【本編完結】一夜限りの相手に気に入られています!?

海里

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3章 偶然の再会

偶然の再会 20-2

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☆☆☆

 チュンチュン、とすずめの鳴く声が聞こえて、ゆっくりと目を開ける。躰に染みついた習慣のおかげか、いつも通りの時間に起きられたようだ。ぼんやりとした思考をハッキリさせようと何度か瞬きを繰り返す。そのうちに、バチっと陸矢と視線が合った。

「おはようございます、流羽さん」
「お、おはよう……」

 はちみつみたいに甘くとろけた瞳を向けられて、一気に目が覚めた。陸矢はいつ起きたのだろうか。

「すみません、昨日はわがままを言ってしまって」

 眉を八の字にして謝る陸矢に、俺は「いや……」と言葉を紡ごうとした。でも、その前に陸矢が俺の頬に手を添えたので、そっちに驚いて言葉が出なかった。

「ありがとうございます。おかげで、今日の仕事もがんばれそうです」
「……そ、それは良かった」

 あまりにも甘い声色に、視線を彼から逸らしてしまった。陸矢が「流羽さん?」と不思議そうにしていたけど、がばっと起き上がる。

「お、俺、朝の支度してくるっ」
「え、そんなに慌てなくても……」
「陸矢はもうちょっと寝とけ! あと一時間くらいは寝る時間あるぞ!」

 いつもより時間は早いはずだ。陸矢は少し肩をすくめて、「それじゃあ、三十分だけ寝ますね。シャワー浴びたいですし」とベッドにうつ伏せになるのを見て、三十分、と心の中でつぶやく。

 もしも起きて来なかったら、起こさないとな。

 自分の部屋に行き、着替えて洗面所に向かい身支度を整える。

 それから、今日の朝食を考える。洋食のメニューにするのは決定なんだけど……。冷蔵庫と冷凍庫の中身を見ながら考え、スクランブルエッグ、ミニトマトとレタスのサラダ、トースト、ポタージュ(インスタント)に決定した。

 簡単に作れるものばかりだ。陸矢がシャワーを浴びている間に作れそうだから、その前に軽くストレッチをしておこう。家の中にばかりいると、躰が硬くなる気がする。……いや、ただ単に運動不足なだけではあるんだけど……。ウォーキングでもしたほうがいいのだろうか、でも、この前髪と目つきの悪さでは、歩行者を怖がらせてしまうような気がして、ためらってしまう。

 家で出来る運動もあるだろうけれど……筋トレとか? 筋トレはいいかもしれない。料理を作るときにも筋力は必要だ。重い鍋を持ったりするし……軽々と持ち上げられる人に憧れたものだ。いつかあんな風になりたいと思っていたけれど、人生はなかなかうまくいかないものだなぁ。

 でも、その積み重ねで段々と上達していく自分がいるのもわかるから、楽しいものだとも思う。

 ……よし、今日も一日、がんばろう。

 陸矢が帰ってきたときに、安心できるように。
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