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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

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「式典の準備もあるのに、こんなにのんびりして良いのかな……」



 あれから本を読み終えるまで数時間。読み終えた本を閉じてふと思い出したようにそう言うと、ぱちくりとじいやさんが目を瞬かせた。そして、「ふふふ」と笑いだす。どうしたんだろうかと思いじいやさんを見ると、彼は、



「準備もなにも、まだ衣装すら出来ていないでしょうに」

「そうなんだけど……、なんかしなくても良いのかなって。そもそも式典ってなにをするもの?」

「爵位を授かり改名の名を発表、ですからそんなに時間は掛かりませんよ。ニコロも『自由騎士』の称号を授かるとは言え、式典自体は短いでしょう」

「式典自体初めてだからドキドキする……じいやさんは参加したことある?」



 おれがそう聞くと、じいやさんは昔を思い出すように目元を細めて、それからふっと表情を和らげた。



「ええ、ありますよ。もう何十年も前の話ですが……」



 そう言えば『影の英雄』って呼ばれていたんだっけ。おれは今のじいやさんしか知らないから、なんだか不思議な感じ。ところでなんで『影の英雄』って言うんだろう? そう思ってじぃっとじいやさんを見た。じいやさんは首を傾げて「どうなさいました?」と朗らかに聞いてきたので、なんでもないです、と首を横に振る。



「今から楽しみでなりません。ルード坊ちゃんとヒビキさまの晴れ姿が」

「晴れ姿……」



 おれが着たら馬子にも衣裳になりそうだけどね……。一体どんな服になるのか楽しみなような不安なような。……ああ、そうだ。今着ている服もどうなるんだろう。ルードの手作りだけど、この刺繍の意味はどうなっちゃうんだろうとふと思った。



「って、ニコロの服はどうするの?」

「サディアスに甘えまーす」



 さらっとそう言った。びっくりして目が丸くなった。だって、あまりにも自然にそう言うもんだから。じいやさんは「おや」と目を瞬かせ、それから笑みを深くした。そして、ニコロの肩にぽんと手を置いて、



「アシュリーさまも報われますねぇ」



 と、しみじみ……と言うよりはニコロを揶揄うような言い方でくすりと笑う。ニコロはニコロで、いつもなら「家令!」と言うようなところだけど、色々憑き物が落ちたのか「だと良いけど」と笑っていた。……丸くなったなぁ。

 今までが尖っていたってわけではないけど。いや、ちょっと尖っていた?

 ルードは最初からおれには優しかったから、他の人たちが怖がっている理由がわからなかったけど……。ニコロは話すたびにどんどんと丸くなっていったような気がする。やっぱり素直になると雰囲気が丸くなるんだろうか。

 リーフェとリアの印象は前から変わらないなぁ。恋バナの好きなリーフェと、家族思いのリア。リーフェはぐいぐい押してくる感じ、リアはちょっと下がったところから全体を見てそっと背中を押す感じ。……本当に、この屋敷の人たちは温かいなって思う。

 そんな人たちの中で育ったから、きっとルードは真っ直ぐに育ったんだろうなぁなんて思っていると、じいやさんとニコロがなんとも慈悲深い笑みを浮かべていた。



「え、なに、どうしたの」

「いや、ヒビキさまって本当、考えていることわかりやすいですよねと思って」

「ええええ、なにそれ!?」

「ルード坊ちゃんのことを考えていましたよね?」



 なんでバレてるの? と驚愕すると、じいやさんとニコロは顔を見合わせて「やっぱり」と同時に呟いた。……貴族になるのにこんなにポーカーフェイスが出来なくておれは大丈夫なんだろうか……!?



「そこがヒビキさまの長所でもありますから」

「それ短所でもあるってことだよね!?」

「まぁ、そこら辺は隊長がフォローするでしょう」



 だって婚約者なんだから、と笑って言うニコロに、婚約者……と心の中で思う。ちょっと顔が赤くなったような気がした。



「強くなりたいなぁ」

「え、ヒビキさまは強いでしょ」

「それどういう意味さ……」



 ニコロは訝しむように眉を顰めておれをみた。なんでさ! じいやさんはくすくすと肩を震わせて笑っているし……。むにむにと頬を揉んでなんとなく柔らかくする。ポーカーフェイスってどうすればいいんだろう。



「これから社交界への進出を考えると、少しは出来たほうが良いでしょうが……。まぁ、ヒビキさまを利用しようとする者が居れば、我々がどうにかしますので、ご安心を」



 ……それ安心して良いんだろうか。

 じいやさんがにこにこと笑っている。ニコロも。……そう言う人には出会わないことを祈ろう。だって、どうにかするの内容がわからなくて怖い。いや、本当に。……もしかしてここの人たちは、おれに対しても過保護……!?

 ……今更か。ルードがおれに過保護なのはわかるんだけど……、おれに対してもそうなのは、おれがルードの愛し子だったからなのか、それとも、おれが未成年だからなのか……。うーん、前者、かな。多分。



「……ほどほどにね……」



 とりあえず、これだけは言っておこう……。

 本を元の場所に戻そうと立ち上がると、じいさんがすっと手を伸ばしてきた。どうやら戻してくれるみたいだ。おれが本を渡すと、すぐに本を元の場所へと戻した。



「そう言えば、ヒビキさまはあの部屋を使うのですか?」

「あの部屋? あ、狭い部屋?」

「はい」

「うん、あのくらいの狭さ好きなんだよね……。棚とかデスクとか置いて刺繍したりしたい」

「ふむ。棚の大きさはどのくらいの物が?」

「そんなに大きくなくて良いかな。あとシングルベッドが欲しいな。ルードが遠征の時に使いたいから……って、なんで?」

「ルード坊ちゃんからヒビキさまのお好きな家具を選ぶようにと」



 あの部屋まだなにもないもんね……。シングルベッドを置いて、棚とデスク、チェア……あ、それとクローゼット! 完璧に私用の物が欲しい。部屋の掃除もおれがしたい……けれど、それはダメなんだろうなぁと思っている。



「ふふ、自分好みの部屋にするのが楽しみで仕方ないという顔をされていますね」

「……バレた?」



 楽しみなのは仕方ないじゃないか。家具を選んだりなんだりって、実はしたことがないんだよね、おれ。日本に居た頃は両親が選んで買った物を使っていたし、家具を選んだり拘るのは大人になってからだと思っていたし。

 だから今から選ぶのが楽しみなんだけど、いつ選びに行けば良いんだろうかとワクワクしているんだ。行くならルードと一緒に行くだろうし、でも指輪やら衣装やらも確認しに行くから、早々には行けないかも……?

 そして選んだとしてもすぐには運ばれ……いや、待てよ。あれだけ簡単に引っ越しが終わったのだから、もしかして家具の運搬もすぐに終わるんじゃ……?



「空間収納のスキル羨ましいな~……」

「あ、それ俺も思います。あったら絶対便利。カバン持ち歩かなくてもいいし、武器もしまえるし、なんといってもかさばるものも、重い物も、大きな物も運び放題!」



 ニコロが熱く語り始めた。やっぱり空間収納のスキルは便利なんだな。じいやさんはそんなおれらの話をにこにこと聞いていた。



「さて、そろそろ昼食の時間ですね。お腹は空いていますか?」

「んーと、少し。午後は中庭を見ても良い?」

「もちろんでございます」



 じゃあ、早速ご飯を食べに行こうかな、と書庫を後にした。本を読んでいただけだし、軽めに食べて午後は中庭を散歩して、運動しようっと。あと、花壇の花も気になるし。きっと綺麗だろうなぁ。

 とは言え、ご飯後すぐに動くのはダメだから、一回寝室に戻ってミサンガを一本作ってからにしようかな……。そんなことを考えながら、ニコロとじいやさんと一緒に食堂へと向かった。
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