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web拍手再録(現代シリーズ)
拍手お礼SS ホワイトデー編(2020/03/13~2020/04/12)
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~もしも迷い込んだのがヒビキではなくルードだったら~
異世界→日本
・ホワイトデー編
バレンタインから一ヶ月経過した。つまり今日はホワイトデー。卒業式も終わったとは言え、在校生はまだ通学しないといけない。部活もあるし。
……部活仲間には一口チョコをもらったのでお返しにクッキーを渡した。某メーカーのちっちゃいやつ。姉には「なんでそれ?」と聞かれたが、二十円のチョコのお返しに八十円くらいのお菓子だから良いじゃんと返した今朝。
そして家に帰ったらなぜかルードがそわそわとしていて、おれは首を傾げた。
姉がそわそわしているのはこれからデートだからだろう。綺麗に着飾って、何度も鏡をチェックしていたし。だけど、なんでルードが?
「夕飯はいつものように作ってあるから、あっためて食べてね。ルード、ホワイトデーのお返しありがとう。大事に頂くね! それじゃあ行ってきます!」
いつの間にか姉にお返しをしていたらしい。多分、あの紙袋に入っているのがお返しの品だろう。有名なところのお菓子と見た。彼氏さんと食べる気なんだろうか。
「ヒビキ」
「はい」
夕食を食べ終えてもそわそわしていたルードに声を掛けられて、顔を彼へ向けるとルードはおれに「少し待っていてくれ」と客間に向かう。ルードがいつも使っている部屋だからもう客間と呼ぶよりルードの部屋だな。
五分もしないうちに戻ってきて、おれに箱を差し出した。割とでかい。
「これは?」
「今日はホワイトデーなのだろう? バレンタインチョコのお返しをする日、と聞いている」
「はぁ、まぁ、そうですが。なんでおれに?」
バレンタインデーにチョコをあげたのは事実だ。だが、それは姉との合作だったし、半分くらいはおれも一緒に食べてしまった。なのでルードからお返しをもらうつもりはなかったし、ルードも姉にだけ渡すものだとばかり思っていた。
――箱の大きさからお菓子じゃないことはわかる。
「ヒビキに似合いそうなものだと思って。受け取ってくれると嬉しい」
にっこりと微笑まれておれは「はぁ……」としか呟けなかった。とりあえず、開けていいか確認してみる。こくりとうなずくのを見て、さっそく開封した。
「……あの、これって」
「ヒビキによく似合うと思う」
箱に包まれていたのはスプリングコートだった。淡い水色の。確かに駅前でこういうの良いなーなんて視線で追っていたけど、値段を見て諦めていたコート。
「いやいやいや、ちょっと待って、おかしいでしょう!?」
このコート確か三万はする! だからおれは諦めたんだ! そしてなにより、こんな高価な物を受け取れない!
「私がヒビキに服を贈ってはいけないのかい?」
「あのですねっ、バレンタインのチョコ、姉と合作だって言いましたが、材料費は全部姉です! おれがこれを受け取るわけには……!」
「? なぜ? チョコをくれたのは事実だろう?」
事実だけど……! そもそも姉に言われて、だし。それをこんなに高価な物で返されても困る! 姉のようにお菓子をくれるんだったらまだわかるんだけど、なんでコート!?
「それに彼女にはもうお返しを渡したし、流石に恋人のいる女性に服を贈るなど無粋な真似は出来ない」
「おれに恋人がいる可能性はない、と?」
「いないだろう? いたら私と共にいないはずだ」
当たってるけどなんかむかつく! どうせ彼女いない歴=年齢だよちくしょー!
ルードは多分、なにか気に障ったのかと眉を下げている。それでもこんな高価な物受け取ることなんて出来ないので、どうやって突き返そうか悩んでいると、彼が言葉を重ねてきた。
「それに本命にはお金をかけるものだと聞いた」
「誰に」
「ヒビキの姉に」
姉よ、ルードになにを吹き込んだ……!
がくりと肩を落とすおれ。……ん? いやちょっと待て、その前になにか、ルードはおかしなことを言っていなかったか?
「本命……!?」
「ああ、そこにようやく気が付くのか」
鈍くて悪かったな! じゃなくて!
「いやいやいやいや、ちょっと待って。おれの頭じゃ色々追い付いてない!」
「わかった、ヒビキが理解できるまで待とう。が、とりあえずこれは受け取ってくれ。ヒビキのために買ったのだから」
「あ、はい、ありがとうございます……?」
って、思わず受け取っちゃったよ……!
おれはとりあえず、逃げるように自室へ駆け込んだ。落ち着かなくては!
コートを広げてみる。うん、やっぱりこういうの好きだなぁ、ってそうじゃない!
思わず現実逃避してしまった。コートをハンガーにかけてクローゼットへしまう。それからベッドに大の字で寝転んで、深呼吸を繰り返した。
一体いつから?
姉は気付いていたのか?
だめだ、今日は思考がまとまる気がしない。こういう日はもうさっさと寝るに限る!
後日、ルードがモデルの仕事でいない日に姉と話した。姉はBLゲームをしているだけあって(?)偏見はないから好きなようにすればいいよと笑顔で言った。むしろ楽しんでませんかね、この状況。
「姉ちゃんは気付いてたのか、その、ルードがおれのこと……」
「そりゃあねー。まぁ、鈍いもんね、響希。そっか、ホワイトデーまで気付いてなかったのか……ほんっとに鈍いわね……!」
肩を震わせて笑うな!
「……ちゃんと考えてあげなさいよ。一応、ルードにはこっちの世界の常識も教えてあるし、それを知ったうえで響希に告白したんだから、踏みにじるような真似はしないこと。いいね?」
「考えろって言われても……」
普通男同士って……。困惑するおれに姉は優しく諭すかのように語り掛ける。
「混乱しただけだった? 嫌だとは思わなかったの?」
「え?」
「ルードはどっからどう見ても男性でしょ? そんな相手から好意を伝えられて、嫌じゃなかったの?」
嫌かどうかと聞かれると、うーん? どっちかといえば驚きのほうが勝っていて、嫌悪感はなかった。つーか、なんでおれ? って感じだったし。
「そこんとこ、ちゃんと考えないとダメよ。受け入れるにしても、断るにしても」
「う、うん……」
じゃあしっかり考えなさいと自室に戻された。
――おれが理解するまで待っていてくれるらしいし、申し訳ないけどもう少し考えさせてもらおう。それが良い答えになるのかどうかはわからないけれど。
異世界→日本
・ホワイトデー編
バレンタインから一ヶ月経過した。つまり今日はホワイトデー。卒業式も終わったとは言え、在校生はまだ通学しないといけない。部活もあるし。
……部活仲間には一口チョコをもらったのでお返しにクッキーを渡した。某メーカーのちっちゃいやつ。姉には「なんでそれ?」と聞かれたが、二十円のチョコのお返しに八十円くらいのお菓子だから良いじゃんと返した今朝。
そして家に帰ったらなぜかルードがそわそわとしていて、おれは首を傾げた。
姉がそわそわしているのはこれからデートだからだろう。綺麗に着飾って、何度も鏡をチェックしていたし。だけど、なんでルードが?
「夕飯はいつものように作ってあるから、あっためて食べてね。ルード、ホワイトデーのお返しありがとう。大事に頂くね! それじゃあ行ってきます!」
いつの間にか姉にお返しをしていたらしい。多分、あの紙袋に入っているのがお返しの品だろう。有名なところのお菓子と見た。彼氏さんと食べる気なんだろうか。
「ヒビキ」
「はい」
夕食を食べ終えてもそわそわしていたルードに声を掛けられて、顔を彼へ向けるとルードはおれに「少し待っていてくれ」と客間に向かう。ルードがいつも使っている部屋だからもう客間と呼ぶよりルードの部屋だな。
五分もしないうちに戻ってきて、おれに箱を差し出した。割とでかい。
「これは?」
「今日はホワイトデーなのだろう? バレンタインチョコのお返しをする日、と聞いている」
「はぁ、まぁ、そうですが。なんでおれに?」
バレンタインデーにチョコをあげたのは事実だ。だが、それは姉との合作だったし、半分くらいはおれも一緒に食べてしまった。なのでルードからお返しをもらうつもりはなかったし、ルードも姉にだけ渡すものだとばかり思っていた。
――箱の大きさからお菓子じゃないことはわかる。
「ヒビキに似合いそうなものだと思って。受け取ってくれると嬉しい」
にっこりと微笑まれておれは「はぁ……」としか呟けなかった。とりあえず、開けていいか確認してみる。こくりとうなずくのを見て、さっそく開封した。
「……あの、これって」
「ヒビキによく似合うと思う」
箱に包まれていたのはスプリングコートだった。淡い水色の。確かに駅前でこういうの良いなーなんて視線で追っていたけど、値段を見て諦めていたコート。
「いやいやいや、ちょっと待って、おかしいでしょう!?」
このコート確か三万はする! だからおれは諦めたんだ! そしてなにより、こんな高価な物を受け取れない!
「私がヒビキに服を贈ってはいけないのかい?」
「あのですねっ、バレンタインのチョコ、姉と合作だって言いましたが、材料費は全部姉です! おれがこれを受け取るわけには……!」
「? なぜ? チョコをくれたのは事実だろう?」
事実だけど……! そもそも姉に言われて、だし。それをこんなに高価な物で返されても困る! 姉のようにお菓子をくれるんだったらまだわかるんだけど、なんでコート!?
「それに彼女にはもうお返しを渡したし、流石に恋人のいる女性に服を贈るなど無粋な真似は出来ない」
「おれに恋人がいる可能性はない、と?」
「いないだろう? いたら私と共にいないはずだ」
当たってるけどなんかむかつく! どうせ彼女いない歴=年齢だよちくしょー!
ルードは多分、なにか気に障ったのかと眉を下げている。それでもこんな高価な物受け取ることなんて出来ないので、どうやって突き返そうか悩んでいると、彼が言葉を重ねてきた。
「それに本命にはお金をかけるものだと聞いた」
「誰に」
「ヒビキの姉に」
姉よ、ルードになにを吹き込んだ……!
がくりと肩を落とすおれ。……ん? いやちょっと待て、その前になにか、ルードはおかしなことを言っていなかったか?
「本命……!?」
「ああ、そこにようやく気が付くのか」
鈍くて悪かったな! じゃなくて!
「いやいやいやいや、ちょっと待って。おれの頭じゃ色々追い付いてない!」
「わかった、ヒビキが理解できるまで待とう。が、とりあえずこれは受け取ってくれ。ヒビキのために買ったのだから」
「あ、はい、ありがとうございます……?」
って、思わず受け取っちゃったよ……!
おれはとりあえず、逃げるように自室へ駆け込んだ。落ち着かなくては!
コートを広げてみる。うん、やっぱりこういうの好きだなぁ、ってそうじゃない!
思わず現実逃避してしまった。コートをハンガーにかけてクローゼットへしまう。それからベッドに大の字で寝転んで、深呼吸を繰り返した。
一体いつから?
姉は気付いていたのか?
だめだ、今日は思考がまとまる気がしない。こういう日はもうさっさと寝るに限る!
後日、ルードがモデルの仕事でいない日に姉と話した。姉はBLゲームをしているだけあって(?)偏見はないから好きなようにすればいいよと笑顔で言った。むしろ楽しんでませんかね、この状況。
「姉ちゃんは気付いてたのか、その、ルードがおれのこと……」
「そりゃあねー。まぁ、鈍いもんね、響希。そっか、ホワイトデーまで気付いてなかったのか……ほんっとに鈍いわね……!」
肩を震わせて笑うな!
「……ちゃんと考えてあげなさいよ。一応、ルードにはこっちの世界の常識も教えてあるし、それを知ったうえで響希に告白したんだから、踏みにじるような真似はしないこと。いいね?」
「考えろって言われても……」
普通男同士って……。困惑するおれに姉は優しく諭すかのように語り掛ける。
「混乱しただけだった? 嫌だとは思わなかったの?」
「え?」
「ルードはどっからどう見ても男性でしょ? そんな相手から好意を伝えられて、嫌じゃなかったの?」
嫌かどうかと聞かれると、うーん? どっちかといえば驚きのほうが勝っていて、嫌悪感はなかった。つーか、なんでおれ? って感じだったし。
「そこんとこ、ちゃんと考えないとダメよ。受け入れるにしても、断るにしても」
「う、うん……」
じゃあしっかり考えなさいと自室に戻された。
――おれが理解するまで待っていてくれるらしいし、申し訳ないけどもう少し考えさせてもらおう。それが良い答えになるのかどうかはわからないけれど。
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