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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟むニコロが屋敷の門の鍵を開けて、ぎぃぃぃ、と重い音を立てて門が開く。門から玄関までそれなりの距離がある。……ルードの屋敷もそうだったけど(玄関から外に出ることはなかったけどさ)、こういう大きい屋敷って玄関までが長い……。
中庭は一種の公園のように見えた。小さいけれども噴水があって、休憩できるようにベンチもあって。雨が降っても良いように雨よけもあって、テーブルも置いてある。中庭でティーパーティーが簡単に出来そうだ。……もしかしたら、サディアスさんはそんな風にニコロと過ごしたかったのかな。
「……隊長の屋敷より中庭広くありません?」
「手入れもされているから、余計にそう思うな」
ルードの屋敷も中庭綺麗だけどね、どうしても当番がひとりで手入れしているから、やれないことも多いみたい。ひとりで作業するのが気が楽で良いって言う人もここに居るけど。
「……庭師を雇うべきか」
「綺麗に咲いていますからね」
サディアスさんの言う通り、手入れはされているみたいだ。そして、ようやく玄関について今度は玄関の鍵を開ける。ニコロがぎぃっと扉を開き屋敷の中に入った。おれが知っている屋敷はルードの屋敷とメルクーシン家の屋敷だけ。魔王城と王城は屋敷じゃないからノーカン。
パチン、とニコロが指を鳴らした。一気に灯りが点いて驚いた。思わずニコロへ顔を向けると、ニコロは「?」と首を傾げた。……そう言えばじいやさんも指パッチンで灯りを点けていたっけ。
「……すごいな、ほぼ新築じゃないか?」
「手入れされてますからねぇ。隊長の屋敷は中々ここまで出来ないから……」
「本当におれらが住んで良いんでしょうか……」
周りを見渡してそれぞれ感想を漏らす。ルードが言うように新築のように見えるくらい綺麗だ。ピカピカしている。さらに広い。すごく広い。ルードの屋敷と同じくらいの広さなはずなのに。
なんでだろう、と思っていたけどハッとした。絵画や壺が飾られていないからだ、きっと。おれの躰を思ってか、ゆっくりと歩き中の部屋を見て回る。さすがに全ての部屋を見て回ることはしないけれど。食堂を見たり、キッチンを見たり、お風呂場を見たりと普段行くことのない場所を見るのは楽しかった。
「……思っていた以上に広く感じますね」
「なにもないからな。物を置けばそれなりに狭くなるだろうけれど……」
「ベッドとかは置いてあるんですねぇ……。本当に必要最低限なものを持っていけば引っ越し完了簡単そうですね」
「……ちょっと気になっていたんだけど、今、聞いても良い?」
おれが手を上げて発言すると、ルードとニコロがおれを見る。
「ニコロはどっちに住むの?」
「……はい?」
ニコロが目を丸くした。だって徒歩五分ならサディアスさんの屋敷に住んでもおかしくないじゃないか。そう言うと、「俺、ヒビキさまの護衛ですよね!?」と妙に焦ったように聞かれた。護衛と言っても二十四時間一緒に居るわけじゃないし……。
「どっちでも良いんじゃないか。サディアスなら喜んでニコロを屋敷に住まわせるだろうし」
「護衛の仕事は!?」
「ヒビキが出掛けたい時にすればいい」
「え~……」
なんですか、それ。とニコロは言うけれどもどっちに住もうか悩んでいるように見える。って言うか、おれあんまり屋敷から出ないからなぁ……。たまに刺繍糸を買いに行くくらい? インドアってわけじゃなかったけど、アウトドア派というわけでもない。必要な時に来てくれたらそれで良い。
「……なんなら半々で暮らしてみるとか」
「半々?」
「週の半分はこっちで、週の半分はあっちとか」
「……いや、それはちょっと……」
……大変か。と思ったけれど、ルードがクスクス笑いだした。どうしたんだろうとルードを見ると、おれを抱きなおしてこっそりと耳元で内緒話をするように囁いた。
「サディアスの屋敷に泊ったら、徒歩五分とはいえ離れづらくなるだろう?」
「あ~……」
せっかく両想いになったのだから(素直になっただけともいう?)、一緒に暮らせばいいのにと思っていたけれど、ニコロはニコロでまだ微妙にサディアスさんに遠慮しているのかな。
そんな話をしながら屋敷内を探検する。……この大きな屋敷の中で、狭い部屋があって、そこになぜか惹かれた。おれの部屋と同じくらいの広さで、なんだか懐かしくなってしまう。
「ヒビキ?」
「ルード、ここ、おれの部屋にしたい」
「え?」
ちょっとショックを受けたようなルードの声に慌てて理由を述べる。
「この部屋、おれが前いたところの広さと似てるんです。懐かしくて」
「……あ、ああ、そういうことか。驚いた、一緒に眠ってくれなくなるのかと」
「寝室はルードと一緒が良いです」
「隊長、随分わかりやすくなりましたね……」
おれに対しては最初からこんな感じだったと思うけど。思ってもそれは口にしなかった。惚気と言われそうで。いや、惚気なのかもしれない。ぎゅっとルードに抱き着くと、ニコロが「ごちそうさまです」と呆れたように言った。
その後も、ここは寝室、ここは使用人たちの部屋、ここは書庫、みたいにどんな部屋にしようか話ながら扉を開けていた。
「隊長は買うんですか? この屋敷」
「ヒビキが気に入ったのなら」
「え、おれ? ルードじゃなくて?」
「私はヒビキが居てくれるならどこでも良い」
「……はいはい、ほんっとーにラブラブなのはわかりましたから、現実的な話をしましょうね……」
そもそもこの屋敷を買うとしたらいくらになるんだろう。高そう。そんなお金をルードが持って……持って、いたりするんだろうか。聖騎士団第一隊長ってどのくらいの給料をもらっているのかさっぱりわからないし。
「サディアスとの交渉次第だな」
「慈善活動もするのなら、あまり高いと借りる感じですかね。引っ越しの業者とかも手配しないといけないんで、決まったら教えてくださいよ」
「……いや、手配は私がする」
え!? とおれとニコロの声が重なった。ルードは、「伝手がある」と言った。引っ越し業者に伝手? とルードをマジマジと見つめると、彼はにこりと微笑んだ。ルードって案外人脈広いよな……?
「バビントンの実家で引っ越し業者をしていたところがあったはず……」
「ヘクターの実家が? 良く知ってますね、隊長」
「……名前呼びなんだな」
「あ、今は副隊長でしたっけ。名前呼びはまずいか」
ニコロの顔も広い! いや、そりゃそうか。ニコロは元々聖騎士団員だったんだから。メルクーシン領から帰って来る時、元同僚さんに乗せてもらったみたいだけど、その時色々話をしたんだろうか。
「うーん……。ニコロは聖騎士団に復帰しなくて良いの……?」
「未練あるように見えます?」
「正直見えない」
思い返してみればお菓子を食べて幸せそうにしているニコロしか思い出せない。辛そうな表情を浮かべていた時もあったけれど、それはもう記憶の彼方に置いておこう。だってもう解決したことだし。いっぱい笑ってくれたら良いな。サディアスさんと一緒に。
「隊長に恩もありますし、ヒビキさまにもありますし、恩を返したいんです、俺は」
「恩?」
今度はルードと言葉が重なった。ニコロはそれを聞いてぷはっと吹き出した。
「隊長も、ヒビキさまも、実は似た者同士なんじゃないですか?」
「おれとルードが?」
容姿も性格も全然違うと思うけどなぁ……と考えていると、ニコロが小さく肩をすくめるのが見えた。
「……ああ、もう大分暗くなって来たな。そろそろ戻ろうか」
「そうですね。腹も減りました」
「そう言えばおれも……」
そのタイミングでぐぅとおれの腹の虫が鳴いた。タイミングが良すぎて、三人で同時に笑ってしまった。
その日、屋敷に戻ってから食べた夕食はものすごく美味しく感じた。……眠っていて昼食を抜いていたことに気付いたのは、寝室でぎゅうっとルードに抱きしめられながら眠りに落ちる時だった。
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