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2章 不幸は幸運とともに
不幸は幸運とともに 5-2
しおりを挟む「特に用事もありませんから……」
「それならいいけど……」
しまった、会話が終わってしまった。……いや、今から作るのだから別に会話をしなくてもいいのか。
「さて、ではなにから始めますか?」
「じゃあまず……肉じゃがから作ろうか」
「はい!」
俺の質問にイヤな顔ひとつせずに、雰囲気を感じ取って話題を提供する。……やっぱりモテるだろ、陸矢。そもそも陸矢がフリーでいること自体が不思議でならないんだよなぁ。
――ま、恋愛はどうしても相性があるもんな。陸矢ならうまくやれそうだけど。
そんなことを考えながら、肉じゃがを作る。陸矢の料理スキルは……思っていた以上に低かった。家庭科の授業どうしていたんだ? と聞いたら、ほぼ女子がやってくれたらしい。イケメンの特権か?
「初めから包丁で皮を剥こうとするな、ピーラーという便利な道具がある! あとじゃがいもの芽は毒だから、ここでくり抜け!」
「えっと、こう、ですか?」
「そうそう」
そんな感じでいつもよりも時間を掛けて肉じゃがを作った。ちなみにじゃがいもは最初にレンチンすると煮るとき楽だ。
「陸矢の家の肉じゃがって、豚肉だった? 牛肉だった?」
「……あ~……。オレの家だと肉じゃが出たことがないですねぇ……」
「えっ」
肉じゃがって結構メジャーな家庭料理だよな……? いや待てよ、こんな広い、しかも防音の家に住んでいるんだ。もしかして、かなり金持ちの家庭だったのでは……?
「だから、楽しみです」
ふわっと微笑むのを見て、ああ、こいつ本当に『手料理』に飢えていたんだな、と思った。俺は「そう」と答えて、肉じゃがの味を確認する。めんつゆだけではなく、醬油や日本酒、みりんを多少混ぜているから、味見は大事だ。
お玉で汁を救い、小皿に入れて味を確認する。――うん、こんなもんかな。少し薄めの味付けだが、味をしみ込ませるために冷ますから、そのときに味が具材に吸い込まれていく。さらに温めると煮詰まって味がちょうど良くなるだろう。
とはいえ、すぐに食いたいから大き目のボウルに氷水を作り、その中に鍋ごと入れて冷やす。時間があれば自然に冷ますけど、腹減って来たし。
「……豪快ですね」
「時短テクと言ってくれ」
そのあとは無限ピーマンを作った。ピーマンはヘタと種を取り千切りに繊維にそるかどうかは好みだ。苦味を感じたい人もいるだろうしな。
「鶏がらスープ小さじ一、塩コショウ少々、ゴマ油大さじ一……」
ピーマンと油を切ったツナを耐熱容器に入れて、調味料を入れて混ぜてレンチン、なんだけど……。小さじと大さじを持つ手がちょっと怪しい。ぷるぷると震えているのを見て、眉を下げて微笑んだ。陸矢からは見えないだろうけど。
「この塩コショウ少々って難しくありませんか……?」
「適量も難しい」
好みの味になるまで味見をしないといけないからな。
パラパラと塩コショウを振りかける陸矢の言葉に、俺は笑いながら答えた。
「ですよね! どうしても濃くなったり薄くなったりするので面倒になって……」
「作ろうとしたことはあるんだな……」
調理器具がほぼなかったから、料理に挑戦しようとしていたことが意外だった。ついでに無限ピーマンは味をつけてラップしてレンチン三分(好み)だ。出来上がりもうまいが、冷めてからもうまい。弁当のおかずにもなると思う。
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