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3話:再会の言葉はプロポーズで飾る。

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 そして翌日、僕はすっきりと目覚められた。ここしばらくゆっくり休めていなかったから、こんなに休めたのは久々で何だか清々しい気持ちだった。……理由はわかっている、フィンに会えるからだ。
 そんなことを考えていたら、トントントン、と控えめなノックの音が聞こえた。

「入れ」
「失礼いたします。ゆっくり休めたでしょうか」
「ああ。……そう言えば、名前を聞いていなかった。名は?」

 昨日僕を出迎えてくれたひとり――恐らくは執事長。彼は僕の元に来て跪いた。

「ギルベルト・デニス・フランクと申します。この屋敷の執事長を任されておりました」
「顔を上げよ。では、こちらも改めて自己紹介をしよう」

 僕は彼の前で微笑んでみせる。そして、自分の胸元に手を置いて、自己紹介を始めた。

「僕はレオン・フォン・ロッシュ。ロッシュ王国の第三王子ではあるが、恐らく知っているだろう。王位継承権は放棄した」
「存じております。そして、レオン殿下がこのアルムシェに来た理由も」

 執事長を任されていた、と言う過去形な言葉と、僕がこのアルムシェの領主になった理由を知っていることが気になる。

「お前は僕の味方か、敵か。それとも、どちらとも判断出来ない感じか、三択あるけどどれ?」
「……まず、殿下に聞いて頂きたい話があるのですが……」

 ですが、その前にとギルベルトは「朝の支度を」と口にしたので、僕はうなずいた。今更だが寝間着で対応していたことに気付いたのだ。
 執事長だけあってその仕事ぶりは、てきぱきと動いていて見ていてとても心地が良いものだった。
 朝食を終えて改めてギルベルトを見る。

「それで、話とは?」
「……レオン殿下が同性婚の法律の立案者と言うのは、本当でしょうか」

 僕はお茶を飲み込んで、こくりとうなずく。ギルベルトは何を言いたいのだろうか。僕が無言で言葉を促すと、跪いて頭を深々と下げた。……何の真似だろう?

「……実は、私の娘は同性愛者だったのです。そのことで、いつも悩んでいたみたいなのですが、ある時から急に吹っ切れたように明るくなり、今では想い人と婚姻を結び幸せに暮らしております。殿下の発案がなければ、あの子の明るい笑顔を取り戻すことは出来なかったでしょう。……御礼申し上げます……」

 ……そう言う声は手紙として届いていた。もちろん、罵倒する手紙もあったが、それを上回るほどの感謝の手紙だ。

「そう、それは良かった」
「……レオン殿下の想い人を、この屋敷に住まわせる予定でしょうか?」
「もちろん。フィンが僕のことをどう思っているのかはわからないけど、……いや、多分子どもの言うことだと思ってるかも。……それでも、僕の気持ちは五歳の頃から変わらない」

 一度だって色褪せたことはない、大切な想い出たち。心から、フィンを望んでいる。

「後ろ指を指されることもあるでしょう。正面からぶつかる者も居るでしょう。――それでも、このアルムシェの領民たちを、守って頂けますか?」

 すっと顔を上げて僕にそう問う。僕は、ギルベルトの言わんとすることを汲み取って小さく笑みを浮かべる。

「フィンを蔑ろにしなければね」

 少し驚いたように目を瞠るギルベルトは、どこか面白いものを見るかのように僕を見た。そして本当に面白かったのか、くっくっくと肩を震わせて笑う。

「申し訳ございません。確かに、聞いていた通りのお方ですね。ギルベルト・デニス・フランクはあなた様方を歓迎いたします」
「それはどうも。……ところで、バラは用意してくれた?」
「もちろんでございます」
「そう、なら、フィンの仕事が終わる夕方頃に迎えに行くから、準備をよろしく頼む」
「かしこまりました」

 朝食も食べ終わったし、少し資料を纏めよう。……フィンを迎える前に、やるべきことをやっておかないと。

「クラウスとディルクは?」
「屋敷内を探索する、とのことです」
「……なるほど」

 彼らが僕の元から離れていると言うことは、敵意を感じる者が居ないと言うことか。

「……ギルベルト、執務室はどこ?」
「ご案内いたします」

 ギルベルトに執務室まで案内してもらい、僕はフィンの仕事が終わるまで元の領主が溜め込んでいた書類を纏めたりしていた。アルムシェの領主は十年くらいで変わってしまう。それだけここが領地としては治めるのが難しい場所と言うことだ。
 国境に近いこの場所は危険にも近い。ここに来る途中に襲ってきたヤツラのこともあるし、フィンが安心して暮らせる領地にしなければ……。
 そんなことを考えていると、あっという間に時間が過ぎていった。
 トントントン、と軽いノックの音。ノックの仕方でクラウスだとわかる。

「殿下、仕事が終わって帰路についたようですよ」
「わかった、すぐ行く」

 クラウスの言葉を聞いて、僕は外に出る準備を始めた。ギルベルトはきちんと、馬車の用意をしてくれていた。アルムシェのマークが入っている馬車だ。綺麗に磨かれているのを見ると、彼らがきちんと手入れをしているのがわかる。

「レオン殿下、こちらを」
「ありがとう。では、少し行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」

 深々と頭を下げて僕らを見送るギルベルト。百八本の赤いバラは甘く魅惑的な香りを漂わせていた。
 ……長かった。僕が成人するまで、とても長い時間を過ごしていたように思う。
 フィン、やっと迎えに行ける。
 再会の言葉はプロポーズで飾ろうと、ずっと考えていたんだ。
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