるのを感じて目元を細める。フェンスに近付いて王都を見渡した。
「おお……!」
なんて素晴らしい風景なのだろう。綺麗な街並みに木々が見える。王都ってこんなに綺麗なところだったのか……! そりゃあ漫画で見てはいたよ? 見てはいたんだけどね、実際見ると感無量と言うか……。思わず涙が出てしまう。この世界に生まれ変わって良かった! よーし、BLカップルを応援する、傍観者になるぞー! と意気込んでいると、すっとハンカチが差し出された。
「もうホームシックか?」
「え、ぁ……ぃ、いえ……」
びっくりした。なぜここにユーゴが居る!? ハンカチを断ろうとしたけれど、ユーゴがぐいっとハンカチを押し付けてきたので受け取ってしまった。顔を見せないように俯きながら、感激して泣いた涙を拭いて、「洗って返します」と伝えると、ユーゴが「気にしなくて良い。……と言うか、なんで敬語? お前クラスメイトだろ」と言われた。
「公爵家の方に、男爵家の俺が……敬語を使わないのは、おかしいでしょう」
まぁ、原作ではタメ口だったけどね! 会って初っ端からタメ口だったけどね! ユーゴが俺をマジマジと見ている気がする。
「……あの、俺に何か用がありましたか?」
「……いや、面白いなと」
興味を惹かれただと……!? おかしい、興味を抱かれることはしていない……! 落ち着け俺。本当に落ち着け。はっ、もしかしてこれがよく読んだ異世界転生物にある強制力と言うやつか……!?
ぐるぐると考えていると、カシャンとフェンスにユーゴが手を置いた。壁ドンならぬフェンスドン? ……顔近付けるのやめてもらいませんかね、ビビるわ。ユーゴの身長が結構高めだからなぁ……。とりあえず俺を見るのやめてください。
「……用がないのなら、俺は帰りますね……!」
逃げるようにそう言うと、ユーゴが更に俺を見てくる。何なんだ……? ユーゴが俺の髪に触れると、そこから魔法が解けていく。げっ、と思った瞬間にはもう遅くて、髪を染める魔法が解けて茶色から金色へと変わってしまった。
「なんで髪を染めていたんだ?」
面白いってもしかしてそっち!? 俺が髪を染める魔法を使おうとしたら、……染まらない! ユーゴが触れたままだからか!?
「顔も隠してるし」
「わっ」
前髪を上げられてくしゃりと撫でられる。うわー、前がすごーく見やすーい、じゃねぇよ!
「度の入ってない眼鏡って何の意味が?」
ばちっと視線が合う。近い。いくらBL漫画の中でもここまで一気に急接近するか!? ってくらい近い! いや、これ俺じゃなければ、遠目から見たら萌シチュエーションかもしれないけど、俺自身にやられるのはノーセンキューです!
だらだらと冷や汗が流れる。魔法が使える世界だからと嬉々として魔法で染めたのがダメだったのだろうか。
「隠さないほうが可愛いのに」
「男に可愛いはないだろ!」
あ、敬語付けるの忘れた。ぱっと手を払って怒ってみせると、意外そうに目を丸くした。そして――「そうこなくっちゃ」と面白そうに笑った。……しまった。興味を惹かせたようだ……!
「良いじゃないか、『可愛い』。美人は三日で飽きるというし」
「美人に謝れ!」
ルイ先輩の容姿に飽きるとは思えないし……。もしやユーゴ、公爵家の人間だから見目麗しい人たちに見慣れている……? それはあり得る。うん。うちも結構なイケメンと美人な人たちに囲まれていたけど……。母さん美人だし、メイドも美人だし、父さんと兄さんはイケメンだし、あれ、俺だけ顔の系統違くない!?
「結構気も強いと来た。……面白いな、お前」
「是非違う人に興味を持ってください、それじゃ!」
しゅんっと勢いよくしゃがんで隙をつき、ダッシュで屋上から逃げた。階段を全速力で走り、寮へと戻る――前にトイレに駆け込んで髪色を茶色にした。いつもの自分の姿を見て、ほっと息を吐く。やっぱりこっちのほうが落ち着く。トイレを出てきょろきょろと辺りを見渡して、寮へ戻った。
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