上 下
1 / 12

1話

しおりを挟む

 突然だが俺は転生者だ。しかも、前世で読んでいたBL漫画の主人公に生まれ変わった。それに気付いたのは十歳の頃、子猫が木に登ったは良いけれど降りれなくなって、助けようと思い木に登り、子猫を助けたらその猫が抱かれるのを嫌がって暴れ、猫を抱いたまま木から落ちた。……頭をぶつけたらしく、屋敷内が騒がしくなったのを覚えている。兄さんが慌てて回復魔法を掛けてくれなかったら、どうなっていたことか……。
 ちなみにその時の子猫は屋敷のペットとして飼われることになった。女の子だったからシャルと名付けて可愛がり、俺らはすっかりシャルに魅了された。……おっと話が逸れた。
 そう、頭をぶつけて思い出したのだ。この世界が、BL漫画の世界であること、そしてなんと俺が、その漫画の主人公として生まれ変わったことを!
 俺は確かに腐男子だったが、それは彼らの恋を応援したいという傍観者的な立ち位置であって自分がなりたいとは思っていない。
 ――と、言うわけで主人公降ります。俺は俺の道を歩むぜ! と兄さんから魔法を習って髪の色を金髪から茶色へと変え、前髪を伸ばして目元を隠す。視力は悪くなっていないけど、顔を隠すために伊達眼鏡を掛けて、うん、どう見ても根暗くんだ!

「アーサー、どうして可愛い顔を隠すのさ」
「いや、可愛く思われたくないので!」

 ぐっと意気込んでそう叫ぶと、兄さんが「可愛いのに……」と残念そうに呟いた。
 明日から学園に通わないといけない。しかもこの屋敷から遠いから(なんと王都に行くのだ!)、寮なのだ。ここから離れるのは悲しいし寂しいけれど、俺は知っている。……あの学園、男子校だから色んなBLカップルが居ると言うことを……!
 そもそもBL漫画だからな、メイン以外にも居るんだよ、カップルが。サブCPも可愛くてなぁ……。応援したくなるんだよ。と言うわけで、俺は主人公をするつもりはないので、俺の相手役である公爵家のユーゴには、別の人と幸せになってもらいたく存じます!

「アーサー、お手紙書いてね、寂しくなったらこのオルゴールを聞いてね」
「はい、お母様。ありがとうございます!」
「アーサー、気を付けていくんだよ。楽しんで来なさい」
「はい、お父様。王都へ行くのは初めてなので、楽しんで来ます!」
「アーサー、やっぱり髪型変えない?」
「絶対イヤです。それでは、行ってきます!」

 にこやかに手を振って馬車へ乗り込む。荷物は既に寮に送ってあるし、俺の寮の相部屋の子はサブCPの受けの先輩だから、身の危険はないだろう、多分。他にも多分居るであろうカップルたちをこっそり眺めて萌えさせて……いや、応援させてもらおう。
 馬車で半日移動したところに、王都へ繋がるテレポートがあるからそこから王都に向かうのだ。便利で良いよな~。遠いところでも一瞬で行けるのって。
 半日馬車に揺られるから、俺は寝ることにした。すやすやと眠る。どこでも眠れるのは俺の特技だ。寝ていたからあっと言う間についた。早い。

「では、アーサー坊ちゃんお気をつけて」
「うん、ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」

 御者のおっさんに手を振って、テレポートするために並ぶ。明日から学園に通う人たちが集まってきているみたいだ。
 サクサク進んで俺の番になった。テレポートするの初めてだから楽しみだったんだよね。テレポートの扉を潜って、足を踏み入れると、すぐに浮遊感が襲ってきた。そして、トン、と誰かにぶつかってしまった。

「すみません……!」
「……いや、大丈夫か?」
「大丈夫で……」

 わぁお、原作の強制力か、ここでユーゴに会うとは思わなかった。公爵家の次男、ユーゴ。そう言えば一巻ではここから始まっていた。とはいえ、今の俺は地味! 興味を惹くとは思わない!

「どうかしたか?」
「あ、いえ。何でもないです」

 同級生だと言うのに思わず敬語を使ってしまう。公爵家の人間だと言うことも知ってるし。それじゃ、とユーゴから離れてさっさと学園の寮へ逃げ込んでしまおう。学園に通う学生たちが歩いていくほうへ、俺も進んでいく。そして学園について俺はワクワクしながら足を踏み入れた。入学式は明日だけど、みんなちょっと早めに来てルームメイトと挨拶を済ませておくのだ。
 寮長が待っていたから、俺は自分の名前を告げてルームキーを貰い書かれた番号に向かう。番号の部屋まで向かうと、一度深呼吸をしてからノックをした。

「どうぞ」

 と優し気な声が聞こえた。ガチャリと扉を開いて部屋へと「お邪魔します」と入ると、優しい声の持ち主が「ふふ」と笑ってこっちおいで、と手招いた。ぱたんと扉を閉めて、近付いて行く。――眩しい、なんて眩しんだ、この人……!
 柔らかなストロベリーブロンドに、紫の瞳。すらりとした鼻筋にちょっと厚めな唇! これぞまさに愛されるために生まれた人! 俺、この人を推していたから会えて光栄ですセンパイ……!

「初めまして、おれはルイ。今日から君のルームメイトだ」
「初めまして、アーサーと申します。今日からよろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げて挨拶をすると、ルイ先輩は「頭を上げて」と柔らかく言って、俺は言われたとおりに頭を上げた。すると、ルイ先輩は俺のことをじ~っと見て、

「それ前見えるの?」

 と聞いて来た。目元を隠すために伸ばした前髪を見てそう言ったのだろう。俺はこくりとうなずいた。こっそり見つめることが出来る髪の長さなので、結構重宝している。屋敷では主に兄さんを観察していた。いやぁ、流石嫡男、魔法の腕はエキスパートだわ、剣も人並み以上に扱えるわ、乗馬もうまいと来た。弱点なんてなさそうな兄さんだった……。

「案外快適に見えますよ」
「へぇ……。邪魔そうなのに、ファッション?」
「俺にとっては必須なのです」

 何せ目指しているのは地味だから! 目の色だけは変えなかったけど(俺の魔力的にきつい)、髪色は魔法で染めているからそう簡単に解けることはないだろう。




 ――そう思っていた昨日の俺をぶん殴りたい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。 しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。 しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生───しかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく……? 少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。 (後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。 文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。 また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

処理中です...