【本編完結】一夜限りの相手に気に入られています!?

海里

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4章 禍を転じて福と為す

禍を転じて福と為す 6-1

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「はい、そうです。今日は、よろしくお願いしますね、店長」
「任せてちょうだい」

 ぱちん、とウインクをひとつ。なかなか、インパクトのある人だ。

「初めまして、あなたを担当することになった店長の井藤いとうよ。よろしくね。いーちゃんって呼んでちょうだい」
「よ、よろしくお願いします……?」
「さっそく始めましょう。まずは髪を洗うことからね」

 そう言って案内されたのはシャンプー台。椅子に座ると「動かすわよ」と一言声を掛けてから椅子が動いた。

「シャンプーをするのはアタシじゃないけど、安心してね」

 スタッフが数人いるらしい。陸矢りくやも同じくシャンプー台に向かうのが見えた。ふわっと柔らかいタオルを顔に掛けられて、なんとなく目を閉じる。……美容院、初めてきたかもしれない……。いつも、自分で適当に切っていたから。

 シャンプーが終わり、今度は髪を切るために移動する。

「あら、髪で隠れていたから気付かなかったけれど、なかなか男らしい顔じゃない」

 嬉々としたような井藤さんの声に、俺はさっと顔を隠すように逸らしてしまった。

「ああ、なるほど。コンプレックスだったのね」

 しみじみと言われて、なにも言えなかった。なにせ、当たっていたので。井藤さんはにこっと微笑んで「大丈夫よ」と声を掛けてくれた。

「大丈夫……?」
「素敵な髪型にしてあげる」

 ――この人は、本当にこの仕事を好きなのだろうと思うくらい、ワクワクとした表情を浮かべていた。

「さて、切っていくけれど、なにか注文はありますか?」
「え、っと……その、こういうところ、来たことがないので……お任せします……」
「前髪、切っちゃってもいいのかしら?」
「……はい」

 少し悩んでしまったが、美容室に一緒に行くと返信をしたときから、前髪を切ろうとは思っていたんだ。

「それじゃあ、アタシの腕を信じてちょうだいね」

 ふわり、と上になにか掛けられた。

「ここに腕を通してちょうだいね」
「は、い」

 ……こういうのってなんて言うんだろう。とりあえず、言われた通りに腕を通す。そして、ハサミを取り出す井藤さんが見えた。井藤さんは真剣な瞳を俺の髪に向けている。
 手櫛で俺の髪を一度すとんと落とし、それから慣れた手つきでクリップ? を挟んでいく。……正式名称がわからないものだらけだ。一度くらい、行ってみればよかったかな……?

 小学に上がるまでは、近くの床屋に行っていた気がするけれど、あまり覚えていない。

 井藤さんはシャキン、シャキン、と軽い音を立てて髪を切り出した。

 ――終わる頃には、一体どんな髪型になっているんだろう?

 ちょっとした不安と、かすかな期待が心の中でせめぎ合っていた。
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