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web拍手再録(現代シリーズ)

拍手お礼SS 花見編 後編(2020/04/12~2020/05/01)

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~もしも迷い込んだのがヒビキではなくルードだったら~

異世界→日本



「お花見? 良いんじゃない?」

「姉ちゃんは行かないの?」

「んー、やりたいゲームがあるのよねぇ……」



 すっとパソコンを指す姉に、どんなゲームなのか把握しておれは遠い目を向ける。



「あ、この間彼氏に聞いたところ教えてあげよっか? 穴場だったわよ」

「良いよ、別に。ルードも一緒に来るかわからないし……」

「私がどうかしたか?」



 いつの間にかルードもリビングに来ていた。って言うか、姉は一足早くお花見を満喫してきたみたいだ。



「ああ、ルード。ちょうどいいところに。ね、響希を花見に連れて行ってもらえない?」

「花見?」

「あ、そういう習慣ないのかな? 今、桜がちょうど満開を迎えているからね、花を見て愛でるのよ」

「花は好きだが……。面白い習慣があるのだな」



 ルードの世界ではお花見ってないのかなー? と姉と視線を交える。すると、姉は立ち上がっておれらに向かってにこやかに笑みを浮かべてこういった。



「折角だから、お弁当作ってあげる。それ持って夜桜を楽しんでらっしゃい。あ、でも遅くまでいちゃダメよ。明日も学校なんだから」

「はーい。……って、あれ、ルードも一緒?」

「当たり前でしょ。響希はちょっと手伝って。ルードはちょっと待ってて」

「私も手伝うか?」

「ううん、大丈夫。それに響希のほうが使い勝手が良いのよ」

「姉ちゃん……」



 使い勝手ってなんでしょうか……。じろりと姉を睨むも、姉は全然気にしていないようでおれをキッチンまで連れててきぱきとお弁当を作り始める。ルードがその様子をなぜか微笑ましそうに見ていた。



「答えは出たの?」

「う……」

「だと思った。なら、響希のお姉ちゃんである私から一言」

「な、なんだよ……?」

「自分の心に正直になりなさい。以上!」



 おにぎりや、冷凍しておいた肉団子、冷蔵庫からアスパラとベーコンを取り出して手際よく姉は弁当を作る。おれも、一応姉の言う通りに動いたけど、実質ほぼ姉が作ったものだ。姉はそう言うと、おれの心臓辺りを手の甲でぽんと叩いた。

 正直になりなさい、と言われても……。困惑しているおれを放置して、姉はどんどんと弁当箱におかずを詰めていく。



「はい、出来た」



 ものの三十分もしないうちにお弁当が出来上がって、それをおれに押し付ける。受け取ってちらりと姉を見ると、すごく優しく微笑んでいてびっくりした。それから、おれの背に回りぐいぐいと背中を押す。



「ほらほら、早く行かないと遅くなっちゃうでしょ。私のことは気にしなくて良いから、ふたりで見ておいで」



 レジャーシートや水筒を用意している姉に、おれらは一度部屋に向かって防寒着を着ることにした。ホワイトデーにもらったコートを着て、財布とかが入ったカバンを手に持って、玄関まで向かう。



「……ああ、やはり似合うな」

「……ありがとうございます」

「うんうん、似合ってる似合ってる。はい、じゃあ行ってらっしゃい」



 弁当と水筒、レジャーシートをひとつに纏めた袋を渡されてそれを受け取る。姉が大きく手を振って見送ってくれたから、おれとルードも軽く手を振って「行ってきます」と家を出た。

 花見客はそこそこ居るようだったけど、ルードが「こっちにおいで」とぐんぐん進んでいくのでそれについて行った。着いたのは、人が少ない場所だ。もしかして姉が言っていた穴場、なんだろうか。



「ここなら落ち着いて食べられるだろう?」

「そうですね」



 レジャーシートを広げて座る。弁当箱を取り出して、ふたつある水筒のひとつをルードに渡した。風があまり吹いていない、穏やかな夜だ。弁当箱の蓋を開けて、ふたり一緒に「頂きます」と口にしてから箸を取る。急遽作ったにしては豪勢な弁当を美味しく食べて、それからごろんと横になる。



「きれいですね」

「そうだな」



 ――桜よりも、ルードのほうがきれいに見えてしまった。藍色の髪が風に吹かれてふわりと広がる。ルードはおれの視線に気付いたのか、そっと頭を優しく撫でてくれた。撫でられるのは好きだ。おれは起き上がって、ルードと視線を合わせる。



「ルード、あの、返事、なんですが……」



 言葉を切ってしまうのは、これから言うことが怖いからだ。ルードは首を傾げる。



「――お試しから、ではダメでしょうか……?」



 星空に昼間言われたことを思い出す。失礼なことだとは思うんだけど……。おれの言葉にびっくりしたようにルードは目を瞬かせた。



「ふむ……。なら、その『お試し』の間に、ヒビキを私に惚れさせれば良いのかい?」

「えーと……、そう、なの、かな?」



 お試しで付き合うって言ってもなにをどうするのかさっぱりわからない。ルードはそんなおれの様子に小さく笑い声をあげた。その声に視線を向けると、ルードは愛しそうにおれを見て、それからもう一度頭を撫でた。



「私に望みがありそうだ。その提案、ありがたく受けさせてもらおう」

「お、お手柔らかにお願いします……」



 ――本日、恋人(仮)が出来ました。

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