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4章 禍を転じて福と為す
禍を転じて福と為す 3-1
しおりを挟む次々と家事をこなしていく。窓ガラスやサッシをピカピカに磨いた。綺麗になっていくのを見ると、達成感を得られる。そしてなにより、なにも考えないで済む。
ただ、綺麗な場所が増えるにつれて掃除をする場所がなくなっていく。さすがに陸矢の私物を整理するわけにはいかないから、ある程度のところで手が止まってしまうのだ。
そして、手が止まると昨日のことを思い出してしまい躰が震えだした。
――怖い、と思った。五人に取り囲まれ、躰が竦んだ。弱さを出さないように、必死だった。なんでもないこと、と自分を騙していたつもりだったが、やはりそう簡単には脳裏から消えそうにない。
助けてくれた陸矢には、本当に感謝をしている。だが、迷惑を掛けてしまった。俺ではなく、彼が殴られるとは思いもしなかった。もう少し、山村も冷静だと思っていたのだ。
クラスのリーダー格で、いつも指示を出す側のヤツだったから。そんなヤツのプライドを、陸矢は自身の持つ情報で粉砕したのだろう。山村と一緒にいた同級生たちは、彼の取り巻きのようなヤツらだったし、そいつらの前で五股掛けられていたことを話されて、怒りに身を任せてしまったのかもしれない。
……しかし、五股かぁ……。俺も浮気された側だから、ヤケになる気持ちはわかるが、同情はしない。そして恐らく、山村の取り巻きたちはそれを拡散するだろうと思った。そうなると、同窓会や仲間で集まるときにいじられる側になるだろう、とも考えた。
俺のことも話されるかもしれないが……、陸矢の言うように、人が人を好きになるのに問題はない、よな……?
……躰の震えは止まっていた。ホッとして、動き出す。少し、休憩しようかなとリビングのソファに座り、背もたれに身を預けた。
「……陸矢の迷惑に、ならないようにしないとな……」
彼との生活は本当に楽しかった。一夜限りの相手だったというのに、俺のことを信用して家に置いてくれたことも、仕事を与えてくれたことも感謝しかない。……だからこそ、これ以上の迷惑を掛けるわけにはいかない、よな。
陸矢との楽しい記憶を抱いたまま、この生活から離れたほうがいいのかもしれない。
「……ぁ……」
ぽろり、とまた涙が流れた。昨日、枯れるまで泣いたと思ったのに。慌てて涙を拭う。勝手に想像して、勝手に悲しくなるのはダメだ。
陸矢が家から帰って来たら、話をしよう。
パン、と気合を入れるように両手で頬を叩く。乾いた音が響き、俺は「休憩終わり!」と立ち上がり、今度は風呂掃除をするために浴室に向かった。
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