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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟むなぜかおれまでドキドキとしてきた。ニコロがなにを言おうとしているのかわからないけど、おれとルードここに居ても良いのかな? ちらりとルードを見ると、彼はゆっくりとした動きでお茶を飲んでいた。
「――陛下から聞いたと思いますけど、『自由騎士』の称号を得ることになりました」
「……うん」
「まぁ、俺、ヒビキさまの護衛をやめる気はありませんが」
恩人なので、とおれを見る。恩人? と首を傾げたけど、すぐにニコロの足のことかと納得した。忘れていたわけではないけれど、精霊の祝福の効果だからおれのおかげってわけではないような。
「……うん」
「俺ね、俺より先に死にそうな人イヤなんです」
「うん?」
今度はサディアスさんが首を傾げる。ニコロはただ淡々と話しているけれど、きっと心の中では葛藤しているんだと思う。サディアスさんが「どういうこと?」とばかりに疑問の視線を投げている。
「置いて逝かれるのはごめんだ。だから――逝くのなら、俺も連れて行って欲しい」
その言葉にぎょっとしたのはおれだけじゃないハズ。一日でも多く自分より生きろ、じゃなくて連れて行って欲しい? ルードも驚いたように目を瞠っている。サディアスさんに関しては完璧に動きが止まった。そして、目を数回瞬かせてじわじわと顔を赤くさせていく。ええと……?
「……それが、ニコロの答え?」
「はい。……ずっと考えていたんだ、本当は。あんたには俺じゃなくて、他の人が良いって言いながら。俺が隣に居るべきじゃないって考えていながら」
懺悔のようだ、と思った。なにに対する懺悔なのかはわからないけれど。ただ、ニコロは静かに言葉を続ける。目を伏せて、テーブルの上に手を置いて、祈るようにぎゅっと組んだ。
「認めるのが怖かった。大切な人が増えるのが怖かった。――好きな人を失うのを、恐れた。いずれ失うのなら欲しがらなければ良いって。けど……それでも……」
段々とニコロの言葉が小さくなっていく。手が震えているのは、自分の気持ちを吐き出すのが苦しいからだろう。……そっと、サディアスさんが立ち上がってニコロの前に膝をついて、見上げた。あの日の続きをするみたいに。
「言っただろう? わたしはニコロの前から急に居なくなったりしないよ」
テーブルに置かれたニコロの手が緩やかにサディアスさんに向かって伸びていく。ニコロはポケットからミサンガを取り出して、彼の手首に巻き付けた。サディアスさんは驚いたようにニコロを見て、それから「ふふ」と笑う。……ニコロから、サディアスさんに物をあげるのを、初めて見た。
「――俺の負け」
ぽつりと柔らかく呟いたニコロに、サディアスさんが愛おしそうにミサンガを撫で、それから立ち上がってニコロを抱きしめる。おれとルードは顔を見合わせて、それから一緒に微笑んだ。おめでとうございます、サディアスさん、ニコロ。ひっそり心の中で呟くと、サディアスさんがおれを見て、心底嬉しそうに笑った。
「それで、どうするんだ、これから」
余韻に浸らせないルードであった。ニコロとサディアスさんが正式に恋人になった瞬間を見届けてしまったけど、良かったんだろうか。もしやおれらの立ち位置は証人だったりする?
「慈善活動についても話し合わないとね。でもその前に、ちょっとニコロを借りても良い?」
「――はい?」
「ああ、どうぞ」
「ありがとう!」
グイっとニコロの腕を取って立ち上がらせると、そのまま応接間から出て行ってしまった。おれが呆然としていると、ルードが立ち上がって「今日はもう無理だな」と言っておれらも応接間を後にした。
……ええと。おれはルードを見上げて、ルードはおれに視線を向けて、とりあえず寝室に戻ることにした。
「引っ越しの準備もしないとね」
「あの、本当にサディアスさんの屋敷に?」
「使ってないほうの、ね。前に一度見せてもらったけど、確かに同じくらいの広さだったよ」
サディアスさんはどうして使わない屋敷を手に入れたんだろう……。素朴な疑問を抱きつつ、恐らく話し合っている……いや、愛し合っている? サディアスさんに聞きに行く勇気はない。
「ニコロもようやく前に進めたな……」
ルードがどうしてそう言うのかがわからなくて、じーっと見つめるとルードはおれの頭を撫でてくれた。寝室のソファの上で一緒に座っていると、ぎゅっと抱きしめられた。撫でられるのはやっぱり好きだし、抱きしめられるのも好きだ。甘えるようにすり寄れば、頬に手を添えられてルードの顔が近付いてくる。目を閉じると、額に唇の柔らかさを感じた。
「わっ」
「……蔦に甘えられるのも不思議な気持ちになるものだな」
撫でて! とばかりに蔦が伸びて来た。伸縮可能過ぎない? とりあえず葉っぱを撫でると嬉しそうにくねくね動いた。
「名前でも付けます? ポチとか」
「なぜポチ」
「じゃあミケ」
「なぜミケ……」
そんな話をしていると、蔦は「?」とわさわさおれとルードの頬を葉っぱで撫でた。くすぐったい。魔物にも本当、色んな種類があるんだなぁと思いつつ、ルードとこの蔦の名前について考える。小一時間ほど経って、夕食の時間になったので食堂に向かうことになった。……ニコロとサディアスさんどこに行ったんだろ?
食堂でのんびりと夕食を楽しんでいると、じいやさんがお茶を淹れてくれた。美味しいものに囲まれるって幸せじゃんね。
「ルード坊ちゃん、引っ越しの準備はいかがなさいますか」
「式典の準備もあるから、早めのほうが良いだろう。リハーサルもあるから、城に近いほうが通いやすいし」
「……あのー、ちょっとした質問して良いですか?」
おずおずと手をあげてルードとじいやさんに声を掛けた。ふたりはおれへと視線を向けて言葉を促す。
「……そんなに急に引っ越しなんて出来るものなんですか……? あと、引っ越した後この屋敷どうなるんでしょうか……」
おれがそう聞くと、ルードは「ああ」とどこか納得したように呟いて、それから「心配いらないよ」と微笑んだ。じいやさんも微笑んでいる。でもさ、書庫の本とか山じゃん……? それを全部持っていくのは大変なんじゃないかって思ったんだけど……。あと、家具もどうするんだろうと。そして空き家になってしまったこの屋敷はどうなるのか。だって家って人が居なくなると傷みやすいって聞いたことあるし……。
「元々私がこの屋敷に住んでいたのは、メルクーシン家のものだったからと言うか、あの人に押し付けられたというか。だからいつか引っ越しはしたいと思っていたんだ。もちろん、ヒビキとの想い出があるからちょっと名残惜しいけど……ヒビキとの想い出は引っ越し先でも作れるから」
そんなに優しい顔で、柔らかい声で言わないで欲しい。きゅんとしてしまう。じいやさんが薄っすら涙を浮かべている。「ルード坊ちゃんに良い人が出来て本当に良かった」と小さい声で呟いていた。
「あと、引っ越しは業者を頼むからすぐに終わるよ」
「へ?」
「ヒビキ。引っ越しにむいたスキル持ちの人もいるんだ」
――あ。そうか、どうしても日本の段ボールに荷物を積めて引っ越すイメージしかなかったけど、この世界にはスキルがあった。空間収納的なスキルを持っている人が居るのかも。考えてみればなんでも入る鞄もあるくらいだもんな。
「なるほど、じゃあ安心ですね」
「それと、この屋敷だけど……。取り壊されるんじゃないかな」
「――はい?」
「ワープポイントあるの放置するの危険だし……。維持費は私が出していたし、メルクーシン家に未練はないし、うん、壊そう」
すっげー爽やかな笑顔でおっかないこと言っているんデスガ! じいやさん止めないの!? と顔を向けると、じいやさんはルードの考えに賛同するかのようにうんうんうなずいていた。マジか。
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