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3章 偶然の再会
偶然の再会 3-2
しおりを挟むエプロンを身に付けて、キッチンに向かう。冷蔵庫からさっき買ってきた刺身とポン酢、わさびを取り出していると、陸矢が部屋着にエプロンの格好で近付いてきた。
どこかワクワクとしているような表情で、「なにをすれば良いですか?」と尋ねられた。
「それじゃあ、刺身をパックから出して、流水で軽く洗って」
「刺身を洗うんですか!?」
「軽くな。そのあと水分を取って、日本酒と塩を刺身全体に掛けまわして、水分を取ると臭みがなくなるんだ」
「へぇ……」
ひと手間掛けることで美味しくなるのだから、やったほうがいい。美味しいほうがいいから。陸矢が刺身をさっと洗い、ザルに上げた。キッチンペーパーに並べて水分を取りってから、刺身をボウルに入れて日本酒と塩を全体にまぶして、軽く混ぜる。
日本酒は量による。今日は多めに刺身を買ったので、大さじ一くらい使った。少しくらいなら小さじ一で充分だと思う。塩もふたつまみくらいで良い。量が多ければ様子を見ながら増やしていく。
ボウルに入れた刺身をまたキッチンペーパーに並べて水分を取る。それをタッパーに入れて、陸矢が刺身を洗っている間に、わさびを溶いたポン酢と大葉の千切れもタッパーに入れ、蓋をしめて軽く振って馴染ませる。
タッパーのまま冷蔵庫に入れて冷やしておけば出来上がり。大葉は五枚くらいあればいいけれど、好きな人は何枚でもいいと思う。
「あ、いただいた日本酒も冷やしておきましょう」
「だな。楽しみだ」
日本酒にもいろいろ種類がある。陸矢がもらったのはどんな日本酒なのか、ちょっと楽しみだ。
「さて、それじゃあ……」
お待ちかねのみじん切りだ。玉ねぎを少し冷やしていたから、まぁ大丈夫だろう。陸矢は興味津々といったようにこちらを見ていた。
玉ねぎの皮を剥いて、縦に数か所、横に数か所切り込みを入れて端から切っていく。陸矢が「すごい……」と呟いているのが聞こえた。
「やっぱり手慣れていますね」
「そりゃあな」
玉ねぎのみじん切りが出来ると、ふぅ、と小さく息を吐く。玉ねぎのみじん切りで大事なことは、どれだけ玉ねぎの繊維を潰さないか、だ。潰すと泣きを見るからな。
包丁でやるのが面倒な人はそれ用の商品が売られているから、そっちを使ったほうがいい。スライサーとか使うのも手だ。下ごしらえが面倒な人は、味がついている肉や魚も売られているし、本当、便利な世の中になったよな。
「そういえば、こう、紐を引っ張るとみじん切りになるものもありましたよね」
「あれも便利だと思うよ」
玉ねぎに泣かされることがないだろうから。適当な大きさに切って、入れて、蓋をして、引っ張るだけ。ああいう商品を思いつく人って本当にすごいと思う。
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