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幕間
あなたを、愛しています。(本編4章79話後/R18)
しおりを挟む無事に終わった式典から屋敷へ帰り、サディアスとニコロはゆっくりと息を吐いた。サディアスが自分の胸元に手を置いて、表情を緩ませた。
「今日が一番緊張した……」
「俺は一番驚いたよ……」
式典の最中、公開プロポーズをしてきたサディアスに、一番驚いたのは自分だろうとニコロは思う。リハーサルにはないことばかりだったし、まさか式典の途中でプロポーズされることになるとは思わないだろう。
「お帰りなさいませ、サディアスさま、ニコロさん」
「カリスタ、ただいま。部屋の準備は?」
「ばっちりですわ」
にこりと微笑むカリスタは小さく頭を下げた。そして、頭を上げるとサディアスとニコロを見て頬に手を添え、ほう、と息を吐く。そんな彼女にサディアスとニコロは首を傾げたが、すぐにカリスタはふふふ、と笑って、
「見ましたわ、式典の中継」
とだけ言った。その言葉で、サディアスは「ああ」と納得したようにうなずいた。ニコロはハッとしたような表情を浮かべる。中継されていたことに気付いたのだ。あの時はサディアスのプロポーズに驚き過ぎて何も考えられなかったが、あの場面をどれだけの人に見られていたのだろうかと頬を赤らめた。
「どうか、お幸せに。あ、食事はどうなさいますか?」
「軽いのをお願い。わたしの寝室まで」
「かしこまりました」
もう一度ぺこりと頭を下げてカリスタは去っていった。赤くなった頬を隠すように両手で押さえていたが、サディアスがニコロの手首を掴んで「行こうか」と言って、歩き出した。
サディアスの寝室につき、置いてあるソファに座る。それから五分もしないうちにメイドがリゾットを持って来た。ふたりでそれを食べて、食器を片付けるためのメイドが出て行ってから互いに小さく息を吐く。
「……ニコロ。ニコロに話していない話があるんだ」
真剣な表情でサディアスがニコロを見つめながら言った。ニコロは首を傾げて、ただ黙ってサディアスに話の続きを促す。
「わたしの、スキルのことを……」
「……それは本当に、俺が聞いて良い話なのか? サディアスが言いたくないことなら、無理に言わなくても良いんだぞ?」
言い辛そうに視線を逸らしたサディアスに、優しく言葉を掛けるニコロ。サディアスはふるふると首を横に振って、ゆっくりと自分の心を落ち着かせるように数回深呼吸を繰り返して、それから「嫌いにならないでね」と懇願するように言ってから、ぎゅっとニコロの手を握り、
「わたしのスキルは――人の心が読める、スキルなんだ」
「へぇ」
あまりにもあっさりと言われてサディアスは首を傾げた。怒らないの? とばかりにニコロを見つめるサディアスに、ニコロは肩をすくめた。
「あんたのことだから、俺の心は読んでないんだろ? 知るのが怖いから」
「……ニコロにはわたしの考え、バレバレなの……?」
「バレバレというか、俺の知っているサディアスならそのスキルを使う時には理由があると思うから、だな。悪戯に人の心を読むとは思えない」
サディアスを信頼しているからか、それとも――……。それでも、サディアスは嬉しかった。自分のことを信じてくれたことも、自分のことをわかってくれていることも。サディアスはずっと、ニコロに自分のスキルのことを伝えていないことを気にしていた。このスキルのことを知ってニコロが自分の元から離れたらどうしようと、ずっと考えていたからだ。だが、生涯を共にするとなれば別だ。
(わたしは――ニコロに、自分のことを丸ごと愛してもらいたかった、のかな……?)
自分でも自分の考えがわからなくなる時がある。ただ、受け止めてもらえたいう安堵からか、ニコロの手を離した。その手を、今度はニコロが取った。そして立ち上がらせる。
「ずっと気にしていたのか?」
「まぁね。でも、ニコロにそんな風に言われるなんて、思ってなかったのかも」
拒絶されると思っていたから……とどこか自信なさげに笑うサディアスに、ニコロはまぁ確かに、と心の中で呟く。あまりにもあっさりと受け止められたのは、自分がサディアスのことを愛すると決めただろうかと肩をすくめてから彼の手を引いた。ぎゅっと抱きしめてみると、サディアスが驚いたように躰を硬直させた。
(自分からはぐいぐい来るのに、俺がこう言うことすると驚くんだよなぁ……)
ぽんぽんと背中を叩くと今度はぎゅうっと力強く抱きしめられたニコロは、ギブギブギブと言いながらサディアスの背中をバシバシ叩いた。流石に現役騎士団長の力は強かった。
「それより、服ありがとうな。助かった」
「ううん、ニコロに似合う服はたくさん買っていたから、使ってくれて嬉しいよ」
山のようにあるニコロ用の服。サディアスがニコロに似合いそうという理由だけで買って来ては拒まれた服たちが、今活躍している。そのことがとても嬉しくて、明るい口調でそう言うサディアスにニコロが「ふーん」と興味なさそうに返事をした。
(どんだけ買ったのかわからないくらいあるもんな……)
サディアスの屋敷の一室は完璧にニコロ用の服で埋まっている。自分の服よりもニコロ用の服のほうが多い。そもそも聖騎士団は制服なのでそんなに着替えを用意しなくても良いということもあり、自分よりも好きな人に着せる服のほうが選んでいて楽しかったのだ。
「……脱がせはくれねぇの?」
すっと、サディアスの首に手を回して顔を覗き込むようにして見れば、サディアスが驚いたように、そして同時にとても嬉しそうに口角を上げた。そのまま顔を近付けてキスをしようとしたが、その前にニコロが手のひらでサディアスの唇を塞いだ。
「するならあっち」
こくりとうなずくサディアスに、ニコロは小さく笑った。
ベッドまで移動して、唇を重ねながら互いの服を脱がし合う、ボタンを外し、ベルトを外し、服の上から揉むように股間を弄れば、ニコロがびくりと躰を震わせた。
くちゅくちゅと言う水音が聞こえて、ニコロの頬が赤く染まる。聴覚を刺激されるのは気恥ずかしさが勝つ。
唇が離れて代わりにとさっとベッドへニコロを押し倒し、するりとニコロの頬を撫でた。
じっと見つめられて、ニコロは視線を逸らしつつもサディアスの服を脱がせた。露わになった素肌に手を当てると、丁度心臓の上だったのか鼓動を感じた。早い。その鼓動の音が愛おしい。
「……ニコロ、ニコロ。わたしの、ニコロ」
うっとりとした声だった。心底愛おしそうに名を呼ばれたニコロは、眉を下げて微笑んだ。そして、素肌から手を移動させてその口を閉じるために唇を重ねた。聞いているほうが恥ずかしくなるくらいの、甘い声だったのだ。
「……んっ」
重なった唇の隙間から、サディアスの舌が入ってくる。ニコロの口内を舐め、舌を甘噛みしたり吸ったりとして、ニコロも負けじと舌を絡める。別に競い合っているわけではないが、キスに夢中になりながらもサディアスの手がニコロの素肌に触れて、胸の頂きを軽く摘まんだ。鼻から抜けたような声がニコロから上がり、サディアスはすぅっと目元を細めてキスをしながらそこばかりを刺激する。
「んっ、んん……ッ」
ちゅくちゅくと水音が聞こえる。くりくりと乳首を弄られると、それだけで腰にクる。次第にジンジンと熱を帯びる乳首に、サディアスの動きを止めようと手首を掴む。だが今度は反対の手で乳首を弄られた。両方を弄られて、甘い痺れを感じて「んんっ」とくぐもった声を出した。
唇を離して、恍惚の表情を浮かべるサディアスを見て、ニコロはごくりと喉を鳴らした。綺麗な顔をしているのは理解していたが、こうやって欲望を見せる表情をきちんと見るようになったのは最近のことだ。
「ニコロ……?」
「……いや、きれーな顔してるよなぁと」
クニクニ乳首を捏ね繰り回すサディアスにぽつりと呟けば、サディアスは目を瞬かせて、それからふっと笑みを浮かべた。それからすぐに乳首から手を離してニコロの服を全て脱がした。ニコロも、サディアスの服を脱がして、既に緩く勃ち上がっているのを見て、そっと手を伸ばそうとした。すると、
「一緒にしようか」
とナイトテーブルの引き出しから小瓶をふたつ取り出してひとつをニコロに渡した。ローションの入っている小瓶を渡されてニコロはサディアスのことを見た。
「ニコロのお尻をこっちにむけて跨って、ニコロはわたしのをしてくれる?」
「……もしかして」
「そう、そのローションは舐めても大丈夫なやつ。甘いの好きでしょ?」
なるほどね、とニコロがサディアスに言われたように彼の上に跨り、小瓶を開けて中のローションをサディアスの股間に垂らした。たっぷりと掛けると、冷たいのかサディアスの躰が一瞬震えた。すり、と手で擦りつけてから口に含む。
(……甘い)
はちみつのように甘いローションだ。ちろちろと先端を刺激したり、喉を使って愛撫していくと、口の中で質量が増す。サディアスもローションの蓋を開けてたっぷりと取り出すと、ニコロの後孔に塗り付けて指を一本挿れていく。同時にニコロのモノも刺激しながら、ナカを広げていく。
「ん、ぁ……。ふっ……」
慎重にナカを解していくサディアスに、ニコロも舌を使ったり手を使ってサディアスを絶頂へと導こうとする。だが、増えて行った指で前立腺を刺激されてサディアスのモノを口から抜いてしまった。
「あっ、ん……ッ」
「……もっと声出しても良いんだよ?」
ふるふると首を横に振るニコロに、「そっかぁ」と言いながらもサディアスはぐちゅぐちゅと音を立ててニコロのナカを指で愛撫した。前立腺を刺激して、くるくるとナカを広げていく。三本目の指が入る頃には、ニコロは肩で息をしていて、指を引き抜くと誘うようにくぱくぱと収縮していた。
「――挿れていい?」
「……聞くな、バカ」
その声は、確かに甘さが含んでいた。
サディアスは「ふふ」と笑う。ニコロはサディアスの躰からベッドへと移動して、サディアスはニコロに覆いかぶさった。そして、ニコロの膝裏を掴んで広げると、ぐっと自分のモノをニコロのナカに挿れていく。
ニコロの躰に負担を掛けないように、ゆっくりと。ナカがサディアスのモノを締め付ける。痛みよりも甘く痺れるような快感がニコロの全身を駆け巡った。
「……っ、ぁぁあ……」
「全部入ったよ、ニコロ。ニコロのナカ、すごく熱くて気持ちいい……」
欲望のままに動きそうになる自分を制するように深呼吸をしてから、サディアスはニコロを見た。馴染むまでこのままで、と思っていたら、するりとサディアスの頬にニコロの手が添えられた。
「……ニコロ?」
「サディアス……。あなたを、愛しています」
サディアスは大きく目を見開く。ニコロの声は優しく、サディアスの心にしみ込んだ。やっと言えた、とニコロの心の声が聞こえた。
「ニコロ、愛してる……ッ」
泣きたくなるのを堪えて、サディアスは腰を動かし始めた。ニコロと恋人になれたのも、プロポーズを受けてもらえたのも、サディアスにとっては奇跡に等しいくらいの出来事で……やっと手に入れた、と思った。手に入れたら、今度はもっとと望んでしまう。
「ァッ、ぁ、だめ、だ、おく……ッ、だめ……ッ」
「ニコロ、ニコロ……っ」
するりとニコロの左手に自分の手を絡めて、奥へ奥へと入り込んでいく。ニコロのナカを堪能するように目を閉じると、ニコロの腕がサディアスの首へと回った。ぎゅっと抱き着いて来たニコロに気付いて、「ニコロ?」と声を掛けると、
「こっちのほうが安心する……」
と小声で言われて、サディアスはぎゅうっとニコロを抱きしめながら最奥を突いた。ニコロが「あっ」と一段と艶のある喘ぎ声を出して、サディアスはそこを狙うように腰を動かし、ニコロの口から喘ぎ声が止まらなくなった。突かれるたびに甘い声を上げるニコロに、サディアスの情欲が増えていく。
「ぁ、ぁあ、ァァァああっ」
「ニコローー好き。愛してる……!」
その日初めて、ニコロは自分のモノに触れずに白濁の液体を放った。
翌日、目を覚ますと朝だった。躰が綺麗に洗われていることに気付いて、ニコロは昨夜のことを思い出して顔を赤らめる。そしてふと、ナイトテーブルの上に紙が置かれていることに気付いてベッドから起き上がり、その紙を手にして文字を眺めるとさらに顔を赤くした。
「おはよう、ニコロ。……気付いた?」
「おはよ。そりゃ、これだけわかりやすいところにあれば……。って言うか準備早くねぇ?」
「ふふ。ねぇ、ニコロ」
――わたしと結婚してくれる?
そう言おうとしたサディアスの唇を、ニコロが塞ぐ。そしてすぐに、ナイトテーブルの引き出しからペンを取り出すとさらさらとその紙に自分の名前を記入した。
「提出すれば婚姻関係が結ばれるな」
「……結婚式の準備をしないとね」
「……そうだな」
ぽん、とサディアスの頭を撫でるニコロに、サディアスは心底嬉しそうに微笑んだ。きゅっと指を絡めると、ニコロの左手の指輪が光に反射するようにきらりと光った。
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