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web拍手再録(現代シリーズ)
拍手お礼SS お正月編(2020/01/03~2020/01/31)
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~もしも迷い込んだのがヒビキではなくルードだったら~
異世界→日本
・お正月編
「初詣?」
「そうそう。響希と行ってきてくれないかな? 私は彼氏と行くからさ」
顔の前でパンっと両手を合わせてルードを見上げる姉に、おれはぽかんとしてしまった。
なにを話しているかと思ったら……。思案顔のルードはおれを見ると、なにかを思いついたようにこう言ってきた。
「……ひとつ、提案があるのだが」
「なんでしょうか」
おれの顔を見ながら言っているのだから、多分おれに用があるのだろう。姉はおれとルードの顔を交互に見てからぐっと親指を立てた。意味がわからん。
「……四人で行くのではだめなのか?」
「なぜソレをおれに聞くんですか!?」
姉に聞いてくれ! と視線を姉に移すと、姉は片目を閉じて両手を合わせて「ごめんね、私の彼氏人見知りなの」と舌を軽く出した。
……そういやおれも姉の彼氏見たことないや。
「それに彼氏と一緒にいるところを弟に見られるのは、ちょっと恥ずかしいし……」
照れたように笑う姉に驚いた。姉にもそんな感情があったのか、と。いやだってBLゲームの感想をおれに延々と話す姉だぞ……?
疑うようなおれの視線に気付いたのか、姉はおれの背中をぐいぐいと押してルードに近づけた。
「ルードと一緒なら私も安心だし、それに、日本の行事を楽しんでもらいたいの。ここでしか出来ないことだしね! おせちも用意しているから、きちんと食べてちょうだいね?」
「……なぁ、前から思っていたんだけど……。姉ちゃん、おれとルードをふたりきりにしようとしてない?」
「だって私も彼氏とデートしたいもーん。ルードなら大人だし、うまく響希を扱ってくれそうだし? それに、響希もルードを外へ出すの反対なわけじゃないでしょ?」
扱ってくれそうだし、ってどういう理由だよ……。そしてルードが外に出るのは好きにすれば良いと思う。この家の中でずっと居るのは退屈だろうしさ。
「まぁ、なんだったらおみくじだけ引いてくれば良いしさ」
「参拝は?」
「したほうがいいだろうけど、ルード的にはどうなのかな。異世界の神様に手を合わせてもらえる?」
「……異世界の神、か。興味深い話ではあるがな……」
「あ、響希はしなさいよ、参拝。ルードが良ければ一緒にしてもいいだろうけど、そこら辺どうなのかしら。宗教的な意味合いで難しい?」
「いや? 私は別にあちらの世界の神を信仰しているわけではないからな」
「聖騎士なのに?」
「私は王国の聖騎士団に所属しているからな、教会とは別だ」
なるほど、わからん。
ちらりと姉を見ると姉もよくわかっていない顔をしていた。
多分、ゲームでそんな設定あったかどうかを思い出しているのだろう。
「そこら辺詳しく教えて欲しいけど、もう時間がなーい! じゃあね、響希。ちゃんと初詣行っておみくじ引いて甘酒飲むんだよ!」
「……わかったからもう行けって。彼氏さん、待ってるんだろ?」
「そうなのよー! ルード、響希のことお願いね! いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
「ああ、よくわからないが頼まれた」
慌てて家から飛び出る姉を見送って、おれとルードは顔を見合わせて肩をすくめた。
「えーっと、とりあえず行くにしても明日……もう今日か。一回眠ってからにしましょう。おれは流石に眠い……」
眠さでうとうととしながらなんとか言葉を紡ぐと、ルードが小さくうなずくのが見えた。
おれは自分の部屋へ、ルードは客室へそれぞれ向かって眠りにつく。どっちのベッドにも湯たんぽを置いているから、寝る前には足元が温かい。
朝、起きたら姉が作ったおせちを食べてそれから初詣に出掛けることにしよう――……。
とはいえ、冬休みということもあり思い切り寝過ごしてしまった……。朝の九時に起きだしてみると、ルードはすでに起きていて驚いた。
「おはよう、ヒビキ。よく眠れたようだな」
「おはようございます、ルード。早いですね」
「ああ、癖がついているのだろう」
そういやこの人聖騎士なんだっけ。早起きの癖がついているってことなのかな?
とりあえず、顔を洗ったりして身支度をして、着替えてから姉の作ったおせちを食べた。あの姉はいつの間に作ったんだろうか。
「初詣、行きますか?」
「……そうだな、どのようなものなのか見てみたい」
「じゃああったかい恰好して行きましょう。寒いから」
「ああ」
それぞれ暖かい格好をしてから外に出る。食器はちゃんと片付けてから。ああ見えて姉の躾はそこそこ厳しいのだ。
クリスマスプレゼントにもらったマフラーを巻いて(いつの間にか姉がルードにクリスマスのことを話していたらしい。一体どこから金を用意したのか気になるところ)、玄関まで向かうと、ルードはおれを見て嬉しそうに微笑んだ。
「マフラー、使ってくれるのだな」
「学校に行く時も巻いているでしょう」
「そうだが、やはり使われると嬉しいものだ」
優しく目元を細めて心底嬉しそうに言うものだから、おれはマフラーに顔を埋めるようにして赤くなった頬を隠す。だめだ、なんかこの人から好意を感じるとなんか照れる……!
姉の推しだからか、姉はルードに弱いし、ルードはこの世界――日本のことなんて一ミリも知らないからか好奇心旺盛であっちこっち行こうとするけれど、最終的にはおれと姉の居るこの家に戻ってくる。元の世界に戻る手がかりがない以上、ここに居るほうが安心という姉の説得もあるだろうけど。
ただ、なぜか最初からルードはおれと打ち解けていて、むしろ姉のほうを警戒しているようだった。
「そういえば、どこで買ったんですか、これ?」
気になっていたことを聞いてみると、ルードは人差し指を唇の近くに立てて「内緒だ」と片目を閉じて笑った。その姿がすごく絵になるくらいの格好良さで、これで落ちない女の人はいないだろうと思わせた。
「ルードも、使ってくれたんですね。手袋」
「ああ、とても暖かくて良い。良いものをありがとう」
「姉と共同ですけどね」
まさかプレゼントをもらうとは思わなかったので、慌てて姉に相談して買った手袋だ。気に入ってくれたのなら、プレゼントした甲斐があったというものだ。
そんなことを話しながら家を出てきちんと鍵を掛けて、家の近くの神社へ向かう。小さい神社だが、毎年この神社で初詣をしていた。そこにルードを案内するっていうのはなんだか不思議な感じ。
「そういえばルード、参拝はどうしますか?」
「やってみたいと思っている。テレビで見たぞ」
「あー……。じゃあ神社に着いたら教えますね」
「ああ、頼む」
――願わくば、こういう時間が長く続きますように――……。
ただなんとなく、そんなことを願った。
異世界→日本
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「初詣?」
「そうそう。響希と行ってきてくれないかな? 私は彼氏と行くからさ」
顔の前でパンっと両手を合わせてルードを見上げる姉に、おれはぽかんとしてしまった。
なにを話しているかと思ったら……。思案顔のルードはおれを見ると、なにかを思いついたようにこう言ってきた。
「……ひとつ、提案があるのだが」
「なんでしょうか」
おれの顔を見ながら言っているのだから、多分おれに用があるのだろう。姉はおれとルードの顔を交互に見てからぐっと親指を立てた。意味がわからん。
「……四人で行くのではだめなのか?」
「なぜソレをおれに聞くんですか!?」
姉に聞いてくれ! と視線を姉に移すと、姉は片目を閉じて両手を合わせて「ごめんね、私の彼氏人見知りなの」と舌を軽く出した。
……そういやおれも姉の彼氏見たことないや。
「それに彼氏と一緒にいるところを弟に見られるのは、ちょっと恥ずかしいし……」
照れたように笑う姉に驚いた。姉にもそんな感情があったのか、と。いやだってBLゲームの感想をおれに延々と話す姉だぞ……?
疑うようなおれの視線に気付いたのか、姉はおれの背中をぐいぐいと押してルードに近づけた。
「ルードと一緒なら私も安心だし、それに、日本の行事を楽しんでもらいたいの。ここでしか出来ないことだしね! おせちも用意しているから、きちんと食べてちょうだいね?」
「……なぁ、前から思っていたんだけど……。姉ちゃん、おれとルードをふたりきりにしようとしてない?」
「だって私も彼氏とデートしたいもーん。ルードなら大人だし、うまく響希を扱ってくれそうだし? それに、響希もルードを外へ出すの反対なわけじゃないでしょ?」
扱ってくれそうだし、ってどういう理由だよ……。そしてルードが外に出るのは好きにすれば良いと思う。この家の中でずっと居るのは退屈だろうしさ。
「まぁ、なんだったらおみくじだけ引いてくれば良いしさ」
「参拝は?」
「したほうがいいだろうけど、ルード的にはどうなのかな。異世界の神様に手を合わせてもらえる?」
「……異世界の神、か。興味深い話ではあるがな……」
「あ、響希はしなさいよ、参拝。ルードが良ければ一緒にしてもいいだろうけど、そこら辺どうなのかしら。宗教的な意味合いで難しい?」
「いや? 私は別にあちらの世界の神を信仰しているわけではないからな」
「聖騎士なのに?」
「私は王国の聖騎士団に所属しているからな、教会とは別だ」
なるほど、わからん。
ちらりと姉を見ると姉もよくわかっていない顔をしていた。
多分、ゲームでそんな設定あったかどうかを思い出しているのだろう。
「そこら辺詳しく教えて欲しいけど、もう時間がなーい! じゃあね、響希。ちゃんと初詣行っておみくじ引いて甘酒飲むんだよ!」
「……わかったからもう行けって。彼氏さん、待ってるんだろ?」
「そうなのよー! ルード、響希のことお願いね! いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
「ああ、よくわからないが頼まれた」
慌てて家から飛び出る姉を見送って、おれとルードは顔を見合わせて肩をすくめた。
「えーっと、とりあえず行くにしても明日……もう今日か。一回眠ってからにしましょう。おれは流石に眠い……」
眠さでうとうととしながらなんとか言葉を紡ぐと、ルードが小さくうなずくのが見えた。
おれは自分の部屋へ、ルードは客室へそれぞれ向かって眠りにつく。どっちのベッドにも湯たんぽを置いているから、寝る前には足元が温かい。
朝、起きたら姉が作ったおせちを食べてそれから初詣に出掛けることにしよう――……。
とはいえ、冬休みということもあり思い切り寝過ごしてしまった……。朝の九時に起きだしてみると、ルードはすでに起きていて驚いた。
「おはよう、ヒビキ。よく眠れたようだな」
「おはようございます、ルード。早いですね」
「ああ、癖がついているのだろう」
そういやこの人聖騎士なんだっけ。早起きの癖がついているってことなのかな?
とりあえず、顔を洗ったりして身支度をして、着替えてから姉の作ったおせちを食べた。あの姉はいつの間に作ったんだろうか。
「初詣、行きますか?」
「……そうだな、どのようなものなのか見てみたい」
「じゃああったかい恰好して行きましょう。寒いから」
「ああ」
それぞれ暖かい格好をしてから外に出る。食器はちゃんと片付けてから。ああ見えて姉の躾はそこそこ厳しいのだ。
クリスマスプレゼントにもらったマフラーを巻いて(いつの間にか姉がルードにクリスマスのことを話していたらしい。一体どこから金を用意したのか気になるところ)、玄関まで向かうと、ルードはおれを見て嬉しそうに微笑んだ。
「マフラー、使ってくれるのだな」
「学校に行く時も巻いているでしょう」
「そうだが、やはり使われると嬉しいものだ」
優しく目元を細めて心底嬉しそうに言うものだから、おれはマフラーに顔を埋めるようにして赤くなった頬を隠す。だめだ、なんかこの人から好意を感じるとなんか照れる……!
姉の推しだからか、姉はルードに弱いし、ルードはこの世界――日本のことなんて一ミリも知らないからか好奇心旺盛であっちこっち行こうとするけれど、最終的にはおれと姉の居るこの家に戻ってくる。元の世界に戻る手がかりがない以上、ここに居るほうが安心という姉の説得もあるだろうけど。
ただ、なぜか最初からルードはおれと打ち解けていて、むしろ姉のほうを警戒しているようだった。
「そういえば、どこで買ったんですか、これ?」
気になっていたことを聞いてみると、ルードは人差し指を唇の近くに立てて「内緒だ」と片目を閉じて笑った。その姿がすごく絵になるくらいの格好良さで、これで落ちない女の人はいないだろうと思わせた。
「ルードも、使ってくれたんですね。手袋」
「ああ、とても暖かくて良い。良いものをありがとう」
「姉と共同ですけどね」
まさかプレゼントをもらうとは思わなかったので、慌てて姉に相談して買った手袋だ。気に入ってくれたのなら、プレゼントした甲斐があったというものだ。
そんなことを話しながら家を出てきちんと鍵を掛けて、家の近くの神社へ向かう。小さい神社だが、毎年この神社で初詣をしていた。そこにルードを案内するっていうのはなんだか不思議な感じ。
「そういえばルード、参拝はどうしますか?」
「やってみたいと思っている。テレビで見たぞ」
「あー……。じゃあ神社に着いたら教えますね」
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