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4章 禍を転じて福と為す
禍を転じて福と為す 6-2
しおりを挟むそれから、何分くらい経ったのだろうか。前髪を切るから、目を閉じていて、と言われて目を閉じる。パサパサと切られた髪が落ちる感触が、なんだか新鮮だった。
「それじゃ、髪を乾かしましょ」
今度はドライヤーの熱風が髪に。やっぱり家で使うものよりもパワーがあるのか、あっという間に乾いた。……見るのが怖くて、つい目を閉じたままでいるんだけど……そろそろ髪も乾くだろうから、思い切って目を開けないといけないな、と考えていたら、カチ、とスイッチを切る音がした。
「あ、そのままちょっと目を閉じていてね。顔についている髪の毛、取っちゃうから」
柔らかいブラシのようなもので顔をさっさっ、と撫でるように髪の毛を払い、「もう良いわよ」と言う声に、恐る恐る目を開く。真正面にある鏡を見て、驚いた。
眉が隠れるほどの短さになったが、不思議と目つきの悪さが強調されていないのだ。
「ど、どうかしら……?」
緊張した面持ちで、井藤さんに聞かれて、俺は鏡越しに井藤さんを見て、「すごいです」と素直な感想を口にした。
「……良かった。前は見えやすくなったんじゃないかしら?」
「はい。今までの視界とは、まったく違いますね……」
それもそうだとは思うのだけど、髪を切るだけでこんなにも視界は明るくなるものなのか、と感心してしまった。
陸矢のほうが先に終わったらしく、他にお客さんがいないことをいいことに近付いてきた。
「流羽さんに似合っていますね。さすが店長」
「やだー、褒めても次回の値引きクーポンしか出ないわよー!」
バシンっと陸矢の背中を叩く井藤さんに、俺は目を丸くして、それから噴き出してしまった。それにつられるように、陸矢も表情を緩めた。
「それじゃあ、流羽さん。デートに行きましょうか」
「……ッ、陸矢ッ」
陸矢はいつもよりも髪が短くなったかな? ってくらいの髪を切ったらしく、スッキリしていた。にこりと笑みを浮かべると、俺に手を差し出してそう言うものだから、女性のスタッフの「きゃぁあっ」という甲高い歓声が店内に響いた。
「ああ、大丈夫ですよ。ここのスタッフの方々、そういうのに理解のある人たちなので」
「そうですよ、むしろこちらこそありがとうございますって感じです!」
早口で女性スタッフが口にする。……なにをどうすれば『ありがとうございます』という感想になるのか、知りたいような知りたくないような。
「あ、ちょっと待って。これ、アタシの名刺。次も来てくれたら嬉しいわ」
「あ、ありがとうございます……」
名刺を受け取って、俺はちらりと井藤さんと陸矢を交互に見て、陸矢の手を取った。
会計を済ませて、そのまますっかり暗くなった街へと繰り出す。
髪を切ったあとに見た街は、光り輝いているように見えた。
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