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4話:ますます魅力的になったね、フィン。
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フィンを見つけた報せを受けた時から、フィンの行動パターンは把握している。今日は恐らく自炊のための買い出しに行くはずだ。そして、この屋敷からフィンの住んでいる場所に向かえば、丁度良いタイミングでフィンが帰って来るだろう。
「……我が主ながら凄まじい執着心をお持ちで」
「序の口だよ、クラウス」
にこりと微笑んでそう言うと、クラウスもにこりと微笑んだ。
クラウスは僕より五歳年上で、フィンと同じ年齢だ。僕の護衛になったのは僕が十歳の頃――要するに、フィンが僕の元から居なくなってしまったあと。
彼は結構明け透けに話すほうで、僕のストッパーにもなってくれている。実の兄ではないけれど、兄のように思える人だ。
「それにしても、本当に僕について来て良かったのかい? 君なら行く手数多だろう」
「いやぁ、ここまで来たら殿下の恋の行方がどこに向かうのか、見届けたいじゃないですか」
中々好奇心も高いようだ。四六時中一緒に居るため、そう言う性格だと言うことはわかっている。
「そこそこ綺麗な道なんだが……」
「もうちょっと手を加えたらより走りやすいでしょうね」
ちなみに御者はディルクだ。彼は多趣味で色々なことが出来る。一時期護衛と言うよりも執事のような働き方をしていたので、クラウスが「本業!」と首根っこ掴んで辞めさせたことがある。
そんなディルクは僕の六歳上だから、何とクラウスの一個年上なのだ。どちらかと言うとディルクのほうが子どもっぽく見えるのに、人とは話してみないとわからないものだ。
「あ、そろそろです」
「……そう」
バラの花束をぎゅっと抱きしめる。フィルの住んでいる場所に行くには、馬車から降りてからじゃないと。馬車の通れない細い道を歩いていくと、中々歴史を感じる建物があり、そこの一室に住んでいることは調査済みだ。
馬車を降りてフィンの住んでいる場所に向かう。フィンはまだ帰って来ていないハズ。
バラの花束を持っているからか、とても目立っている。人の視線を感じる。見られることには慣れているから、苦ではないけれど。
フィンの住んでいる建物の前に立ち、彼の帰りを待ちわびる。ざわざわと人の騒ぐ声が聞こえるけれど、僕に声を掛ける勇気はないようだ。
そのうちに、待ち人が来て僕の姿を見ると大きく目を見開いた。
――この日をずっと、待っていた。
「……レオン、殿下……?」
ああ、僕はいつの間にかフィンよりも背が高くなったのか。
茶色の髪は少し伸び、鳶色の瞳は驚きで丸くなっていた。あまり食べられていないのか、細身なことが気になったけれども……十年ぶりに逢ったフィンは、とても魅力的に見えた。
「久しぶりだね、フィン。僕ね、この前成人を迎えたんだ」
スタスタとフィンに向かって歩いていく。フィンは、金縛りにでもあったかのように動かない。
「なので、あなたを迎えに来ました。フィン、僕と結婚してください」
「………………、――考えた結果俺には身分不相応なのでお断り申し上げます」
あっさりと断られた。しかもノンブレスで。申し訳なさそうに眉を下げて曖昧に微笑むフィンに、僕は優しく微笑みかけた。そのことに、フィンが怪訝そうな表情を浮かべる。こうなるだろうと予想はしていたから、対策を考えて来ていて良かった。
僕がフィンに花束を押し付けると、フィンは困惑したのかそれを受け取った。ちらりと、クラウスに視線を向けると、彼は僕らに近付いて、フィンに耳打ちをする。そして、視線を花束から僕へ勢いよく移した。
クラウスが一歩引いて、代わりに僕がフィンの腰を抱くと、困惑のざわめきが広がっていく。僕はそのまま、彼を馬車まで連れて行って乗せ、屋敷へと戻る。
「……どういうおつもりですか?」
「……それはこちらのセリフだよ、フィン。黙ってこんなところに行くなんて」
「それは……。家が没落しましたし、もう殿下とお会いすることもないと……」
クラウスも乗っているけれど、クラウスはあまり僕らの会話に入ってこようとは思わないのだろう。口を閉ざしたままだ。
「それに、さっきの言葉はどういう意味ですか」
「クラウスの言った通りだよ。本屋の主人にも、あの建物の主にも、きちんと了承を得ている。あなたは僕のところで暮らすのだから」
フィンを見つけてから、密かに行ってきたこと。僕が成人し、フィンを迎えに行くのに少し時間が掛かったのはこのせいだ。クラウスはやっぱり口を閉ざしていたが、小さく息を吐いた。フィンに顔を向けると、淡々とした口調で言葉を発する。
「本屋の退職も、住む場所の解約もこちらが手を回しました。あの辺の治安はあまり良いとは言えないので、野宿になるのは避けたいでしょう?」
「人の仕事と住処を勝手に奪わないでください!」
「――最初に勝手に消えたのは、誰?」
――自分でも、思っていた以上に冷たい声が出た。フィンが息を飲んだのがわかった。そして、怯えたように視線をバラへと落とした。……怖がらせたい、わけではないんだけど……。
「……フィンはご両親にも自分の行方を教えなかっただろう。とても心配していたよ。僕の臣下を集めて、国中を探してようやく見つけた時、どれだけ安堵したかわかる?」
「……心配、してくださっていたんですか……?」
信じられないとばかりに僕に視線を向けたフィンに、僕はゆっくりとうなずいた。
「僕がどれだけフィンのことを愛しているのか、わかってなかったんだね……」
五歳の時にプロポーズした時も、十歳の頃にプロポーズした時も、そして、十年後の今でさえ。そのことが悲しくて、胸が痛い。
「――では、屋敷についたら、僕がどれだけフィンのことを愛しているのか、教えてあげる」
にこりと微笑んでそう言うと、クラウスがフィンに向かって、「この人に好かれるなんてついてませんね」と呟いた。……クラウス、それどういう意味……?
「……我が主ながら凄まじい執着心をお持ちで」
「序の口だよ、クラウス」
にこりと微笑んでそう言うと、クラウスもにこりと微笑んだ。
クラウスは僕より五歳年上で、フィンと同じ年齢だ。僕の護衛になったのは僕が十歳の頃――要するに、フィンが僕の元から居なくなってしまったあと。
彼は結構明け透けに話すほうで、僕のストッパーにもなってくれている。実の兄ではないけれど、兄のように思える人だ。
「それにしても、本当に僕について来て良かったのかい? 君なら行く手数多だろう」
「いやぁ、ここまで来たら殿下の恋の行方がどこに向かうのか、見届けたいじゃないですか」
中々好奇心も高いようだ。四六時中一緒に居るため、そう言う性格だと言うことはわかっている。
「そこそこ綺麗な道なんだが……」
「もうちょっと手を加えたらより走りやすいでしょうね」
ちなみに御者はディルクだ。彼は多趣味で色々なことが出来る。一時期護衛と言うよりも執事のような働き方をしていたので、クラウスが「本業!」と首根っこ掴んで辞めさせたことがある。
そんなディルクは僕の六歳上だから、何とクラウスの一個年上なのだ。どちらかと言うとディルクのほうが子どもっぽく見えるのに、人とは話してみないとわからないものだ。
「あ、そろそろです」
「……そう」
バラの花束をぎゅっと抱きしめる。フィルの住んでいる場所に行くには、馬車から降りてからじゃないと。馬車の通れない細い道を歩いていくと、中々歴史を感じる建物があり、そこの一室に住んでいることは調査済みだ。
馬車を降りてフィンの住んでいる場所に向かう。フィンはまだ帰って来ていないハズ。
バラの花束を持っているからか、とても目立っている。人の視線を感じる。見られることには慣れているから、苦ではないけれど。
フィンの住んでいる建物の前に立ち、彼の帰りを待ちわびる。ざわざわと人の騒ぐ声が聞こえるけれど、僕に声を掛ける勇気はないようだ。
そのうちに、待ち人が来て僕の姿を見ると大きく目を見開いた。
――この日をずっと、待っていた。
「……レオン、殿下……?」
ああ、僕はいつの間にかフィンよりも背が高くなったのか。
茶色の髪は少し伸び、鳶色の瞳は驚きで丸くなっていた。あまり食べられていないのか、細身なことが気になったけれども……十年ぶりに逢ったフィンは、とても魅力的に見えた。
「久しぶりだね、フィン。僕ね、この前成人を迎えたんだ」
スタスタとフィンに向かって歩いていく。フィンは、金縛りにでもあったかのように動かない。
「なので、あなたを迎えに来ました。フィン、僕と結婚してください」
「………………、――考えた結果俺には身分不相応なのでお断り申し上げます」
あっさりと断られた。しかもノンブレスで。申し訳なさそうに眉を下げて曖昧に微笑むフィンに、僕は優しく微笑みかけた。そのことに、フィンが怪訝そうな表情を浮かべる。こうなるだろうと予想はしていたから、対策を考えて来ていて良かった。
僕がフィンに花束を押し付けると、フィンは困惑したのかそれを受け取った。ちらりと、クラウスに視線を向けると、彼は僕らに近付いて、フィンに耳打ちをする。そして、視線を花束から僕へ勢いよく移した。
クラウスが一歩引いて、代わりに僕がフィンの腰を抱くと、困惑のざわめきが広がっていく。僕はそのまま、彼を馬車まで連れて行って乗せ、屋敷へと戻る。
「……どういうおつもりですか?」
「……それはこちらのセリフだよ、フィン。黙ってこんなところに行くなんて」
「それは……。家が没落しましたし、もう殿下とお会いすることもないと……」
クラウスも乗っているけれど、クラウスはあまり僕らの会話に入ってこようとは思わないのだろう。口を閉ざしたままだ。
「それに、さっきの言葉はどういう意味ですか」
「クラウスの言った通りだよ。本屋の主人にも、あの建物の主にも、きちんと了承を得ている。あなたは僕のところで暮らすのだから」
フィンを見つけてから、密かに行ってきたこと。僕が成人し、フィンを迎えに行くのに少し時間が掛かったのはこのせいだ。クラウスはやっぱり口を閉ざしていたが、小さく息を吐いた。フィンに顔を向けると、淡々とした口調で言葉を発する。
「本屋の退職も、住む場所の解約もこちらが手を回しました。あの辺の治安はあまり良いとは言えないので、野宿になるのは避けたいでしょう?」
「人の仕事と住処を勝手に奪わないでください!」
「――最初に勝手に消えたのは、誰?」
――自分でも、思っていた以上に冷たい声が出た。フィンが息を飲んだのがわかった。そして、怯えたように視線をバラへと落とした。……怖がらせたい、わけではないんだけど……。
「……フィンはご両親にも自分の行方を教えなかっただろう。とても心配していたよ。僕の臣下を集めて、国中を探してようやく見つけた時、どれだけ安堵したかわかる?」
「……心配、してくださっていたんですか……?」
信じられないとばかりに僕に視線を向けたフィンに、僕はゆっくりとうなずいた。
「僕がどれだけフィンのことを愛しているのか、わかってなかったんだね……」
五歳の時にプロポーズした時も、十歳の頃にプロポーズした時も、そして、十年後の今でさえ。そのことが悲しくて、胸が痛い。
「――では、屋敷についたら、僕がどれだけフィンのことを愛しているのか、教えてあげる」
にこりと微笑んでそう言うと、クラウスがフィンに向かって、「この人に好かれるなんてついてませんね」と呟いた。……クラウス、それどういう意味……?
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