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幕間
2章28話の幕間
しおりを挟む眠さなんて感じさせないほど、サディアスの足取りはしっかりしていた。それでも時折小さく肩が上がっているのを見て、ニコロはこっそりとため息を吐く。
(そろそろ離してくれねーかな)
ぎゅっと握られた手首に視線を向けた。立ち止まろうにもどうも視線が刺さる。聖騎士団の服を着ていなくても、その容姿からサディアスは目立つ。そんな人に手を引っ張られているのだからニコロにも視線を向けられる。
サディアスは人の視線に慣れているだろうが、ニコロは慣れていない。居た堪れなくなって手を離してもらおうと口を開けると、サディアスがいきなり立ち止まった。
「うわっ」
「あ、ごめん。大丈夫かい?」
「……平気です」
いきなり立ち止まったからそのままぶつかってしまった。片手で鼻を擦りながら答えるニコロに、サディアスは申し訳なさそうに眉を下げる。
「全く、どこまで行く気ですか」
「ああ、うん。どうしよう。どこに行こうね?」
「……やっぱり眠いんでしょう。あーもうっ」
乱暴にサディアスの手から逃れると、逆にサディアスの手を取ってニコロが歩き始める。辺りを見渡して、それから近くの宿屋を見つけるとそこに向かった。
ニコロが宿屋に入ると、ニコロの顔を知っているのか、宿屋の主人が「久しぶりじゃないか、ニコロ!」と明るく声を掛けてきた。
「暫く見なかったから、遠くに行っちまったんだと思ってたぜ」
「残念、国内に居ました! つーかさ、空いてる部屋ない? この人今にもぶっ倒れそうなんだよね、睡魔で」
「んん? こりゃまた別嬪さん連れてきたなぁ。二階の奥の部屋、使っていいぞ」
「サンキュ。代金はえーと、後で持ってくるから」
「まって、ニコロ。支払いはわたしが……」
「良いから、あんたはさっさと寝ろ!」
サディアスの手を引いて二階の奥へ。部屋へ入るとベッドまでサディアスを連れて、どんと突き飛ばした。ベッドのスプリングが跳ねて、サディアスは苦笑を浮かべる。
「手荒いなぁ……」
「寝不足は思考力の敵ですよ、団長。さっさと休んでください」
「……うん」
ベッドの上で横になるのを確認して、ニコロが出て行こうとしたらサディアスが呼び止める。こっちに来て、と言われて近寄ったらぐいと手を引かれた。バランスを崩してベッドの上に座ると、腰にサディアスの手が回された。
「団長?」
「少しだけ、このままで居て……」
そう言うと、サディアスはあっという間に夢の中に旅立っていった。人肌が恋しかっただけかと納得し、彼の髪を撫でる。……しかし、がっちりとホールドされていて抜け出すことは困難だ。
(この状況、俺にどうしろと……?)
サディアスの少しだけ、がどのくらいの時間なのかわからない。わかるのは、サディアスが目覚めない限りここから動けそうもないってことだ。すやすやと気持ちよさそうに眠るサディアスを見て、ニコロは肩をすくめるしか出来なかった。
ただ、彼が起きないように優しく彼の髪を撫で続けていた。
ふと意識が浮上した。一時間か、二時間か、そのくらいは確実に眠っていた。ニコロが近くに居るだけでここまで深く眠れるものか、とサディアスは眉を下げる。頭に置かれた手はそのままに、ニコロは座ったまま眠ってしまったようだ。
ニコロが起きないように、そっとベッドに横たわらせる。その寝顔は無防備だ。ふふ、と笑みが浮かんでしまう。ぎゅっとニコロを抱きしめて、サディアスは再び目を閉じた。
(あったかい)
ニコロの体温を確かめるように、頬と頬をくっつける。再会してから、我慢が出来なくなったなと自分を笑う。閉じ込めることはもう出来ない。それでも、ニコロの関心を自分に向かわせることは出来ると考えている。
(告白したのに流されたし)
それでも、あれだけのギャラリーの前で言ったのだ。明日には色々な噂話が流れていることだろう。ニコロがそれに気付いているのかいないのか、少し微妙なところではあるけれど……一番にサディアスの心配をするのだから、そんなところも愛しく思える。
(スキルでニコロの心を読むことは出来るけど、出来るだけしたくないし……)
割と好き勝手にやっている自覚はあるので、嫌われているかと思うのは怖い。それでも、手に届く範囲に居てくれるからついつい手を出してしまう。
だけど、今だけは。
この愛しい温もりを離さずに、眠る贅沢をしても良いかな――……。
そう考えて、ニコロをぎゅっと抱きしめて再び目を閉じた。ニコロがすり寄るようにサディアスに身を任せるのを感じて、彼は静かに微笑んだ。
――その後、三時間ほど眠って宿屋の主人に起こされた。屋敷じゃない場所でこんなに熟睡できたのはそれこそ三年ぶりで、自分がどれだけニコロに心を寄せているのかとサディアスは可笑しそうに笑う。
それを見たニコロが、訝しむように目元を細めた。
「ニコロが傍にいると、つい気が緩んじゃうなぁ」
「そーですか。……ん、多少は顔色良くなりましたね」
良かった、と微笑むニコロに、サディアスも笑みを返した。
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