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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟むこの前と同じようなミサンガを作っていく。慣れて来たのか、結構早く編めるようになった。……ぽすりとソファの背もたれに後頭部を乗せて天井を見上げる。この世界にも色々な形の家族があるんだなぁってしみじみ思って、おれの家族のことを思い出した。両親と姉。結構仲が良い家族だったと思う。
会いたくても会えない人たち。もしかしたら、満月の夜に声は聞けるかもしれないけれど……。
ルードに家族になろうって言ったのは、本心だ。あの家族のところにルードを居させたくないのも。そしてなによりも、おれ自身がルードを望んでいるのがわかるから。
それにしても、おれが眠った後になにかしたのかなぁ……あの怯え方、尋常じゃなかったような。……サディアスさんとルードがタッグを組むと、この国では誰が止められるんだろう……?
……考えてもわからないし、もうちょっとミサンガ作っておこう。黙々と作業に没頭すると考え事もどこかに飛んでいくしね。ニコロに昼食だと呼ばれるまでおれはせっせとミサンガを編んでいた。
昼食を摂って、ちょっと休憩してからニコロに声を掛けた。中庭の散歩に付き合って欲しいって。屋敷内だから本当はひとりで中庭を散歩しても良いんだけど、ニコロと話しもしたかったし、さ。
ニコロは別に構いませんけど、とついて来てくれた。準備運動をしてから中庭のウォーキング。体力付けるために、こうして歩くことも多い。
「馬車の乗り心地ってどうだった?」
「尻が痛くならないように柔らかいのが敷かれていました。さすがに公爵を乗せるから、奮発したんでしょうねぇ」
「? 普通の馬車は痛くなるの?」
「長時間乗っているとね」
馬車にも色々あるんだなぁ……。それから……一番聞きたかったことを聞いても良いものかどうか考えて、それに気付いたニコロが苦笑を浮かべていた。どうやらまた顔に出ていたらしい。
「……サディアスのことですか?」
「ニコロは巻き込まれ体質だよね……」
「巻き込まれているんだが、巻き込んでいるんだか……」
遠くを見るように目元を細めたニコロに、おれは首を傾げた。巻き込んでいる?
「あの時、声を掛けたのが俺じゃなきゃ、違う人がサディアスに好かれていたかもしれないし」
「それでもニコロを好きになっていたかもしれないよ?」
「どうなんでしょうね~」
歩きながらそんなことを話す。ニコロの話を聞いて、サディアスさんのことを思い浮かべた。彼はどこまでニコロの心を読んでいるのだろうか。そもそも読んでいるのかな、もしかしたら読んでいないかもしれない。読んだとしてもちょっとしか読んでないとかもあり得る。
「俺はね、目の前で両親が殺されたんです」
「――え?」
思わず足を止めてニコロへと顔を向けた。ニコロも足を止めて花壇の花に手を伸ばしてその花弁を撫でた。
「いや、正確には俺を庇って、かな。通り魔が襲い掛かって来たのを両親が庇って、俺だけ生き延びたんです。王国騎士団に保護されて、そのまま孤児院に引き取られました」
「ニコロ……」
「大好きな人たちを失って、怖くなったんです。情けない話だとは思いますが」
おれはぶんぶんと首を横に振った。情けなくなんてない。大好きな両親を失ってしまったニコロの気持ちを考えると、怖くなるのも当然だと思った。
「孤児院で過ごしていくうちに、あの場所も好きになりました。かあさんや他の子どもたち。小さい子たちの面倒を見ているうちに懐かれたりもして。……ただ、やっぱり病気が悪化したりして亡くなる子も少なくなくて……。置いて逝かれることが、多くて。それがちょっと……いや、かなり、つらくて……」
当時を思い出しているのか、段々とニコロの声が小さくなっていく。ニコロがサディアスさんのことを受け入れられないのは、置いて逝かれるかもしれないから? ひとりになりたくないから?
「サディアスの強さは知っています。知っているからこそ、怖い。あいつも俺を置いて逝くんじゃないかって。――自分のことばかりなんです、俺。臆病者だと笑っていいですよ」
「……笑えないよ……」
目の前が滲んだ。おれが泣いていることに気付いたニコロは、慌てたようにハンカチを取り出しておれの目元を拭う。ちょっと乱暴なのは、自分の身の上話をした気恥ずかしさからかもしれない。
「――だから、あんな風に啖呵を切れたヒビキさまは強いなって思ったんですよ」
「つよい?」
「未来を信じる気持ちの強さ、ですかね。一ミリも疑ってないじゃありませんか。隊長が自分の元から消えないって」
「……言われてみれば、考えたことないや……」
この世界に来てから今まで、ずっとルードが居てくれた。だからこれからもずっとルードと一緒に居るものだと思っていた。その未来を疑ったことがない。
ニコロは「やっぱり」と笑う。その顔はどこか清々しさを感じるくらいの爽やかな笑みで、おれは目を丸くした。
「なんか吹っ切れた?」
「開き直った、に近いかもしれません。まさかあんなに堂々と宣言されるとは思わなかったし」
パーティーでのことを思い出しているんだろうか。すっかり涙は引っ込んだ。それを見て、ニコロがハンカチをしまう。
「ちょっと目が赤くなっていますね。散歩はやめてすぐ目元を冷やしましょう」
ルードが帰ってくる前になんとかしなくては! とおれが焦った表情を浮かべると、ニコロはクスリと笑い屋敷へと戻るために足を進める。あのパーティーで、ルードとニコロの心情になにか変化があったみたいだ。
寝室に戻ってソファに座ると、「タオル持ってきますね」とニコロが出て行く。そう言えば中途半端にミサンガを編んでいた。ニコロが戻って来るまで、もうちょっと進めておこうとミサンガを手にする。刺繍糸、買ってこないとなぁと思いながら。
ニコロはすぐに戻ってきて、冷たいタオルをおれの目元に乗せてくれた。
「サディアスさんとちゃんと話し合ってね」
「……そうですね。ちゃんと、向き合わないと」
「ところで、パーティーの夜、おれが眠った後なにかあった?」
「あー……うん、えー……と、一応、念のために伝えておきますけど、サディアスも隊長も手は出していませんからね、手は」
うん? 『手は』ってなんだ、『手は』って。
「って言うか、俺も詳しくは知らないんですけど、サディアスと隊長がどっか行ったと思ったらメルクーシン家の喧嘩が勃発したってことくらいしか……」
……おれの考えが合っていれば、サディアスさんがメルクーシン家の人たちの心を読んで喧嘩させるように誘導させたのでは……? ルードはそれを見てなにを思ったのだろうか。それともフェンリルも一緒にそれを見ていたのだろうか。
なにはともあれ、メルクーシン家の人たちは今頃ギクシャクしているんじゃないだろうか……。まぁ、おれには関係ないことだけどさ!
「味方だと心強いですけど、敵にはしたくない人たちですよね」
「……確かに。あの時のサディアスさん、すごい鋭利な刃物のように見えた」
「鋭利な刃物! あれまだ半分くらいですよ、怒りメーター」
「あれで……半分……!?」
マジ切れしたサディアスさんってどんだけ怖いんだろう……。そう言えば、ルードが切れたところも見たことないや。おれがそう言うと、ニコロはタオルを取り替えながらあははと乾いた笑いを浮かべた。
「マジ切れした隊長たちは見ないほうがヒビキさまのためですよ……」
おれにそう言うってことは、ルードやサディアスさんが切れたところをニコロは見たことがあるってことかな。その時の話を聞きたいような、怖いような、複雑な心境だ。まぁ、見ないほうが良いって言うのであれば、それに従っておこう……。
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