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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟む「どーもー、バビントン引っ越し業者でーす」
そう高らかに声を出して、その人たちはルードの屋敷にやって来た。朝食後すぐのことで、思わずルードを見る。ルードは引っ越し業者の偉い人? に声を掛けて、なにか話している。すると、その人が作業員? の人たちに声を掛けて、作業員たちが「了解!」とあちこちの部屋に向かった。
「あ、あの。ルード? 随分急ですね……?」
「休みが取れたから」
……毎回思うけど結構急に休み取っているような気が……。聖騎士団大丈夫なのかな、とおれが不安げに思っていたのがバレたのか、ぽんぽんとおれの頭を撫でた。
「魔物と戦うのが仕事だからね。平和な時は暇なんだよ」
「そうかもしれませんけど……。いや、平和なのは良いことですが!」
「うん、平和が一番。早く帰ってこられるし、ヒビキをたくさん構えるし、構ってもらえるし……」
ルードはこういうことを平気で言うから……。ほんの少し、ほんの少しだけ顔に熱が集まっていくのがわかった。ルードがそれを見て、頭から頬へと手を滑らせて「ヒビキは可愛い」と笑顔で言うものだから、ボンっと顔から火が出そうになった。
その柔らかい表情を見るだけで、本当におれのことが好きなんだなぁってわかってしまう。自惚れじゃなく。
「……で、そこのおふたりさん。俺先に行って屋敷の門と玄関の鍵を開けてきますよー。それとも一緒に行きます?」
「どうします?」
「荷物は業者に任せられるから、一応先に向かっておこうか。じいや、後を頼む」
「かしこまりました」
おれらが先に行くことを伝えると、じいやさんはにこりと微笑んで頭を下げた。他の使用人さんたちは後で向かうらしい。ルードは昨日、この屋敷を手放し、ベッドやクローゼットも置いていくとみんなに話していた。元々用意されていたものを修繕しながら使っていたらしく、みんなもそれには賛成していた。
――そして、この屋敷を取り壊すことも伝えた。みんなそれぞれ色んな表情を浮かべていた。それでも、ルードが決めたことならばと全員賛成した。ルードは自分が他人に興味がないって言っていたけれど、本当に興味のない人がここまで慕われるだろうかと考えることがある。表に出せない不器用な優しさを、みんなが感じ取っているからこそ、ここの屋敷の人たちはルードについて来てくれているんじゃないかなぁ。
たとえば、マルセルさんの食事をいつも完食していたり、リーフェの惚気に付き合ったり、リアに刺繍のやり方を教わったり。そんな風に、不器用でも人との繋がりを大切にしていたから……。
「ヒビキ?」
「あ、いえ……。えっと、この屋敷取り壊すんですよね」
「ワープポイントの破壊が目的だからな。そもそもギリギリ結界内だから割と危険な場所なんだよ、ここ。だからヒビキを屋敷の外に出したくなかったんだ」
「出ちゃダメって最初から言っていましたもんね……」
ニコロとルードと一緒にこの前の屋敷へと向かう。サディアスさんの屋敷に近いなら、わかるだろうかってことで先に来ていたけれど、本当に道わかるかな? それにしても、まさか本当に昨日の今日で引っ越し業者が来るとは思わなかった。
「なんか最近ニコロも来るようになったわねー。すぐ行っちゃうけど」
「おはようございます、ソニアさん」
「おはよう~。ルード坊ちゃんたちも一緒ってことはお買い物?」
「あ、いえ……引っ越しです」
ソニアさんの働いている宿……食堂? につくとソニアさんが声を掛けてくれた。そして、引っ越しのことをソニアさんに伝えると、目を大きく見開いて、「えええー!?」と叫んだ。知らなかったみたい。……引っ越すのって誰々に伝えてあるんだろう……? この世界の住所変更ってどこで手続きするんだろうと思わず思考を明後日の方向に向けてしまった。
「お、思い切ったわねぇ……。で、どこに住むの?」
「サディアスの屋敷から徒歩五分」
「城にちかっ! でも、ふーん、良いんじゃない? やっと腹を括ったってことでしょ?」
「まぁ、そうなるな。これで晴れて本当の意味で貴族デビューだ」
「夜会とか逃げ回っていたルード坊ちゃんが……! ついに……!」
ソニアさんがオーバーなほどに声を震わせる。泣いているのか笑っているのかわからない表情だ。泣き笑い?
「っと、先に行かないといけないんだった。それじゃあな、シルヴェスター」
「その名で呼ぶんじゃないわよ、ニコロ!」
そんな風に賑やかにソニアさんと別れて、サディアスさんの屋敷に向かう。これからはこっちに住むのかと思うと、なんだか新鮮な気持ちになった。噴水広場から歩いていける距離ではあるんだけど……。
って言うか、結構狭いよね王都って。噴水広場を中心として、上のほうに王城や貴族の住む屋敷があったりするみたい? 結構な坂道だから地味にきついけど。ちょっと下がると宝石店とか、高価なブティック。シャノンさんやメイベルさんのお店もここら辺。距離はちょっと離れているけど。
「馬車の用意をしないとな」
「買い物が楽になりますねー」
「今までどうしてたの?」
「力自慢がついて行って持って帰ってました」
……それは、お疲れさま……。
屋敷の人の名前を全員言えるかと聞かれたら、おれはノーとしか言えないなぁ……。力自慢……誰だろう。
「さて、早速鍵を開けますか」
一昨日来たサディアスさんの屋敷について、ニコロはあの時のように鍵を取り出してカチャリと開けた。門を開けて一歩踏み入れようとしたら、「あら」という声が聞こえた。
メイド服を着た女性だ。彼女はニコロを見て微笑んだ。ニコロは一瞬「あ」という顔をして、それから頭を下げた。
「お引っ越しですか?」
「ああ。あなたは、サディアスの屋敷の……」
「はい。メイド長をしております、カリスタと申します」
サディアスさんの屋敷でメイド長をしている人……!? と、おれが驚いていると、ニコロも驚いたようで目を丸くしていた。そして、曖昧な表情を浮かべるとさっと視線を逸らしてしまった。
「ニコロさんもこちらにお住まいに? アシュリー家ではなく?」
「げほっ」
にこりと微笑んで頬に手を添えるカリスタさんが放った言葉に、ニコロはダメージを受けたようにせき込んだ。え、なに、どういうこと? とおれがふたりを交互に見ると、ルードが一言、
「それはニコロの心次第」
と言った。……いやうん、そうだろうね……。だってあまりにも近すぎるから、通いでも充分じゃないかなぁと思うわけで……。おれを狙う人なんて滅多にいないだろうし。
「それもそうですわね。では、私はこれで」
ぺこりと一礼してカリスタさんは徒歩五分のサディアスさんの屋敷に向かっていった。……本当に近いなぁ。
「ねえ、ルード。ニコロは通いでも大丈夫?」
「ニコロが良ければね」
「ふたりして俺をサディアスの屋敷に住ませようとしてませんか!?」
おれとルードは顔を見合わせて、こくりとうなずいた。ニコロががくりと肩を落とすのがなぜだろうかと首を傾げると、ゆっくりと息を吐いてからのろのろ玄関の鍵を開けに行った。
おれらはそんなに変なことを言っただろうかとルードを見上げると、ルードはくすくすと笑っていた。そして、おれの手を掴むと「行こう」と玄関まで歩いていく。
「ここは王城の近くだからね、あの屋敷よりは安全だと思うよ」
「……? あの屋敷が安全じゃなかったことなんてなかったですよ?」
「うん、みんなで守っていたからね」
……おれの知らない間になにかあったんだろうか……。
「それにこの屋敷――ヒビキにはピッタリだと思うよ」
「え、と、それはどういう意味ですか……?」
おれのような平凡な人間にこんな豪勢な屋敷が似合うとは思わないんだけど……。そう尋ねると、ルードは屋敷を見上げてこう言った。
「――魔石で出来た屋敷、だから」
「――はい?」
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