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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟むルードの執務室を出てから、念のためニコロに連絡を入れると「一緒に行きますか?」と普通に聞かれた。どっちでも大丈夫、と答えるとサディアスさんを早めに連れて帰りたいから一緒に行くと返事が来た。なので、おれらはそのまま待つことにした。
十分もしないうちにニコロがサディアスさんを連れて来た。サディアスさんは嬉しそうににこにこ笑っている……。なにか良いことでもあったんだろうかと首を傾げると、ニコロが「行きましょう、すぐに!」と力強く言った。
「……えっと、大丈夫だった?」
「ええ、まぁ。あいつらもアシュリー家を敵に回すつもりはないでしょうから」
……それはつまり、ニコロを敵にするつもりはあると言うことなのでは……? と、心配そうにニコロを見ていたのがわかったのか、ニコロは「心配いりませんよ」とにこっと笑う。ちらりとサディアスさんを見ると、首を縦に動かしたから本当に大丈夫なんだろう。なにがあったのかはわからないけど……。
「ふふふ……」
幸せに笑うサディアスさん。……仕事を詰め込み過ぎて感情が壊れてしまったのかと思ったけど、そう言うわけではないらしい。ルードはちょっと怪訝な表情を浮かべてサディアスさんたちを見ていた。
聖騎士団の塔を後にして、ニコロはサディアスさんを連れて「寝かせてきます」と彼の手を握りながらサディアスさんの屋敷に向かって行った。
「……仕事を詰め込み過ぎて変になったのだろうか……」
……おれとルードの思考回路ってたまに似てるよね……。なんて思いながら、「ニコロがきっと戻してくれますよ」と伝えると、ルードはそうだな、とうなずく。
おれらはシャノンさんのお店に向かう。ルードが早めに仕事を切り上げてくれたから、刺繍の練習を出来る時間はたっぷり取れそうだ。
シャノンさんのお店について、中へ入る。シャノンさんはおれらに気付いて「いらっしゃいませ」と微笑んだ。
「クリスティ嬢、この前の件だが……」
「ルードから聞きました。シャノンさんが考えてくれたんですよね。是非お願いしたくて……それと、おれも刺繍の練習したいなって……ダメでしょうか?」
シャノンさんは一瞬目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んで安堵したように胸に手を置いて息を吐いた。
「気に入ってくださったのなら良かったですわ。わたくし……差し出がましいことをしたと思っていましたの」
「え?」
「……おふたりのことを祝福したい気持ちで考えました。全力で、作らせていただきます。刺繍はどこにしますか? 胸元、襟、袖……お好きな場所をお選びくださいな」
いつも、ルードは袖に刺繍をしてくれていたけれど……。ルードはおれに顔を向けて、「私が決めても良いか?」と聞いてきたので、こくりと首を縦に動かす。すると、ルードはすっと自分の胸元を指した。
「心臓の辺りが良い」
「かしこまりました。ふふ、素敵ですわね」
にこりと微笑むと、シャノンさんは扉のカーテンを閉めた。
「……さて、それでは早速練習致しましょう。わたくしもまだ、布に練習しておりませんでしたの。お返事を聞いてからじゃないと……」
断られる可能性も考えていたんだろう。シャノンさんはお店の奥に案内してくれた。そこから練習用の布と糸を取り出して、一緒に練習してくれた。ルードが黙々と刺繍をしているのを見るの、なんだか不思議な感じ。
「えっと、こうやって……?」
「はい、次はそちらに……」
すいすい出来るルードとは違い、おれはシャノンさんに教えてもらいながら刺繍を練習した。こ、細かい……! うう、出来るようになるまで頑張ろう……。それにしても、よくこんな図案考えたなぁと感心してしまう。
「あの、刺繍糸の色はおれが決めても良いですか?」
「わたくしは構いませんが……」
ちらりとルードを見るシャノンさん。ルードは「もちろん」と言ってくれた。なので、おれはルードの瞳の色である水色をお願いした。ルードは目を瞬かせ、シャノンさんは「かしこまりました」と微笑む。
ルードの髪の色である藍色でも良いんだけど、布地が黒だから目立たないかなって思い水色。
「ヒビキ、本当に水色で良いのかい?」
「イヤですか?」
「いや、私は構わないのだが……」
ルードが困惑の表情を浮かべていた。シャノンさんもそれに気付いたようで、「ちょっとお茶を淹れますね」と椅子から立ち上がる。おれはルードに向かって笑みを浮かべてみせた。
「だって、おれたちが『ホシナ』になる、最初の日でしょう?」
「ああ、そうだな……」
「だからこそ、おれはルードの目の色を身につけていたい。……大好きな人の、色だから」
ちょっとだけ声を小さくしてそう伝えると、ルードは目を大きく見開き、それから心底嬉しそうに微笑んだ。シャノンさんは聞いていたのかいないのか、「お茶をどうぞ」とテーブルに置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう」
練習中の刺繍を置いて、シャノンさんの淹れてくれたお茶を飲んだ。優しい味が舌の上に広がる。シャノンさんの淹れてくれるお茶も好きだなぁ。
「あの、メルクーシンさま。……いえ、お名前でもよろしいでしょうか、ルードさま、と」
「そうだな、そちらのほうが嬉しい」
「では、ルードさまと呼ばせていただきますね。……聞いているかもしれませんが、メルクーシン領の一部を除き、クリスティ家の領地となりました。父は、ルードさまが望めば領地と領民を返すと伝えて欲しいとわたくしに伝言を頼んで来ました。……どうしますか?」
「……そのまま、クリスティ家の領地にして欲しい。私が領主になったところで、領民が怯えるだけだろうから。だが、あの地は精霊の加護を失った。恐らく、色々と厳しいことも起こるだろう。その時には私もなにか手伝えることがあったら言ってほしい。……食料や金を渡すことくらいしか、出来ないだろうが……」
「いいえ。……やはりルードさまはお優しいですね。本来は父がルードさまに直接伝えることだとは思いますが……。クリスティ家が全力を持って、メルクーシン領の領民をお守りいたします」
シャノンさんは真剣な表情でそう言ってくれた。ルードは「……頼む」と一言、口にした。……メルクーシン領の一部ってどこら辺なんだろう……。ちょっと気になるようなならないような。
「……いつか、遊びに来てくださいませね」
「……私が行ったら、領民たちが怯えるぞ?」
「その辺に関しては、父たちの手腕の見せ所ですわね。ルードさまは怖くない人だって、伝えていきますわ。……人は、強大な力を恐れます。ですが、その力をどう使うかは本人次第ですもの。悪いことに使わないルードさまは、とても立派な方だと思いますのよ」
「……使っているかもしれないだろう」
「ふふふ、『メルクーシン家の三男』がそんなことをしたら、一気に噂が広がってしまいますわよ。わたくしの耳に、そんな噂は一度たりとも入ってきたことはありません。……溺愛する人が出来た、とは入ってきましたが」
ちらりとこっちを見るシャノンさんに、おれは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。そう言えばそんな感じの噂流れてたな!
「……こんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、わたくし、おふたりに出会えて良かったと思っています。ルードさまとヒビキさまのおかげで、お店の売り上げも上がりましたのよ。アシュリーさまのおかげでもありますが……。なによりも、こうしておふたりを見ていると、幸せな気持ちになりますの。互いが互いを支え合っているように感じます。――改めて、ご婚約おめでとうございます」
シャノンさんはそう言って、とびきり可愛らしく笑みを浮かべた。
改めて祝福されるのってなんかくすぐったい気持ちになる。もしかしたら、ルードもそう思っているのかもしれない。ちらりとルードを見ると、彼は「……ありがとう」と嬉しそうに笑っていた。
その後、もうちょっと刺繍を練習してから屋敷へと帰った。
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