サディアス×ニコロ

海里

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幕間

1章40話の幕間

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 じりじり、とニコロは後ろへ下がる。サディアスは手にいっぱいの荷物をもってニコロへと詰め寄り、遂には壁際まで追い込んだ。
 トン、と背中が壁に当たり、ニコロは逃げ場がないことに焦りの表情を浮かべる。それを気付きながらも、サディアスは出来るだけ優しく微笑みニコロへと荷物を差し出した。

「ニコロに似合いそうなものばかりを持って来たんだ」
「……そうですか、いりません」
「そう言わずに。絶対に似合うから着て欲しくてね。何だったら今着替えても……」
「断固拒否します。そもそも俺は今、仕事中なので!」

 足を怪我して、ニコロは走れなくなった。聖騎士団員としては致命傷な傷だった。聖騎士団で稼いだ金を使い、少しのんびり暮らすかと思っていたら、サディアスから「どうせならわたしの屋敷に来ると良い。たくさん可愛がってあげるから」と言われて、慌てて逃げ出した三年前。雇い主である彼が、どこまで知っているのかわからないが一応匿ってくれているとニコロは認識していた。
 が、それを強行突破するのがサディアスである。三年間、何度もニコロを自身の屋敷に引き抜こうとしていたが、最近はそれもなくなりようやく自分から興味をなくしたのかと安心していた時であった。ちなみに、買い出しに行っていた屋敷の人たちに聞かれされた話である。

「そもそも、あんた引く手数多でしょうに……」

 呆れたようにそう言えば、サディアスは一瞬きょとんとした顔をしてそれから首を傾げた。

「わたしが欲しいのはニコロだから、それは関係ないだろう?」
「……うわー……」

 ストレート過ぎる言葉にニコロは顔を引きつらせる。どうにか目の前の男から逃げ出せないかと周囲に視線を巡らせるが、流石は聖騎士団長、隙がない。恐らくニコロが逃げ出そうとすればいとも簡単にその躰を近くにあるベッドに押し倒すだろう。
 それは避けたい。なし崩しに行為が始まれば抵抗できる気がしない。
 そもそも騎士団にいた頃から躰の関係はあったが、恋人関係ではないと考えていたニコロにとって、サディアスが自身に執着する意味がわからない。

「さっさと避けてくれませんかね、仕事が出来ません」
「ニコロがこれを受け取ったら」
「いらないって言いました」

 サディアスが持っているものを受け取れば、それはもう彼の愛し子決定だ。騎士団に所属していた頃からそれだけは避けていた。もっと淡泊な関係性だったハズだ。それをどう間違ったのか、彼は今でもニコロに執着している。

(年上の愛し子作るつもりか、この人……)

 例えばニコロの雇い主であるルードと、迷子として彼に拾われたヒビキ。ヒビキのほうが年下だからか、彼を保護して慈しみ、愛するルードの姿をこの目で見て、愛し子って普通こんな感じだよなと思ったのは記憶に新しい。
 そう、普通は年下を選ぶものだ。自身の年齢より年上を愛し子にする貴族何て、聞いたことがない。
 平民の自分にはあまりにも恐れ多い。そして何より、サディアスが何を思ってニコロを愛し子にしようとしているのかが謎で怖い。

「……もしかして、リーフェに俺らが恋人だって言ったの、あんただったりしますか?」
「恋人だろう?」

 確定。
 相互の認識が違いすぎてニコロは頭が混乱してきた。恋人のような甘い睦言をした覚えは一切ない。あったのは本当に躰の関係だけだ。それとも貴族の間では肉体関係があれば恋人ということになるのだろうか。

「違うと思います」
「なら、これからなればいい」
「断固拒否します!」

 二回目の拒否の言葉は大声で言い放った。サディアスはそれをどう受け取ったのか、にっこりと微笑むと荷物を置いて壁に手をつき、顔をぐっとニコロに近付ける。それを避けるように顔を逸らし、何とか距離を取ろうと腕を伸ばして彼の胸を押した。が、逆にその手を取られ、距離を縮められる。

「近い近い近いッ! 離れろッ!」
「あ、やっとその口調になってくれた」

 吐息が顔に掛かるくらいの近さだ。慌てたニコロは敬語を忘れてしまった。――昔のように。それを嬉しそうに声を弾ませて指摘されて、ニコロは何とかサディアスから離れようと手を動かす。しかし、がっちり抑え込まれて振り解こうとするほどに距離はさらに近くなり――……。
 遂には一番恐れていた、ベッドに押し倒される事態となった。ニコロはスキルを使おうとしたが、それよりも先にサディアスが彼の唇を塞ぐ。次第にニコロの躰から力が抜けていくのを見計らって、唇を離した。

「おとなしく、わたしに愛されなさい」

 美しく笑うサディアスに、ニコロは躰を震えさせる。その震えが恐怖から来るものか、歓喜から来るものか、わからない。ただ、サディアスの目が獰猛に輝くのを見て自分が今から喰われるのだと悟った。

「三年もお預けだったんだ。――たっぷり愛してあげる」

 その言葉にニコロは「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
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