上 下
136 / 222
4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

25

しおりを挟む
「さて、目を開けてみてください」



 何回かタオルを取り替えてからニコロに言われるまま目を開ける。すると、ニコロのがおれの顔を覗き込んでチェックして、「ま、大丈夫でしょう」とタオルを持って出て行った。すっかり夕方になってしまった。

 おれはローテーブルに広げたミサンガと刺繍糸をひとつに纏めてクローゼットの中へと戻した。今度、シャノンさんのお店に行って刺繍糸を買おう。

 そう考えていると、扉が開いた。クローゼットの前におれに気付いたルードが近付いてくる。



「おかえりなさい、ルード」

「ただいま、ヒビキ。さっきそこでニコロに会ったよ。団長がいつ帰るのか聞かれたんだけど……」

「ニコロもあのパーティーで色々吹っ切れたみたいです」

「ふふ。ヒビキには嫌な思いをさせてしまったと思うけど、参加出来て良かった」



 そう言って柔らかく微笑むルード。心なしかいつもより声色も優しい。雰囲気が柔らかくなっているのをひしひしと感じた。ルードの雰囲気が変わったって前にみんなが言っていたけれど、おれにはよくわからなかった。だけど、今なら言える。わかるって。



「他の聖騎士団員さんたちに驚かれませんでしたか?」

「髪のこと? 驚かれたけど、似合っているって言ってくれたよ」



 服を着替えて髪を解こうとして「あ、切ったんだった」と手を止めるルードを眺めて、なんだか可愛いなぁと笑みを浮かべると、着替え終えたルードは、おれが笑っているのを見ると近付いて来ておれの髪をわしゃわしゃ撫でた。心地よくて目元を細めると、そのままルードの顔が近付いてくる。目を閉じると、額や頬にちゅっちゅっと軽くキスをするルード。最後に唇を重ねてた。触れるだけのキス。目を開けるとルードと視線が交わった。

 ふ、とふたりで笑い合う。幸せだなって思った。



「爵位のこととか、手続きがあるんですか?」

「まぁ、そうだね。色々と。ひと月もあればすべて終わるだろうけど」

「早いのか……遅いのか……」

「ああ、そうだ。ヒビキには悪いけど、ヒビキの爵位ももらうことになった」

「――はい?」



 え、おれの爵位? と目を丸くすると、ルードはちょっとだけ眉を下げて微笑んだ。そしておれの手を引いてソファに座り、おれの目をじっと見つめながら話し始める。



「私の爵位とは違うけれど、メルクーシン領で精霊の祝福の話をしてしまったからね。保護の意味も兼ねて」

「あ……」



 そう言えばあの時自分で宣言したんだった。なるつもりなかったのに……と肩を落とすと、ルードがぎゅっとおれを抱きしめた。だからおれもルードを抱きしめ返す。トントンと子どもをあやすみたいに背中を叩かれて、オレはルードの肩に額を押し当てるように頭を置いた。



「色々要請が来るかもしれないけど、基本的には今の生活と変わらないから」



 優しい声色でそう言われて、要請? と首を傾げる。ルードは躰を離して、ソファの背もたれに寄りかかる。おれもそうしてみた。



「聖騎士団もそうだけど、教会からも来るかもしれないね」

「教会から?」

「うん。重症者の治療に手を貸して欲しいって」

「なるほど……」



 確かにそれはあり得そうだ。ニコロの足を治せた実績もあるし、多分役に……立つ……立つかも? ちょっと自信はない。



「ところで、ルードの爵位ってどうなるんですか?」

「さぁ? そこら辺は陛下のご判断に掛かっているから」

「そうなんですね……」



 そう言うの、陛下が決めるのか。あの時会った陛下の姿を思い浮かべて、あんなに小さい子が国を背負うってとても大変そうだなぁと思った。補佐してくれる人たちは居るだろうけど……。



「ああ、それからこれをヒビキに」

「これは?」

「お茶会の招待状、かな?」



 思い出したように立ち上がり、さっき脱いだ服のポケットから手紙のようなものを取り出しておれに渡す。おれはそれを受け取って、じっと見つめて裏を見る。差出人は……っと。――フェリクス? え? ちょっと思考が止まった。だってこの名前――……。



「陛下からのお誘いだよ」

「えええッ!」

「……そうなるだろうな」



 思わず大きな声が出た。まさかのお茶会。まさかの陛下。



「え? 待ってください、なんで?」

「一度ヒビキとゆっくり話してみたかったようだ」



 陛下が? おれと? なんでまた? とぐるぐる思考が回り出す。ルードは肩をすくめて、ペーパーナイフを持ってくると「開けてごらん」とおれに渡す。おれはゆっくりとペーパーナイフを滑らせる。ドキドキしながら紙を取り出して静かに文字を読む。



「あ、明後日……!?」



 待って、いや本当に待って! なにこの展開! しかも明後日って早い! おれは招待状とルードを交互に見てルードは苦笑を浮かべていた。メルクーシン領から帰って来たと言うのに、まだ怒涛の展開が待っているとは思わなかった。



「陛下が楽しみにしていると伝えてくれと」

「わぁ……。マジですか……」

「ああ」



 陛下とお茶会って緊張するな……。って言うか、お茶会する時間あるのか、陛下……。国王って忙しそうなイメージがあるけれど、ああでも陛下はまだ六歳だし、ゆっくり業務をこなして……いや、そもそも六歳の子が業務を行うのか? 補佐の人がやるのでは?



「えっと、これはおれだけが参加するんですか……?」

「みたいだね。護衛としてニコロは参加して良いことになっているから、連れて行くと良いよ」



 ちょっとホッとした。ニコロも一緒なら心強い。そう言えばお茶会の場所はどこだ。招待状に視線を落として場所を探す。王城の裏庭? 王城って裏庭あるんだー……って、王城!? 正門から入って良いんだろうか!? ひとり焦っているおれを、ルードが落ち着かせるように肩をぽんぽんと叩いた。



「一体どんな話をすれば良いものか……悩みますね……」

「ヒビキが好きな話をすれば良いと思うよ。陛下は幼いけれど、六歳とは思えないくらいの思考力を持っているから」

「子ども扱いはしないほうが良いですね……。あ、手土産みたいなの必要ですか!?」

「いや、特に必要では……ああ、そうだ。ミサンガを持っていくと良いかもしれない」

「え、ミサンガ? 陛下に?」

「精霊の祝福の効果があるからね」



 ルードのことを頼んだだけなんだけど、一体あのミサンガどんな効果があったんだろうか……。



「じゃあ明日、陛下に贈るミサンガのために刺繍糸を買ってこなきゃですね!」



 意気込んでそう言うと、ルードは目を数回瞬かせて「そうだね」と微笑んだ。そんな話をしていると、扉がノックされて「夕飯の準備が出来ました」というリーフェの声が聞こえた。



「わかった、今行く」

「はーい」



 同時に返事をしたおれらの声に、リーフェが「お待ちしております」って言ってから足音が消えていく。おれらは夕飯を食べるために寝室から出て、食堂につくとマルセルさんの作った美味しいパンを食べながら今後のことを話し合った。

 とりあえず、明日はニコロとシャノンさんのお店に行って刺繍糸を買って、屋敷に戻ったらミサンガを作って……あ、お茶会のマナーってどうすれば良いのかな? っていう話を……。

 うう、緊張してきた。それを落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。ルードは緊張しているおれを見て、「頑張れ」と応援してくれた。応援は嬉しい、嬉しいけれど……。陛下がおれと話してみたいってどういうことなんだ……。

 美味しい夕飯を食べて、ちょっと休憩してからお風呂に入って短くなったルードの髪を洗って、やっぱり短い……と思いつつ、その姿も似合っているのだから、本当イケメンすごい。……前にも思ったけど! 何度見てもそう思う! 髪を洗い終えると楽しそうにおれの髪を洗い始めた。おれの髪を洗うルードの手つきはいつも優しい。その心地よさに、おれは目を閉じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

曇らせ系BL鬱ゲーに転生したけど、イチャらぶエッチしまくりたいのでモブくん達と付き合います!

雨宮くもり
BL
曇らせ系学園BLゲームの世界に転生した僕は、最悪の鬱展開を回避するために攻略対象・イベントを総スルー! 攻略対象とはまったく関係ないモブくんたちとイチャイチャらぶらぶえちえちのファンタジーキャンパスライフを送ります! ※連作短編風味です。 ※主人公の性質上ほぼエロシーンです (表紙イラスト→トワツギさん)

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ
BL
 部活に出かけてケーキを作る予定が、高校に着いた途端に大地震?揺れと共に気がついたら異世界で、いきなり巨大な魔獣に襲われた。助けてくれたのは金髪に碧の瞳のイケメン騎士。王宮に保護された後、騎士が昼食のたびに俺のところにやってくる!  砂糖のない異世界で、得意なスイーツを作ってなんとか自立しようと頑張る高校生、ユウの物語。魔獣退治専門の騎士団に所属するジードとのじれじれ溺愛です。 🌟第10回BL小説大賞、応援していただきありがとうございました。 ◇他サイト掲載中、アルファ版は一部設定変更あり。R18は※回。 🌟素敵な表紙はimoooさんが描いてくださいました。ありがとうございました!

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

【完結】海の家のリゾートバイトで口説かれレイプされる話

にのまえ
BL
※未成年飲酒、ビールを使ったプレイがあります 親友の紹介で海の家で短期アルバイトを始めたリョウ。 イケメン店長のもとで働き始めたものの、初日から常連客による異常なセクハラを受けた上、それを咎めるどころか店長にもドスケベな従業員教育を受け……。

傾国の伯爵子息に転生しました-嵌められた悪女♂は毎日が貞操の危機-

ハヤイもち
BL
”だからお前のことを手に入れることにする” 高校三年生卒業間際の誰もいない教室で親友に告白された主人公。 しかし、気づいたら悪役子息:シャルル伯爵子息に転生していた。 元の世界に戻るためにはシャルルを演じ切らないといけない。 しかし、その物語のシャルルは王子を陥れ、兄弟たちで殺し合わせた末に、 隣国の王子をたぶらかし亡命→その後気まぐれで自国に戻った際に 騎士団長に捕らわれて処刑されるというすさまじい悪役だった。 それでも元の世界に戻るために主人公は悪役を演じ切ると誓うが…。 ※主人公は関西弁で本心隠す系男子。 2chスレ描写あります。 親友→→主人公(ヤンデレ) 隣国王子→→主人公 など主人公愛され描写あり。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

処理中です...