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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟む「すまない、助かった」
「いえ……。えっと、みなさんお大事に……?」
おれが新人さんたちに向かって言葉を出すと、新人さんたちは驚いたようにおれを見た。ニコロは新人さんたちに手を差し出して、立ち上がれていない人を立ち上げた。それからおれらのほうに駆け寄って、「辛いかもしれないけど、死なないために必要なことだからほどほどにがんばれよー」と新人さんたちのほうに顔を向けて声を掛けた。
「ところで、これからどうしましょう……?」
「……ヒビキが良ければ、傍に居てくれないか?」
「もちろんです!」
ルードと一緒に居られるのが嬉しくてそう言うと、ルードは嬉しそうに表情を綻ばせた。ニコロはそれを見て、「隊長の表情変化がわかりやすくなってきましたねー」とクスリと笑う。
「ニコロはサディアスさんのところに行く?」
「……隊長はヒビキさまとふたりきりのほうが良いですか?」
「いや? ニコロが居ても構わないが――そろそろサディアスの機嫌が悪くなっているだろうから、宥めては欲しいと思う」
サディアスさんの機嫌が悪くなっている? おれとニコロは顔を見合わせて首を傾げる。だけど、次いだルードの言葉にニコロの表情がちょっとだけ険しくなった。
「ニコロがサディアスの屋敷に住んでいることに気付き始めた奴らがな……」
「把握しました。ちょっとそっちに行ってきます。サディアスはどちらに?」
「聖騎士団の応接間だ。覚えているな?」
「ええ。じゃあ、ちょっと行ってきますね。隊長、ヒビキさま、また後で」
ニコロはスタスタと早足で聖騎士団の塔に向かって行った。ニコロがサディアスさんの屋敷に住み始めてまだ数日しか経ってないのに……? ってことは、おれらの噂もあったりするんだろうか。まぁ、人の噂も七十五日って言うし、万が一噂されていても気にしないでおこう。
そう思いながらルードと一緒に聖騎士団のルードの執務室に向かった。
「……すごい書類ですね……?」
「ああ。今日のうちに終わらせればいいのはこっちだから、気にしなくても良いよ」
「いや、ちょっとは気にしてくださいよ! こっちにまで被害が!」
執務室の机には、山のような書類が並んでいた。暇じゃないじゃん……! ヘクターさんがやって来て、終わった書類を奪うかのように持っていく。大変そうなんだけど、なんでこんなに書類が……?
「あの、忙しいようならおれは帰ったほうが良いのでは……?」
「いや。ヒビキが見ていると思うとやる気が出てくるから、そのまま居てくれ」
ひとりだけ暇で申し訳ないんだけど……! ただ、ルードの手がすっごく素早く動いていてびっくりしてしまった。ハンコを押しているみたい? ……目を通すスピードも半端なく速い。……速読? ルード速読できるの? え、すごい……。
十年で書庫と図書館の本を全部読んだってことは、読むのが早いと言うことで……。あれ、でもおれと一緒に居た時はゆっくり読んでいたよね? おれに合わせてくれていた?
黙々と書類の山を片付けているルードの姿。……思えばこんなに無表情のルードをじっくり見るのは初めてかもしれない。仕事中はずっとこんな感じだったのかな。
――格好良いなぁ。と、しみじみ思っていると、ヘクターさんがやって来て、また書類を持っていく。
「……なんか、本当に忙しそうですね」
「ほとんどが式典の確認事項だ。それなりに盛大なものだからな」
「え」
そんなに? 思っていた以上に規模がデカくなっている……? おれが不安そうな顔をしていたことに気付いたのか、ルードは優しく微笑んで「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」と柔らかく言ってくれた。
「帰りにクリスティ嬢のお店に寄ろうか。刺繍の件、まだ報告していないんだ」
「あ。じゃあその時ちょっと時間もらっても良いですか?」
「良いけれど……、どうしたの?」
「えっと。おれもあの刺繍してみたいなぁと思って……」
シャノンさんに教えてもらおうかなぁと思ってそう口にすると、ルードは「では、私もそうしようかな」と顎に手をかけながら言った。ルードは鈴を取り出して、屋敷の人に連絡を入れるとすぐに仕事を再開する。
「それじゃ、ちょっと頑張るね」
「はい、頑張ってください!」
……おれ、本当にここに居て良いんだろうかと思いつつ、仕事をするルードを眺めながら時間を過ごした。……真剣な表情のルードも格好良いなぁ。可愛いと思うと時もあるけれど、基本的に格好いいよな……さすがイケメン。
全然見飽きない……。むしろもっと見ていたい。ヘクターさんは何度も行ったり来たりを繰り返していた。忙しそう。そして、今日の分を終わらせたルードから書類を受け取り、
「仕事処理のスピードもう少し考えてくれませんか!?」
と息をぜーはーしながら言った。……今日のルードの仕事処理のスピードは尋常じゃなく早かったようだ。が、ルードはそんなことを気にせずに、「終わったから帰る」と立ち上がり、おれへと手を差し出した。実はソファに座ってずっとルードを見ていたのだ。
「メルクーシン隊長!」
「それはもう捨てた家名だ」
「いやまだ式典始まっても終わってもいないから! まだ『メルクーシン』でしょうが!」
式典が終わるまで『メルクーシン』なのか。ちょっと複雑な気分。おれはルードの手を取って立ち上がる。ヘクターさんがもう少しなにか言おうとしたんだろうけど、ルードがギロリと睨んだのでなにも言えなくなった。
「こちらもこちらで式典の準備があるんだ」
「そりゃそうでしょうけども……! ちょっとはこっちも労わって下さいよー!」
「がんばれ。お前なら出来る」
思わず吹き出してしまった。ごめんなさい、ヘクターさん。ヘクターさんは諦めたように肩を落とした。
「……まぁ、確かに今回の式典はメルクーシン隊長がメインですけど……。今日のくらい出来るんだったら毎日ヒビキさんに来ていただいたら良いんじゃないですかね……」
ルードは表情を険しくした。そして、おれの手をぎゅっと握ってふるりと首を横に振る。
「最近は貴族も良く来ているだろう。ヒビキに近付いてくる者も居るかもしれない」
「過保護!」
「なにが悪い」
……もしかして、おれをすぐに帰さなかったのって、そう言う理由もあったりするのかなぁ。おれを守るため? ヘクターさんじゃないけど、確かにルードは……いや、屋敷の人たちもおれに対して過保護だよね。
「……開き直った……。隊長が居ない時はどうするんですか。適当なあしらい方を覚えさせるのも必要でしょう?」
「ヒビキがひとりになることはまずないから、いい。必要ない。オレはヒビキにはこのままの性格でいて欲しい」
……? あれ、今、一人称が変わった? ルードが苛立っているのがわかったのか、ヘクターさんは重々しくため息を吐いた。
「ヒビキさん、本当に良いんですか、この人選んで。めっちゃ過保護ですよ」
「それは今に始まったことじゃないし……。それに、おれが、ルードを、求めたんです」
わざと区切って強調してみせる。
「えっと、心配してくれたんですよね。どこまで知っているかわからないけど、おれにはルードが必要なので……。でも、心配してくれてありがとうございます」
「……こんなに優しい人が貴族とやり合う可能性を考えましょうよ……」
「ヘクターさん、多分、あなたはおれのことを勘違いしていると思います……」
だって、おれが優しいのはルードたちが優しいからだ。敵意を向けられたら無関心になると思う。おれには嫌う理由がないから。貴族の繋がりがどんなものなのかわからないけど、必要なら愛想良くするし……多分。
「おれがひとりで出歩くこともないだろうし」
「そうだな。そのための護衛もいるし」
「……なんというか、うん。お似合いなふたりだということは理解しました……」
おれとルードは顔を見合わせて首を傾げる。疲れたようなヘクターさんは肩をすくめていた。……こういう心配してくれるって、本当に優しい人だなぁ。万が一屋敷にそう言う悪意の持った人が来たとしたら、じいやさんたちがなんとかしそうだし……。
そもそもあの屋敷には悪意のあるものは入れないハズ。
「それにしても、二十三歳のルードの口から『オレ』って出てくるの、新鮮ですね」
「八年の間に変えたつもりだったが、つい出てきてしまった。まだまだ精進が足りないな、私も」
あ、戻っちゃった。十五歳のルードの一人称は『オレ』だったから、苛立つと出てきちゃうのかな? ……って言うか、ルードが苛立つのってあんまり見たことないけど……、きっと、ヘクターさん相手なら怒っても大丈夫って思ってるんだろうなぁ。おれに対しては怒ったことないし。……ルードに怒られることってなんだろう……? いや別に怒られたいわけじゃないんだけど。
「それでは、私たちは帰る」
「あー、はい。お疲れさまでした……」
ひらひらと手を振るヘクターさんは、心配そうな視線をおれたちに向けていた。本気で心配してくれているみたいだ。まぁね、いきなり爵位もらうもんね、おれ……。
貴族との付き合い方を考えないといけない時が来るのかなあ。ただ、夜会に参加する時は多分ルードやニコロと一緒だろうし……。大丈夫だと信じたい。
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