あなたを愛するのは当然のこと。

海里

文字の大きさ
上 下
8 / 12

8話:それじゃあ、仕事を始めようか。

しおりを挟む
「レオン殿下に好かれるとは、大変でしょうけれど頑張ってくださいね」
「諦めるのもひとつの手だから、覚えておいてください」
「……はぁ、え、と……?」
「はいはい。とりあえずフィンと話せたし、仕事を始めるよ」

 僕がパンパンと両手を叩くと、彼らはこくりとうなずいた。

「クラウス、ディルク、屋敷内を見て回っただろう? どうだった?」
「……そうですね、多少手を加えたほうが良い場所がそれなりに」
「訓練場になりそうな場所も手を加えて欲しいかなーって。魔術の訓練も良いのなら、余計に」
「そうだね、でもその前に街ひとつを包み込むような結界を作るほうが先かな」

 ぽんぽんと飛び交う言葉に、フィンが目を白黒とさせていた。

「あの……この会話は俺が聞いていても良いのでしょうか……」
「ええ。むしろこれから仕事仲間になるのですから、聞いてもらわないと困ります」

 そう言うクラウスに、フィンは「え」と小さく言葉を呟く。……僕の従僕ってことは、そう言うことだからねぇ……。僕がお茶を飲むと、すっかりと冷めていた。冷めていたけれど、これはこれで美味しいお茶だった。

「ええ……」

 フィンにとっては困惑する内容だろうけど、フィンにも手伝ってもらわないといけない。フィンはずっとこの街で暮らしていたのだから、それなりの情報量がある。――フィンが毎日を無事に過ごせるように、手を回さなくっちゃ。

「あ。でもフィンの最初の仕事は――ご家族に手紙を書くこと、かな。住所は僕が知っているから」
「……どうして殿下が俺の両親の住所を知っているんですか……」
「……どうしてって……」
「そりゃあもう、『レオン殿下』だからとしか……」

 クラウスとディルクが顔を見合わせてから一瞬僕へ視線を向けて、それからフィンへと視線を移動してそう言った。……どうしてって、調べたからに決まっているのに。

「そろそろフィンの部屋も用意できたかな。屋敷を見回りながら向かおうか」
「ついでに他の使用人たちの働きぶりも見ていきましょう」

 クラウスの言葉にこくりとうなずいて、僕らは部屋から出て行った。
 結構広い屋敷だから、しっかりと覚えておかないといけない。後でまた街にも行かないといけないね。避難所や抜け道があるかどうかも調べておかないと……。

「考えることがたくさんですね、殿下」
「うん。でも王城に居た時よりは気が楽だよ」

 フィンが居てくれるから。やっぱり想像のフィンよりも、実際のフィンのほうが何倍も良い。傍に居られるだけで、なんてことは言えないけれど……遠いところに居られるよりはずっと良い。

「……本当に広い屋敷ですね……」
「こういうところは迷路のように作られたりもしているからね。王城もそうだったでしょ?」
「……俺、バイトの時は殿下のところにすぐに向かっていたので、城を見回ることってなかったんですよ……」

 ……そうだったっけ? ああ、でも確かに朝起きた時にはフィンが居た。

「でも、どうしてこんなに複雑にしたんでしょうか?」
「敵がどのように侵入してくるかわからないからね。迷路のようになっていれば多少時間は稼げるし……」

 僕自身にもそれなりに敵が居るからね。ちらりとフィンを見ると、フィンが不安そうな表情を浮かべていたから、僕はフィンの手をぎゅっと握った。緊張からか冷たくなっているフィンの手を温めるように。

「殿下……?」
「大丈夫。この屋敷内は絶対に安全な場所にするから」

 安心させるようにフィンに笑顔を向けると、フィンは小さくうなずいた。
 ――そう、絶対安全な場所にしなくちゃいけない。フィンが楽しく過ごせる場所にしなくてはいけない。――そうすれば、この屋敷から出て行こうとは思わないでしょ?
 僕の考えをクラウスとディルクが読み取ったのか、ものすごく胡散臭そうな視線を僕に寄こしてきた。……本当、そう言う感情隠さないところが、ふたりの良いところだよ……。

「……みんな手際が良いね」
「そりゃあそうでしょう。前の領主の元で働いていた使用人たちなのですから」

 せっせと掃除するメイドたち。僕らに気付くと掃除の手を止めて慌てて頭を下げる。

「ご苦労様。その調子でよろしくね」
「は、はい……! かしこまりました……!」
「人手はどう? 足りている?」
「え、ええと……そう、ですね。このお屋敷広いので……隅々まで掃除するには足りない、ですね……」
「元々はどのくらいいたの?」

 メイドたちは顔を見合わせて、それから「大体でよろしいでしょうか」とこちらの顔色を窺いながら聞いて来た。僕がうなずくと、メイドのひとり……名はソフィア、だったはず。

「このお屋敷に二十五人ほど……。そして、お屋敷の周りを十人ほどが守っておりました」
「……ふむ。それじゃあ確かに人手が足りないね。すぐに募集を掛けておくよ。話してくれてありがとう、仕事に戻ってくれ」

 僕がそう言うと、メイドたちは仕事に戻った。少し戸惑っているように見えるのは気のせいではないだろう。……前の領主は、どんな風に使用人たちと接していたのかな。そこら辺は後々考えよう……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

余四郎さまの言うことにゃ

かずえ
BL
 太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。  これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※現在、加筆修正中です。投稿当日と比較して内容に改変がありますが、ご了承ください。

処理中です...