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しおりを挟む突然だが俺は転生者だ。しかも、前世で読んでいたBL漫画の主人公に生まれ変わった。それに気付いたのは十歳の頃、子猫が木に登ったは良いけれど降りれなくなって、助けようと思い木に登り、子猫を助けたらその猫が抱かれるのを嫌がって暴れ、猫を抱いたまま木から落ちた。……頭をぶつけたらしく、屋敷内が騒がしくなったのを覚えている。兄さんが慌てて回復魔法を掛けてくれなかったら、どうなっていたことか……。
ちなみにその時の子猫は屋敷のペットとして飼われることになった。女の子だったからシャルと名付けて可愛がり、俺らはすっかりシャルに魅了された。……おっと話が逸れた。
そう、頭をぶつけて思い出したのだ。この世界が、BL漫画の世界であること、そしてなんと俺が、その漫画の主人公として生まれ変わったことを!
俺は確かに腐男子だったが、それは彼らの恋を応援したいという傍観者的な立ち位置であって自分がなりたいとは思っていない。
――と、言うわけで主人公降ります。俺は俺の道を歩むぜ! と兄さんから魔法を習って髪の色を金髪から茶色へと変え、前髪を伸ばして目元を隠す。視力は悪くなっていないけど、顔を隠すために伊達眼鏡を掛けて、うん、どう見ても根暗くんだ!
「アーサー、どうして可愛い顔を隠すのさ」
「いや、可愛く思われたくないので!」
ぐっと意気込んでそう叫ぶと、兄さんが「可愛いのに……」と残念そうに呟いた。
明日から学園に通わないといけない。しかもこの屋敷から遠いから(なんと王都に行くのだ!)、寮なのだ。ここから離れるのは悲しいし寂しいけれど、俺は知っている。……あの学園、男子校だから色んなBLカップルが居ると言うことを……!
そもそもBL漫画だからな、メイン以外にも居るんだよ、カップルが。サブCPも可愛くてなぁ……。応援したくなるんだよ。と言うわけで、俺は主人公をするつもりはないので、俺の相手役である公爵家のユーゴには、別の人と幸せになってもらいたく存じます!
「アーサー、お手紙書いてね、寂しくなったらこのオルゴールを聞いてね」
「はい、お母様。ありがとうございます!」
「アーサー、気を付けていくんだよ。楽しんで来なさい」
「はい、お父様。王都へ行くのは初めてなので、楽しんで来ます!」
「アーサー、やっぱり髪型変えない?」
「絶対イヤです。それでは、行ってきます!」
にこやかに手を振って馬車へ乗り込む。荷物は既に寮に送ってあるし、俺の寮の相部屋の子はサブCPの受けの先輩だから、身の危険はないだろう、多分。他にも多分居るであろうカップルたちをこっそり眺めて萌えさせて……いや、応援させてもらおう。
馬車で半日移動したところに、王都へ繋がるテレポートがあるからそこから王都に向かうのだ。便利で良いよな~。遠いところでも一瞬で行けるのって。
半日馬車に揺られるから、俺は寝ることにした。すやすやと眠る。どこでも眠れるのは俺の特技だ。寝ていたからあっと言う間についた。早い。
「では、アーサー坊ちゃんお気をつけて」
「うん、ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
御者のおっさんに手を振って、テレポートするために並ぶ。明日から学園に通う人たちが集まってきているみたいだ。
サクサク進んで俺の番になった。テレポートするの初めてだから楽しみだったんだよね。テレポートの扉を潜って、足を踏み入れると、すぐに浮遊感が襲ってきた。そして、トン、と誰かにぶつかってしまった。
「すみません……!」
「……いや、大丈夫か?」
「大丈夫で……」
わぁお、原作の強制力か、ここでユーゴに会うとは思わなかった。公爵家の次男、ユーゴ。そう言えば一巻ではここから始まっていた。とはいえ、今の俺は地味! 興味を惹くとは思わない!
「どうかしたか?」
「あ、いえ。何でもないです」
同級生だと言うのに思わず敬語を使ってしまう。公爵家の人間だと言うことも知ってるし。それじゃ、とユーゴから離れてさっさと学園の寮へ逃げ込んでしまおう。学園に通う学生たちが歩いていくほうへ、俺も進んでいく。そして学園について俺はワクワクしながら足を踏み入れた。入学式は明日だけど、みんなちょっと早めに来てルームメイトと挨拶を済ませておくのだ。
寮長が待っていたから、俺は自分の名前を告げてルームキーを貰い書かれた番号に向かう。番号の部屋まで向かうと、一度深呼吸をしてからノックをした。
「どうぞ」
と優し気な声が聞こえた。ガチャリと扉を開いて部屋へと「お邪魔します」と入ると、優しい声の持ち主が「ふふ」と笑ってこっちおいで、と手招いた。ぱたんと扉を閉めて、近付いて行く。――眩しい、なんて眩しんだ、この人……!
柔らかなストロベリーブロンドに、紫の瞳。すらりとした鼻筋にちょっと厚めな唇! これぞまさに愛されるために生まれた人! 俺、この人を推していたから会えて光栄ですセンパイ……!
「初めまして、おれはルイ。今日から君のルームメイトだ」
「初めまして、アーサーと申します。今日からよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて挨拶をすると、ルイ先輩は「頭を上げて」と柔らかく言って、俺は言われたとおりに頭を上げた。すると、ルイ先輩は俺のことをじ~っと見て、
「それ前見えるの?」
と聞いて来た。目元を隠すために伸ばした前髪を見てそう言ったのだろう。俺はこくりとうなずいた。こっそり見つめることが出来る髪の長さなので、結構重宝している。屋敷では主に兄さんを観察していた。いやぁ、流石嫡男、魔法の腕はエキスパートだわ、剣も人並み以上に扱えるわ、乗馬もうまいと来た。弱点なんてなさそうな兄さんだった……。
「案外快適に見えますよ」
「へぇ……。邪魔そうなのに、ファッション?」
「俺にとっては必須なのです」
何せ目指しているのは地味だから! 目の色だけは変えなかったけど(俺の魔力的にきつい)、髪色は魔法で染めているからそう簡単に解けることはないだろう。
――そう思っていた昨日の俺をぶん殴りたい。
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