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1章 一夜限りの相手
一夜限りの相手 1-2
しおりを挟む「あと、これ熱燗な。ゆっくり食えよ」
「サンキュ。あとだし巻き卵とおつまみしらたきとたたきキュウリ。おつまみしらたき、辛くして」
「はいはい」
熱燗を出されたのも、振られたときの定番だからだ。出会いの場でもあるが、ここは居酒屋。今日はもうやけ酒をすることに決めたから、腹を満たしながらのんびり飲もう。
熱燗の徳利を持って、おちょこに注ぐ。この熱さがまた堪らない。口の中にまろやかな酒の味が広がっていく。
躰が温まると心も温まる気がするのは、なんでだろうな?
あんかけ豆腐をすべて食べ終わる頃には、俺が注文した品々が揃った。
「ビールはどうする?」
「じゃあ、お願いしようかな」
頼んだ料理はすべてビールにも合うし、熱燗もそろそろ飲み終わる頃だから注文した。なかなかのハイペースだと、自分で思う。
「……飲み過ぎないようにな?」
「……ん」
心配そうな元同僚に小さくうなずく。ビールはすぐに届いた。だし巻き卵をつまみながら、ビールを喉に流し込む。
「やっぱ美味いなぁ……」
しみじみと、振られて傷心になった心に沁みる美味さだと思った。
ビールを飲んだり、つまみを食べたりしていると、人影に気付いた。
「隣、良いかな?」
「どうぞ?」
顔を上げるとかなりの美形が隣にいた。他にも席が空いているが(俺はカウンターに座っていた。端っこが定位置だ)、わざわざ俺の近くに座って来た。
まぁ、別に構わないんだけど。
「知り合いから誘われたんだけど、彼はあっちで盛り上がっちゃってね。オレ、ここに来るの初めてだから、よくわからないし……」
ちらりと賑やかに盛り上がっているほうを見る青年。同い年か……いや、俺より若そう。
「いいの? 行かなくて」
「うん。君のほうに興味が向いてしまったし」
「……俺?」
「そう。その前髪、前が見えるのかなって」
くせ毛でもさもさとしている前髪。これに興味を惹かれる人が居るのかと驚いた。
俺は流羽、なんて可愛らしい響きの名前とは裏腹に、ものすごく目つきが悪い。身長も百八十センチあるし、名前と容姿のギャップがすごいからか、はたまた目つきの悪さが原因か、小~中学生の頃に軽度のいじめにあっていた。
だから、目つきの悪さを隠すために前髪を伸ばしていたんだが……。
「……見えるよ、結構普通に」
「へえ、そうなんだ。どうして隠しているの?」
結構ぐいぐい来る奴だな、なんて思ったりもしたが素直に「目つきが悪いから」って返事をした。
「目つき?」
「そう。眼光鋭いの、俺。怖がらせちゃうことが多いから、隠してる」
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