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4章 禍を転じて福と為す
禍を転じて福と為す 7-1
しおりを挟む「さて、お腹空きましたよね、なにを食べますか?」
「うーん、なんだろ……。陸矢が食べたいものは?」
「……流羽さんは?」
人通りのない少ない場所だったから、そのまま手を繋いで歩いていた。陸矢の問いに自分が食べたいものを思い浮かべるが、これと言ったものはなかったので、そう言うと陸矢はぴたりと足を止めてじっと俺を見た。
付き合うようになってから、こういうことが増えた。
きっと、俺が我慢していると思っているのだろう。
「んー、これと言ってなくてさ。陸矢の案に乗っかろうかと」
「それじゃあ、あそこに行きませんか?」
「あそこ?」
「はい、あの居酒屋に」
ピンときた。俺と陸矢が初めて会った場所だ。こくりとうなずくと、陸矢は「じゃあ行きましょう!」と嬉々として歩き出した。
少しの間歩き、目的地につくと中に入る。
「いらっしゃ――お、なんだ、イメチェン?」
「まあ、そんなとこ」
「いいじゃん、似合ってる似合ってる。隣のお客さんは久しぶり~」
気さくに話す彼に、陸矢はにこりと微笑んだ。
俺たちが手を繋いでいることに気付いた彼は、心底嬉しそうに笑ってくれた。
「……なんか、一気に吹っ切れたみたいだな?」
「そう見える?」
カウンターに座り、とりあえず生を注文し、お通しの筑前煮を受け取った。ビールジョッキを渡されて、乾杯、とジョッキを合わせる。
ぐいっとビールを喉に流し込むと、ぷはぁ、と息を吐く。ビールの最初の一口って、なんでこんなに美味しいんだろうな?
筑前煮にも口をつけ、前に食べたときとは味が違うことに気付いた。こちらのほうがほんのりと辛味を感じるが、それが良い塩梅になっている。
「酒飲みにはいいつまみだな」
「だろ? この前仕入れた調味料入れてみたんだ。それが個人的にヒットしてさ、お客さんにも食ってもらって、反応見ようと思って大量に作ったんだよ。だから今日のお通しは筑前煮」
ケタケタと笑う元・同僚に、「へぇ」と相槌を打った。陸矢もパクパクと食べているので、気に入ったのかもしれない。
「その調味料って?」
「かんずりっていうんだけど、知っているか?」
「……名前は聞いたことあるな」
「探して使ってみ。良い味になるぜ」
「サンキュ、メモしとく」
スマホを取り出してアプリを起動し『かんずり』と打ち込んで、今度買い物に行くときに探してみよう。
「……なんとなく、流羽さんの料理と味が似ている気がします」
ごくん、と口の中のものを飲み込んだあとに、陸矢がそう言ったので、俺は目を丸くした。
「そりゃそうだ。同じところで料理習ったから」
「えっ、そうだったんですか? あ、だから親しそうなんですね……」
納得したらしい。親しそうかどうかは、よくわからないけれど。
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