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5話:屋敷の使用人たちにも、改めて挨拶を。
しおりを挟むフィンを連れて執務室へ向かう。フィンは大人しくついて来てくれたようだ。……まぁ、クラウスとディルクがフィンの後ろに居るから、逃げたくても逃げられないだろうけど。
執務室に入り、ギルベルトに使用人たちを呼んで来てもらう。
総勢十五名。この広い屋敷に十五名。――いや、流石に王城よりは小さいけど、広い方だろう。
「――さて、これで全員揃ったかな。改めて自己紹介をしよう。僕はレオン・フォン・ロッシュ。この国の第三王子だと言うことは、恐らく全員知っているだろう。そして、僕の護衛である――……」
「クラウス・ラインマー・ドレヴェスと申します」
「ディルク・クヌート・ラングハイン。以後お見知りおきを」
ディルクはこちらを見て二ッと笑みを浮かべた。……こういう時は、きちんと挨拶するんだな。僕は小さく微笑みを浮かべて、それからフィンへと視線を移す。フィンはとても困惑しているようだ。
「彼はフィン。僕が同性婚の法律を立案したのは、彼と結婚したかったからだ。――もしも、僕の想い人に心無い対応をしたらすぐにこの仕事を辞めてもらう。そのつもりでいるように」
「……仕事、辞めるだけで済めばいいですね……」
「殿下は敵と認識すると容赦なんてしないから、肝に銘じておけよ」
脅かすような言葉を口にするクラウスとディルクに、僕は肩をすくめた。今のフィンは平民として生きているから、こうして注目を集めることに慣れていないかも。居心地悪そうに視線をバラの花束に落としている。
「……わ、私は認められません! 彼は平民でしょう!? 平民がなぜレオン殿下の寵愛を受けるのですか!」
――さっき言葉にしたばかりなのに、メイド服を着ている女性がそう叫んだ。それに合わせるように彼女の近くにいたメイドと執事服を来た男性がフィンへと心無い言葉を投げた。僕がパチン、と指を鳴らすと、彼女たちははくはくと口を動かす。そして、そのうち血の気の引いた顔になった。
「さっき、僕が言った言葉が理解出来なかった? 僕の想い人に変な言葉を言わないでくれる?」
にこにこと笑顔を浮かべてそう言うと、周りの人たちが静かになった。と言うか息を飲んでいる。
「君たちはこの屋敷には要らない。さようなら。クラウス、彼女たちを丁重に送り出して」
「かしこまりました」
パチン、ともう一度指を鳴らすと、彼女たちは咳き込んだ。その間にクラウスによって屋敷から追い出してもらう。引きずられるように執務室から出て行く彼女たちを見て、他の使用人は何も言わなかった。……と言うか、どこかホッとしている表情を浮かべる人たちも居て、首を傾げた。……まぁ良いか。
「それで、他にも辞めたい人が居るなら今のうちにどうぞ」
「あの、辞めたいというよりも、お願い、なのですが……」
おずおずと手を上げる男性に、僕は「おねがい?」と目を瞬かせた。
「はい。あの、領主様のお許しがないと結婚出来ないので……」
ああ、なるほど。平民は領主の許可なく結婚出来るけど、屋敷で働いている使用人たちには許可がいる。
「誰と結婚したいの?」
「……その、彼と……なんですが……。前の領主様はお許しされなかったので……」
そう言って一歩前に出てきたのは、男性だった。真剣な表情で僕を見ている。僕はにこっと微笑んで、「僕は許可するよ。おめでとう、後で結婚祝いを贈ろう」と口にすると、彼らは同時に目を見開いて、それから心底嬉しそうに微笑んだ。
「さて、残った君たちは使用人として、これまで通り働いてくれると言うことかな?」
僕がそう尋ねると、ギルベルトが素早く僕の前に跪き、それに倣うように十二人の使用人たちが僕の前に跪いた。
「これからよろしく。人数が不足しているのなら募集をするから気軽に話し掛けて欲しい。執事長、メイド長は前と同じで構わない。ってわけで、結婚する君たちから自己紹介、どうぞ」
屋敷に残る人たちの名前くらいは、憶えておかないとね。
ギルベルト以外の使用人たちの名前を憶えて、それから彼らには仕事に戻ってもらうことにした。
「ディルク」
「何でしょうか、殿下」
「鍛えられそうな人は鍛えて欲しい。あまり大きな人数では動かしにくい」
「かしこまりました。見どころのありそうなヤツラを見繕ってきます」
こくりとうなずく。フィンはまだ混乱しているのか、バラの花束に視線を落したままだった。
そして、この場に残ったのは僕とフィンとギルベルトだけになった。僕はギルベルトにお茶を用意するように頼む。ギルベルトは「どちらにお持ちしますか?」と声を掛けてきたので、僕は少し悩んで、僕が昨日使った部屋に持ってくるようにお願いした。
「かしこまりました」
「フィン、ついて来て」
「……はい」
ハッとしたように顔を上げて、フィンは僕について来た。昨日使った部屋までなら迷うことなく向かえる。フィンは黙って僕の後を歩いている。……フィンが王城に居た時と逆だな、と思った。あの頃は、僕がフィンの後をついて回っていたから。
部屋について中へ入ると、フィンは少し戸惑っていたみたいだけど、素直に入って来てくれた。
広い部屋に備え付けられているソファに、フィンを座らせる。フィンはきょろきょろと物珍しそうに辺りを眺めていた。
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