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2章 不幸は幸運とともに
不幸は幸運とともに 3-2
しおりを挟むそんなわけで、俺は昨日の一夜限りの相手である人物の家に、家政夫として雇われることになった。
そこからはまぁ、かなり怒涛の展開が待っていた。
陸矢の家に家政夫として雇われてから数日後、前の職場からの呼び出しで必要な書類などを受け取りに行った。使っていた制服は店長がクリーニングに出してくれたようで、何度も頭を下げられた。
「……本当はなぁ、お前のような料理人がいてくれると本当に助かるんだが……」
二回も『本当』を言っている。店長は俺のことを結構庇ってくれていた。目つきは生まれつきだから仕方ないだろうって。
「……お世話になりました、すみません」
「いや……、結局止められなかったおれが悪いから……。……本当にすまない」
俺は緩やかに首を横に振った。幸いなことに、衣食住、すべてどうにかなったことを伝えると、店長はホッとしたように表情を綻ばせた。
「それじゃあ、お元気で」
「ああ、浜本もな」
軽く頭を下げて店から出ていくと、その様子を見ていた連中から「これで怯えなくて済むわー」とか、「あの目見ると夢に出そうだもんなー、めっちゃ悪夢じゃん」なんて幼稚なことを投げかけられた。
言い返す気にもなれなかったので、無視した。チッ、と舌打ちも聞こえたが、こういう目に遭うのは慣れているので気にしても仕方ない。
むしろどこか晴れ晴れとした気分だった。
気が付かないうちに、ストレスでも溜めていたんだろうか……?
とりあえず、陸矢の家に帰る前に必要なものを揃えなくては。
と、掃除道具を大量に買い込んで家に帰った。合鍵はすぐに渡された。
掃除をして、洗濯をして、料理をして、ひとり暮らしの頃とは違い、丁寧にやることを心掛けた。
なんせ、家政夫だからな……。
それにしても本当に広い家だ。
こんなに広い家にひとりで住むのは……とちょっと思う。
「うーん、本当にこれでお金をもらっていいのだろうか……」
俺は無償でやると言ったが、陸矢は頑なに譲らなかった。
家事の仕方も自己流だし、料理の腕はそれなりに自信があるが、衣食住とどちらが上かと言われたら……。
「まあ、陸矢が良いというんだから、良いのか……?」
細かいことは後で考えよう。そう決めて、俺はせっせと掃除をしていた。
ちなみに、料理は朝食と夕食だけ。昼食は外で食べるのが主らしい。
職場と家は分けたほうが良いという考えで、一駅離れたところを借りているそうだ。
イラストレーターと言っても、アシスタントは数人いるらしい。よくはわからないが……。とりあえず、陸矢はイラストレーターとしてかなり売れている、ということは理解した。
陸矢の絵を見せてもらおうと思ったけれど、「恥ずかしいからダメです」と断られてしまった。
一体どんな絵なのだろうか。
いつかは見てみたいものだな、と思う。
そんな風に思考を巡らせていると、掃除はあっという間に終わった。
洗濯も終えているし、夕食の買い出しに向かうかな……。と時計を見る。……うん、今から行ってもいいだろう。
……陸矢の家に来てから一週間くらい経つけど、きちんと夕食時には帰って来るんだよなぁ……。
人が待っていると思えば、帰りたくなるものなのだろう、きっと。それに……まあ、赤の他人だし、物を盗られる心配をしているのかもしれないな。
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