163 / 222
4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
51
しおりを挟む鳥のさえずりで目が覚めた。何回目で気を失ったのか覚えていない。……蔦が伸びてすりすりと頬に触れる。
「おはよ」
伸びて来た蔦を撫でると、蔦は「おはよー!」とばかりにくねくね動いた。コップの水を替えて陽の当たる場所へと移動させた。ドロドロになった躰もシーツもきれいさっぱりとしていて、ルードが後処理してくれたんだだろうなぁ。
クローゼットに向かい服を着替えて……はっと気づいた。クローゼットの中に入れていたあのボロボロのミサンガが行方不明になっている……! って言うか練習で作ったミサンガ全部なくなってないか、これ!?
「……まさか」
ルードに見つかってしまったんだろうか……。ひっそりと処分する予定だったのに。だってあまりに拙い出来だったから……。ルードに渡したのはきれいに出来たものだった。見つけた時ルードどんなことを想ったんだろうなぁ……。
「とりあえず、ご飯食べようかな……」
そう言ってナイトテーブルに近付く。いつものように置き手紙があった。丸文字のルードの文字を指でなぞって「ふふ」と笑い、丁寧に折ってポケットにしまった。寝室から出て廊下を歩いていると、ニコロと会った。
「おはようございます、ヒビキさま」
「おはよう、ニコロ。サディアスさんは?」
「仕事に行きました。今から朝食ですか?」
「うん」
ニコロと一緒に食堂へ。ちょっと迷ったのは内緒。前の屋敷とは場所が違うから、覚え直しだ。しかしまぁ……広い。サディアスさんの住んでいる屋敷からはどのくらい違うんだろう。辺りをきょろきょろ見渡しながら歩き、食堂につくとリーフェが居て、すぐにご飯を用意してくれた。
朝ご飯を食べて、今日はどうしようかなぁとぼんやり考えているとじいやさんから声が掛かった。
「ヒビキさま、書庫の場所はわかりますか?」
「あっ、全然知らないや……」
今日はこの屋敷の探検をしようかな。じいやさんも一緒に来てくれた。書庫までの廊下を歩き、書庫の扉を開けてもらった。中に入って、うわぁと思わず声が出た。広い。図書館だと言われても納得してしまう。
「また、随分広くなりましたね……?」
「以前の屋敷の書庫は少々手狭でしたので」
あ、増やす気だ。だって空の本棚が並んでる。じいやさんはほくほくとした顔で書庫を案内してくれた。おれでもわかりやすいようにか、本の種類ごとに本棚に名札みたいなのがつけられている。絵本とか恋愛とかファンタジーとか。色んな本があるんだなぁとしみじみ思ってしまった。
「折角なので一冊読んでいかれますか?」
「そうだね。久しぶりに読みたいかも。じいやさん、お勧めある?」
「……そうですね……こちらはいかがでしょうか。読みやすい本ですよ」
ファンタジーの棚から一冊の本を取り出しておれに渡す。取り出された本の表紙は水色で、ルードの瞳を思い出した。どんな内容なんだろうとワクワクしながら表紙を眺めるおれに、じいやさんは微笑んで「こちらへ」と本を読むスペースへと誘導してくれた。
……本当に図書館みたい。
「お茶をご用意しますか?」
「あ、じゃあお願い」
「俺が持ってきますか?」
「いや、ニコロはヒビキさまのお傍に。読みたい本があれば読んでいても構わないから」
「わかりました」
おれは椅子に座って早速と本を読み始め、ニコロはなにを読もうかなとばかりに本棚に向かい、じいやさんはお茶の準備をしに書庫から出て行った。ぱらりと表紙を捲って本文を読んでいく。ものの五分もしないうちにじいやさんが戻って来て、お茶を淹れてくれた。
「ありがとう」
「いえいえ。読めそうですか?」
「うん。大分読めるようになったみたい」
嬉しそうにおれがそう言うと、じいやさんは目元を細めて笑みを浮かべこくりとうなずく。そして、ぽんぽんとおれの頭を撫でると「ごゆっくり楽しんでください」と言って頭を下げた。おれは「うん」と答えてからお茶を飲んで「美味しい」と呟く。
みんなからそれぞれお茶を淹れてもらっているけれど、なぜかじいやさんの淹れるお茶が一番美味しい気がするのはなんでだろう。
「ニコロはそれを読むの?」
「なんか懐かしくて。孤児院の子たちに読み聞かせたなぁと」
ニコロが持って来たのは絵本だった。懐かし気にそっと表紙を撫でる。椅子に座ってぱらりと絵本を捲っていく姿を見て、孤児院の子たちが好きだったんだなぁと思った。……あれ、そう言えばここからだと馬車に乗らないといけないんだっけ?
「じいやさん」
「はい、ヒビキさま」
「……ここから買い物に行くとしたら馬車が必要?」
「そうですね……一応歩いている距離ではありますが、ここの人たちは馬車を使っております。引っ越したばかりなのでまだ馬車の手配は……」
馬車が主なのはここの人たちが貴族だからだろうか。「そっかぁ」と呟くと、ニコロが「買い物に行きたいんですか?」と聞いてきたので、首を横に振る。
「ただ、今の場所が良くわからなくて。今までずっとワープポイントで来ていたし、王都を歩くのも決まったところばかりだったから……」
「ああ、なるほど……。確かにそれは混乱しますね」
ニコロがぱたんと絵本を閉じて、それを戻し今度は地図を持って来た。王都の地図のようだ。
「って言っても、王都って人数のわりに結構狭いんで、すぐに覚えられると思いますよ。まず、ここが上層、王城や貴族街。クリスティ嬢のお店は中層近くの上層ってところですかね。上層にはもうひとつ、学園があります。ここからだとちょっと遠いですね。で、中層に行くと真ん中に噴水広場。いつもの屋台とかあるところ。商店街も中層です。シルヴェスターの宿屋は下層近くの中層。で、孤児院が一応下層なんですけど、中層に近すぎてなんとも言えない感じの下層ですね……」
「下層って……スラムってこと?」
「いえ? ただ単に中層より人数が多いほうが良い人が集まっている感じですかね」
――ってことは、王都にはスラムがないってこと? それはとても良いことだと思うけど……本当に生活難な人は居ないんだろうかとじいやさんを見上げる。じいやさんはおれの疑問に気付いたのか、
「大丈夫ですよ」
と微笑んだ。
「王都では貴族が慈善活動を積極的に行っておりますし、孤児の数もそう多くはありません。むしろ、孤児を招き入れる貴族もいるくらいですから」
「……? ルードは今まで慈善活動していなかった……?」
「聖騎士団員は聖騎士団員であることが慈善活動の一部として認められております」
「へ!?」
色々ややこしいな!? と思わず変な声をあげてしまった。
「聖騎士団員や王立騎士団は命を懸けて民を守る者たちですから……。それにルード坊ちゃんは『伯爵家の三男』と言うだけで自身の爵位は持っておりませんでしたしね」
一ヶ月もすればルードもおれも貴族の仲間入りなんだけどね……。
「ですので、今回きちんと爵位を授かると聞き、このじいやは胸がいっぱいでございます……」
ほろりと涙を浮かべるじいやさん。ハンカチで涙を拭って、ルードの成長を喜ぶように笑う彼は『おじいちゃん』だなぁと思った。
「……良かった」
「はい?」
「ルードの傍に、じいやさんがいてくれて」
ずっとルードを見守ってきてくれたじいやさん。いつからメルクーシン家に仕えていたのは知らないけれど、きっとルードはじいやさんの優しさに救われていたと思うから。
「……感無量でございます」
そう言って微笑むじいやさんの表情は、孫に褒められて嬉しい『おじいちゃん』の顔をしていた。……おれのじいちゃんはもう既に亡くなっていて、しかもそれがおれが小さい頃だったから全然覚えてないんだけど……。こういうじいちゃんだったら良いなーなんて思ってしまった。
「これからも、ルードを支えてあげて欲しいな」
「それはもちろんでございます。ルード坊ちゃんとヒビキさまのお子を見るまでは、倒れられませんな」
……それはちょっと、いやかなり気が早いと思います! おれまだ十六だし。結婚って十八じゃないとダメなんだよな、この世界。……って、おれがおろおろしているのを見て、ふたりとも笑っている。冗談? 冗談だったの!?
「ふふ、未来の楽しみが出来ました」
「楽しそうですね、家令」
「ニコロもな」
……だからっ、十八になるまで結婚出来ないし、そもそもコウノトリがどのタイミングで来るかもわかったもんじゃないんだから……! このふたりの中では、おれらのところにコウノトリが来るのは確定しているみたいだ……。
5
お気に入りに追加
2,380
あなたにおすすめの小説

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる