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web拍手再録(本編設定)
拍手お礼SS 三人で刺繍(2020/06/14~2020/06/30)
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・2部終了後
・ヒビキ、ニコロ、リアで刺繍
ニコロがおれの護衛になって一週間が経過した。とはいえ、この一週間外に出ることがなかったから、ただおれの傍にいるってだけだ。暇そうにしているニコロを誘って一緒に刺繍を始めた。もちろん、リアが教えてくれながら。
器用なのか慣れているのかチクチクと針を動かす姿は迷いがなく、思わず惚れ惚れしてしまうほど。
「習ったことが?」
「孤児院で」
リアの質問にニコロは短く答えた。孤児院って刺繍もするんだ? と首を傾げると、ニコロはバサーなどで売っていたことを話してくれた。それなりにきれいだと売れるらしい。収入面で不安定ではあるから、子どもたちの暇つぶしも兼ねているとか。外で遊んだり中で遊んだりする中で、様々なことを学んでいく……らしい。
「ニコロの作ったのだとサディアスさん、喜んで買っていきそうだね」
「やめてください」
「ええ。買うならいいのでは……」
「聖騎士団長ともあろう者が素人の作った物を持ち歩くわけがないでしょう」
そういえばニコロってリアに対しては敬語なんだな。まさかリアのほうがニコロより年上だったりするんだろうか。この世界の人たちさっぱり年齢がわからない。わかるのは美男美女が多いってことくらいだ。リアも美人だし。うーん。
「そういえば、商業ギルドでリアの旦那さんと会ったよ」
「夫も言っていましたわ。ヒビキさまにお会いしたって」
「リアの旦那さん……ああ、あの人か」
納得したようにうなずいて、ニコロは刺繍の手を止めた。それからリアの淹れたお茶を飲んで、ゆっくりと息を吐く。
「リアとの冒険談聞いてきたんだ」
「ふふ、ヒビキさまは冒険談がお好きですね」
「冒険物は読むのも好き。楽しいから」
「冒険してみたいって思いますか?」
ニコロの言葉にうーんと考え込む。聞くのと実際に体験するのは違うだろうし、興味はあるけど冒険って危険も伴うだろうし……。
「あれ、そういえばリアは魔物と戦ったことあるの?」
聖騎士団の【浄化の力】がなければ魔物は倒せないハズ。そうなると、冒険をしていたリアはどうやって魔物と戦っていたんだろう。結界外なら魔物もいるだろうし。
刺繍をテーブルに置いて、リアは少し考えるように頬に手を添えてからにこりと微笑んだ。
「私には【浄化の力】はありませんが、夫が持っていたので普通に戦っていましたね」
「コーディさんが?」
「傭兵で【浄化の力】を持っている人は少なくありませんから……」
コーディさん傭兵だったのか……。じゃあリアが護衛として雇ってそのまま結婚したってことなのかな。リアは楽しそうに冒険談を話してくれた。それを聞きながら刺繍をする。【浄化の力】を持っている人って、どのくらいいるんだろう。
「ああ、そう言えば……ヒビキさまは、ハンカチをルードさまにしか渡していませんよね?」
「え? ああ、うん」
「なら、ご自身で刺繍をしたものはルードさま以外には渡さないでくださいね」
刺繍したハンカチを? と首を傾げてリアを見ると、彼女は休めていた手を再び動かし始めた。ちくちくちくちくと高速で仕上げていく。ニコロは「はやっ」と小声で呟き、リアは楽しげに目元を細めた。
「恋仲でハンカチを渡すのは、『あなたに心を預けます』って意味があるのです」
「……そんなこと言ってなかったよね!?」
「うふふ」
お茶目か! 知らないで渡してた! 多分、ルードもおれが知らないで渡していたってことを知ってるんだろうなぁ。ああ、だからニコロがサディアスさんに渡したくないのか。……顔を真っ赤にしていったニコロを思い出して、じぃと彼を見るとおれの視線に気づいたニコロと目が合った。
「サディアスさんとはあれから会った?」
「いえ。全然」
確かにこの一週間ずっとおれと一緒に居たもんな。ルードがサディアスさんになにか言ったのか、彼が屋敷に来ることもなかったし。
「ニコロの休みって今、どうなっているの?」
「え? 隊長からはヒビキさまが屋敷の外に出る時以外は、好きにしろって言われてますけど」
「つまり、おれが屋敷に居る間ならいつ休んでも大丈夫ってことなんだね。なら、明日ニコロ休みね! 決定!」
「はい?」
「明日、ルードが休みだから。ニコロも休もう?」
昨日ルードから聞いたこと。休みの日だからいっぱいイチャイチャしようって寝る前に言われたのを思い出した。普段からイチャイチャしている気がするのは気のせいではないだろうけど、明日はきっとそれ以上に甘い行為が待っているのだと思う。
「まぁ、ヒビキさまが屋敷から出ないのであれば……。隊長がいるなら大丈夫でしょうし」
「だからさ、ちゃんとサディアスさんと話し合ってきて欲しいなーって」
「……いや、それは……。ほら、忙しいだろうし……」
おれから視線を外して手を動かし、刺繍を終えたニコロが肩をすくめる。少しだけ頬が赤くなっているような……。リアはふと思いついたようにぱんと両手を叩いた。
「り、リア?」
「そう言えば、明日買い物したかったんです。ニコロをお借りしても?」
「買い物?」
「重い物もあるので、男性の力が欲しいのです。ニコロ、良いかしら?」
「……まぁ、良いけど」
それじゃあ決定ねと笑うリア。彼女はおれに対してぱちんとウインクをした。あ、これリアはサディアスさんとニコロを会わせるつもりだ。リーフェじゃなくても、ニコロとサディアスさんのことを応援している人が屋敷にはいるんだな。
幸せの形は人それぞれだけど――ニコロとサディアスさんが幸せになってくれたらいいなって、心の底から願うよ。
・ヒビキ、ニコロ、リアで刺繍
ニコロがおれの護衛になって一週間が経過した。とはいえ、この一週間外に出ることがなかったから、ただおれの傍にいるってだけだ。暇そうにしているニコロを誘って一緒に刺繍を始めた。もちろん、リアが教えてくれながら。
器用なのか慣れているのかチクチクと針を動かす姿は迷いがなく、思わず惚れ惚れしてしまうほど。
「習ったことが?」
「孤児院で」
リアの質問にニコロは短く答えた。孤児院って刺繍もするんだ? と首を傾げると、ニコロはバサーなどで売っていたことを話してくれた。それなりにきれいだと売れるらしい。収入面で不安定ではあるから、子どもたちの暇つぶしも兼ねているとか。外で遊んだり中で遊んだりする中で、様々なことを学んでいく……らしい。
「ニコロの作ったのだとサディアスさん、喜んで買っていきそうだね」
「やめてください」
「ええ。買うならいいのでは……」
「聖騎士団長ともあろう者が素人の作った物を持ち歩くわけがないでしょう」
そういえばニコロってリアに対しては敬語なんだな。まさかリアのほうがニコロより年上だったりするんだろうか。この世界の人たちさっぱり年齢がわからない。わかるのは美男美女が多いってことくらいだ。リアも美人だし。うーん。
「そういえば、商業ギルドでリアの旦那さんと会ったよ」
「夫も言っていましたわ。ヒビキさまにお会いしたって」
「リアの旦那さん……ああ、あの人か」
納得したようにうなずいて、ニコロは刺繍の手を止めた。それからリアの淹れたお茶を飲んで、ゆっくりと息を吐く。
「リアとの冒険談聞いてきたんだ」
「ふふ、ヒビキさまは冒険談がお好きですね」
「冒険物は読むのも好き。楽しいから」
「冒険してみたいって思いますか?」
ニコロの言葉にうーんと考え込む。聞くのと実際に体験するのは違うだろうし、興味はあるけど冒険って危険も伴うだろうし……。
「あれ、そういえばリアは魔物と戦ったことあるの?」
聖騎士団の【浄化の力】がなければ魔物は倒せないハズ。そうなると、冒険をしていたリアはどうやって魔物と戦っていたんだろう。結界外なら魔物もいるだろうし。
刺繍をテーブルに置いて、リアは少し考えるように頬に手を添えてからにこりと微笑んだ。
「私には【浄化の力】はありませんが、夫が持っていたので普通に戦っていましたね」
「コーディさんが?」
「傭兵で【浄化の力】を持っている人は少なくありませんから……」
コーディさん傭兵だったのか……。じゃあリアが護衛として雇ってそのまま結婚したってことなのかな。リアは楽しそうに冒険談を話してくれた。それを聞きながら刺繍をする。【浄化の力】を持っている人って、どのくらいいるんだろう。
「ああ、そう言えば……ヒビキさまは、ハンカチをルードさまにしか渡していませんよね?」
「え? ああ、うん」
「なら、ご自身で刺繍をしたものはルードさま以外には渡さないでくださいね」
刺繍したハンカチを? と首を傾げてリアを見ると、彼女は休めていた手を再び動かし始めた。ちくちくちくちくと高速で仕上げていく。ニコロは「はやっ」と小声で呟き、リアは楽しげに目元を細めた。
「恋仲でハンカチを渡すのは、『あなたに心を預けます』って意味があるのです」
「……そんなこと言ってなかったよね!?」
「うふふ」
お茶目か! 知らないで渡してた! 多分、ルードもおれが知らないで渡していたってことを知ってるんだろうなぁ。ああ、だからニコロがサディアスさんに渡したくないのか。……顔を真っ赤にしていったニコロを思い出して、じぃと彼を見るとおれの視線に気づいたニコロと目が合った。
「サディアスさんとはあれから会った?」
「いえ。全然」
確かにこの一週間ずっとおれと一緒に居たもんな。ルードがサディアスさんになにか言ったのか、彼が屋敷に来ることもなかったし。
「ニコロの休みって今、どうなっているの?」
「え? 隊長からはヒビキさまが屋敷の外に出る時以外は、好きにしろって言われてますけど」
「つまり、おれが屋敷に居る間ならいつ休んでも大丈夫ってことなんだね。なら、明日ニコロ休みね! 決定!」
「はい?」
「明日、ルードが休みだから。ニコロも休もう?」
昨日ルードから聞いたこと。休みの日だからいっぱいイチャイチャしようって寝る前に言われたのを思い出した。普段からイチャイチャしている気がするのは気のせいではないだろうけど、明日はきっとそれ以上に甘い行為が待っているのだと思う。
「まぁ、ヒビキさまが屋敷から出ないのであれば……。隊長がいるなら大丈夫でしょうし」
「だからさ、ちゃんとサディアスさんと話し合ってきて欲しいなーって」
「……いや、それは……。ほら、忙しいだろうし……」
おれから視線を外して手を動かし、刺繍を終えたニコロが肩をすくめる。少しだけ頬が赤くなっているような……。リアはふと思いついたようにぱんと両手を叩いた。
「り、リア?」
「そう言えば、明日買い物したかったんです。ニコロをお借りしても?」
「買い物?」
「重い物もあるので、男性の力が欲しいのです。ニコロ、良いかしら?」
「……まぁ、良いけど」
それじゃあ決定ねと笑うリア。彼女はおれに対してぱちんとウインクをした。あ、これリアはサディアスさんとニコロを会わせるつもりだ。リーフェじゃなくても、ニコロとサディアスさんのことを応援している人が屋敷にはいるんだな。
幸せの形は人それぞれだけど――ニコロとサディアスさんが幸せになってくれたらいいなって、心の底から願うよ。
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