【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

海里

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web拍手再録(現代シリーズ)

拍手お礼SS ルードが風邪をひく話(2020/12/24)

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「くしゅっ」

 ティッシュを手に取って鼻をかむルードに、おれは「大丈夫ですか?」と声を掛けた。ルードはこくりとうなずいたけれど、瞳は潤んでいるし、頬は赤らんでいるし、寒そうに震えているし……どう見ても体調を崩しているようにしか見えない。

「ルード、熱計ってみましょう?」

 体温計を用意して、ルードに渡す。ルードはちょっと躊躇ったみたいだけど、素直に受け取って熱を計る。体温計の使い方はルードがこの世界に来た時に姉が懇切丁寧に教えていた。曰く、ルードのいた世界は温度差があまりないから、日本の四季には身体がついて行かないんじゃないか、と。
 どうやら姉の考えは当たったみたいだ。ピピピッと体温計が鳴った。それを受け取っておれは固まる。三十八度九分……! こ、高熱だー!

「ね、ね、姉ちゃんっ、ルードが風邪ひいた!」
「あ~、やっぱり身体がついて行かなかったかぁ……。おかゆ作るね。りんご摩り下ろしたほうが良いかな……? あ、ヒビキ、あんたは今日一日ルードの看病係ね!」

 ルードはぼーっとしているし、姉はせっせとおかゆを作り始めるし……とりあえず、おれはルードの手を取って部屋へ移動させた。ベッドに座らせて、受けていた看病の内容を思い出し、慌ててお湯とタオルを用意してルードを脱がせると、まずはタオルをお湯につけてぎゅっと絞り、汗を拭いた。その後厚手のパジャマを着させて(自分で着た)、ルードをベッドへ入れる。
 水の入ったボウルとタオルを姉が用意してくれた。こまめに取り替えること、と言い残してお湯の入ったボウルと汗を拭ったタオルを回収していく。

「ルード、食欲は?」
「あまり……」
「んー、喉の調子もあまり良くなさそうね。摩り下ろしたりんごにはちみつ入れとくわ。それを食べたら市販薬の風邪薬飲むこと。そして、ゆっくり休む! ヒビキ、後はお願いね。私、今日バイトの日なの」
「あ、うん。がんばる」
「ええ、頑張りなさい。一時間に一回は換気しなさいね。じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」

 ひらりと手を振って姉はバイトへと向かった。大学生って多忙だな……。冬休み中のおれは家でのんびりと課題をこなしていたけど……。そう言えば最近までルードはモデルの仕事を詰め込んでいたっけ。代わりにクリスマスから年始まで休みだと微笑んでいた。
 謎の美青年ってことでかなり話題になったし、仕事も増えて来たみたい。ただ、テレビだけはやめて……、と姉に懇願されてファッション雑誌だけの仕事に絞っている。

「……摩り下ろしたりんご、持ってきますね」
「……うん……」

 熱でぼんやりしているのか、ルードがちょっと幼く感じる。つらいだろうから、早く治って欲しい。
 キッチンに向かい、摩り下ろされたりんごの入った器と、スプーン、ミネラルウォーター、コップ、風邪薬をトレイに乗せてルードの元に急いで戻る。冬休み中で良かった。こうやって看病できる。
 部屋に入り、ルードの身体を支えるようにして起こして、スプーンを手に取らせ摩り下ろしたりんごを食べさせようとしたけど、熱でうまく手が動かないのか一口食べるのも大変そうだ。
 おれはルードからスプーンを取って、代わりにりんごを掬って口元へと運ぶ。ルードはちょっと戸惑ったようだけど、すぐにおれの意図を汲んで口に含んでくれた。食べやすいのか、全て食べてくれた。その後、コップにミネラルウォーターを入れて、風邪薬を飲ませると、ベッドに横にさせた。水の入ったボウルにタオルを入れて、ぎゅっと絞りルードの額に乗せる。

「ゆっくり休んでくださいね」
「……うん……」

 目を閉じるルードに、おれはそうっと食器を片付けるために部屋から出て行く。
 キッチンのコンロの上に土鍋が置いてあった。ぱかっと開けると卵粥が作られていた。お昼はこれを食べさせよう。
 食器を洗い、拭いて、食器棚に戻してから部屋に戻った。タオルは既に熱くなっていて、慌ててタオルを冷やして絞り、またルードの額に乗せた。タオルが熱くなったら取り替え、を繰り返し、一時間に一回は換気をして……。
 風邪薬が効いているのか、苦しげだが眠っている。……早く治りますように。そう祈りながらタオルを取り替える。時折うなされているルードに、ぽんぽんと布団の上から胸を優しく叩いて子守歌を歌う。
 小さい頃……おれが風邪をひいた時、こうやって母が看病をしてくれた。ほんの少しだけど、ルードの表情が穏やかになったのを見て、水を取り替えようかとボウルを取ろうとすると、その腕を掴まれた。
 そしてそのままベッドに引きずり込まれた。

「ルード?」
「――……」

 無意識、なのかな。人肌が恋しいのかもしれない。ぎゅうっと抱きしめられておれはそっと目を閉じた。




「……ひびき?」
「あ、起きました?」

 全然離してもらえなくておれまで一緒に寝てしまった。おれが起きてからもルードは寝ていて、がっしりと抱きしめてられて身動きが出来なかったのだ。
 うっすらと目を開けるルードの表情が幼い。……こう見るとイケメンだけど、可愛いと思えてしまう。

「……すまない……」
「いいえっ、具合はどうですか?」
「大分マシになった」

 良かった、とおれが笑みを浮かべると、ルードはちょっと戸惑ったようだった。そして、ぐぅ、とおれの腹の虫が鳴り、ちょっと遅いお昼ご飯として姉の作ってくれた卵粥を一緒に食べて(大量に作ってくれていたし)、もう一度ルードに市販薬を飲ませて寝かせる。ぎゅっとおれの手を握るルードに、もしかしたらルードって、結構な寂しがりやなのかなぁ、なんて思いつつも、ルードが早く良くなりますように、と祈りながら彼の傍に居た。おれの祈りが通じたのか、ルードの身体がすごいのか、翌朝にはすっかり良くなっていてびっくりした。

「あれほど体調を崩したのは久しぶりだ……。二度と味わいたくないな」

 と、しみじみ呟くルードにちょっと笑ってしまった。でも、治って良かった! 熱でぼんやりしている時のルードが可愛かったことは、ルードにも姉にも秘密にしておこうっと。

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