41 / 100
3章 偶然の再会
偶然の再会 5-1
しおりを挟む「ケチャップいれてみるのも良いし、味見しながらいろいろ自分の好きな味に近付けていけばいい」
「……大事ですね、味見」
「一番大切だと思う……」
人の味覚はそれぞれ違うのだから……。もちろん、店で働いていた頃はレシピ通りに作っていた。それが仕事だったし……。それでも、こうしたらもっと美味しくなるんじゃないか? というのは話し合っていた……つもり、だけど、それもあまり歓迎されていない感じだったなぁ。
店長だけが真剣に考えてくれていたように思う。俺が働いていたところって結構誰でも働ける店だったけど、店長はあの店舗がより良くなるようにってがんばっていたことを覚えている。
「――流羽さん?」
「……いや、ちょっと店で働いていた頃を思い出して」
「本当に料理が好きなんですね。それを職にするくらい」
「まぁ、な」
裏方だから髪を上げて素顔を晒しても問題ないと思っていたけど、そうでもなかった……。自分の目つきが少し恨めしく思うときもあるが、存外に扱われるのも慣れてしまったし、自分で言うのも虚しいが、割と諦めは早いほうだと思うし……だってそっちのほうが気楽なんだ。
「えーっと、んで、この出来上がった甘酢あんに肉団子を入れて火にかける」
さっき作った肉団子をごろごろと入れて、全体に甘酢あんを絡める。これで甘酢あんの肉団子完成だ。
「じゃあ、次はスープですね」
「うん、小鍋に水を入れて沸騰させて、鶏がらスープとほうれん草、卵を溶いたものを入れる。塩コショウで味を調えてごま油を少し垂らせば出来上がり」
「冷凍のほうれん草便利ですね……」
「今はカット野菜とか冷凍の野菜とか、本当便利になったよなぁ」
しみじみと呟くと、陸矢がなにかを考えるように顎に手を掛けて、「確かにこれなら料理の下ごしらえが少ない分、自炊がしやすいですね」と微笑みを浮かべた。
「いろいろ便利な世の中になったよなぁ」
俺は同意するようにうなずいて、小皿にスープを入れて味見をした。うん、美味しい。陸矢がじっとこちらを見たので、もう一度スープを入れて陸矢に渡した。陸矢は嬉しそうに受け取って、こくりと飲む。
「美味しいです」
「便利だよな」
焼いたハンバーグはだいぶ冷めただろう。ラップに包んで冷凍する。そのあと調理器具を綺麗に洗って片付けた。
時計を見るといつもの夕飯の時間よりは早かった。ちらりと陸矢に視線を向けると、くぅ、と彼のお腹が鳴ったのが聞こえて、顔を見合わせて笑い合った。
「お腹空きました」
「ちょっと早いけど、飯にするか~」
ぱぁっと明るい表情になった陸矢に、こういう顔に弱いんだよなぁと心の中で思った。
15
お気に入りに追加
244
あなたにおすすめの小説
王太子からは逃げられない!
krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。
日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!?
すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。
過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。
そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!?
それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。
逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる