【本編完結】一夜限りの相手に気に入られています!?

4章 禍を転じて福と為す

禍を転じて福と為す 10-2

　キスだけでも、こんなに満たされた気持ちになるんだなぁとぼんやり考えていると、陸矢が俺から離れて、ベッドから抜け出た。そして、シーツで俺を包んで、ひょいと抱き上げた。

「今日はずっと家でいちゃいちゃしましょうね」
「ちょ、ちょっと待った！　重いだろ!?」
「……流羽さん、気付いてました？　あの日から食事の量減っていることに」
「……え？　そ、うだっけ……？」
「カウンセリングを受けることになって、だいぶ良くなりましたけどね。最初に抱いたときより、細くなってますよ」
「……いや、でもやっぱり重いだろ！　自分で歩くって！」
「イヤです。今日はずっと流羽さんのことを抱きしめるんですから」
「それは抱き上げなくても出来ることだろーっ！」

　俺の言葉に陸矢はくすくすと笑っていたけど、下ろす気は一切ないようだった。陸矢は俺を横抱きしたまま（お姫さま抱っことは言いたくない）、リビングに向かうとソファに座らせた。シーツで包んでいるとはいえ、素っ裸のままソファに座っていることが落ち着かなかった。陸矢は陸矢でボクサーパンツだけ履いていて、「お水持ってきますね」とキッチンに向かうのを見て、本当にこのまま過ごすつもりなのか？　と首を傾げる。コップをふたつ持ってソファに座り、ひとつをローテーブルに置くと、くっと自分の口に含み、それから俺に顔を近付けた。

　口移しで水を飲まされて、そのまま深いキスへと変化していく。

　――ああ、気持ち良い……。

　前に、陸矢に聞いた話を思い出した。口の中に性感帯があるって話。あれってきっと本当だ。だって、キスがこんなに気持ち良いんだから。

　うっとりとしていたら、唇が離れてしまった。名残惜しそうに陸矢の唇を目で追ってしまい、クスリと彼が笑った。

「……流羽さん、大好きです」

　思わず目を瞬かせた。愛しそうな視線を受けて、「ありがとう」と言葉が出た。

「俺……、陸矢のことが好きだなぁ……」

　独り言のように言葉がこぼれた。嬉しそうに笑う陸矢に、今度は俺からキスを仕掛けた。

　どのくらいキスをしていたんだろう。そのうちに、ぐぅとお腹が鳴った。それも、ふたり同時に鳴ったものだから、互いに顔を見合わせて笑い合った。こんな時間が、とても幸せに感じる。

「いろんなことがあったけど、俺……今が一番幸せだと思うよ」
「それじゃあ、毎日『幸せ』を更新していかないといけませんね」
「え？」
「禍を転じて福と為す、って言いますし……。言ったでしょ？　流羽さんはこれから、もっと幸せになるのだから、覚悟してくださいって。たくさん甘やかして、甘えて、オレたちなりの『恋人関係』を築き上げていきましょうね」

　そう言って柔らかく微笑む陸矢に、俺は一度顔を俯かせて、それからすぐに顔を上げた。嬉しくて、涙が出てきたけれど、きちんと笑えていると良い。

「――うん。絶対に幸せになるし、陸矢のことも幸せにするよ」

　きっと今までの俺なら言えなかった言葉。

　――陸矢と出逢えて、良かった。

　心の底から、そう思えるんだ。

　俺の言葉に、陸矢は少しだけ目を見開いて、それから愛しそうに目元を細めて見つめ、唇を重ねた。


―Fin―