上 下
135 / 222
4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

24

しおりを挟む

 この前と同じようなミサンガを作っていく。慣れて来たのか、結構早く編めるようになった。……ぽすりとソファの背もたれに後頭部を乗せて天井を見上げる。この世界にも色々な形の家族があるんだなぁってしみじみ思って、おれの家族のことを思い出した。両親と姉。結構仲が良い家族だったと思う。

 会いたくても会えない人たち。もしかしたら、満月の夜に声は聞けるかもしれないけれど……。

 ルードに家族になろうって言ったのは、本心だ。あの家族のところにルードを居させたくないのも。そしてなによりも、おれ自身がルードを望んでいるのがわかるから。

 それにしても、おれが眠った後になにかしたのかなぁ……あの怯え方、尋常じゃなかったような。……サディアスさんとルードがタッグを組むと、この国では誰が止められるんだろう……?

 ……考えてもわからないし、もうちょっとミサンガ作っておこう。黙々と作業に没頭すると考え事もどこかに飛んでいくしね。ニコロに昼食だと呼ばれるまでおれはせっせとミサンガを編んでいた。









 昼食を摂って、ちょっと休憩してからニコロに声を掛けた。中庭の散歩に付き合って欲しいって。屋敷内だから本当はひとりで中庭を散歩しても良いんだけど、ニコロと話しもしたかったし、さ。

 ニコロは別に構いませんけど、とついて来てくれた。準備運動をしてから中庭のウォーキング。体力付けるために、こうして歩くことも多い。



「馬車の乗り心地ってどうだった?」

「尻が痛くならないように柔らかいのが敷かれていました。さすがに公爵を乗せるから、奮発したんでしょうねぇ」

「? 普通の馬車は痛くなるの?」

「長時間乗っているとね」



 馬車にも色々あるんだなぁ……。それから……一番聞きたかったことを聞いても良いものかどうか考えて、それに気付いたニコロが苦笑を浮かべていた。どうやらまた顔に出ていたらしい。



「……サディアスのことですか?」

「ニコロは巻き込まれ体質だよね……」

「巻き込まれているんだが、巻き込んでいるんだか……」



 遠くを見るように目元を細めたニコロに、おれは首を傾げた。巻き込んでいる?



「あの時、声を掛けたのが俺じゃなきゃ、違う人がサディアスに好かれていたかもしれないし」

「それでもニコロを好きになっていたかもしれないよ?」

「どうなんでしょうね~」



 歩きながらそんなことを話す。ニコロの話を聞いて、サディアスさんのことを思い浮かべた。彼はどこまでニコロの心を読んでいるのだろうか。そもそも読んでいるのかな、もしかしたら読んでいないかもしれない。読んだとしてもちょっとしか読んでないとかもあり得る。



「俺はね、目の前で両親が殺されたんです」

「――え?」



 思わず足を止めてニコロへと顔を向けた。ニコロも足を止めて花壇の花に手を伸ばしてその花弁を撫でた。



「いや、正確には俺を庇って、かな。通り魔が襲い掛かって来たのを両親が庇って、俺だけ生き延びたんです。王国騎士団に保護されて、そのまま孤児院に引き取られました」

「ニコロ……」

「大好きな人たちを失って、怖くなったんです。情けない話だとは思いますが」



 おれはぶんぶんと首を横に振った。情けなくなんてない。大好きな両親を失ってしまったニコロの気持ちを考えると、怖くなるのも当然だと思った。



「孤児院で過ごしていくうちに、あの場所も好きになりました。かあさんや他の子どもたち。小さい子たちの面倒を見ているうちに懐かれたりもして。……ただ、やっぱり病気が悪化したりして亡くなる子も少なくなくて……。置いて逝かれることが、多くて。それがちょっと……いや、かなり、つらくて……」



 当時を思い出しているのか、段々とニコロの声が小さくなっていく。ニコロがサディアスさんのことを受け入れられないのは、置いて逝かれるかもしれないから? ひとりになりたくないから?



「サディアスの強さは知っています。知っているからこそ、怖い。あいつも俺を置いて逝くんじゃないかって。――自分のことばかりなんです、俺。臆病者だと笑っていいですよ」

「……笑えないよ……」



 目の前が滲んだ。おれが泣いていることに気付いたニコロは、慌てたようにハンカチを取り出しておれの目元を拭う。ちょっと乱暴なのは、自分の身の上話をした気恥ずかしさからかもしれない。



「――だから、あんな風に啖呵を切れたヒビキさまは強いなって思ったんですよ」

「つよい?」

「未来を信じる気持ちの強さ、ですかね。一ミリも疑ってないじゃありませんか。隊長が自分の元から消えないって」

「……言われてみれば、考えたことないや……」



 この世界に来てから今まで、ずっとルードが居てくれた。だからこれからもずっとルードと一緒に居るものだと思っていた。その未来を疑ったことがない。

 ニコロは「やっぱり」と笑う。その顔はどこか清々しさを感じるくらいの爽やかな笑みで、おれは目を丸くした。



「なんか吹っ切れた?」

「開き直った、に近いかもしれません。まさかあんなに堂々と宣言されるとは思わなかったし」



 パーティーでのことを思い出しているんだろうか。すっかり涙は引っ込んだ。それを見て、ニコロがハンカチをしまう。



「ちょっと目が赤くなっていますね。散歩はやめてすぐ目元を冷やしましょう」



 ルードが帰ってくる前になんとかしなくては! とおれが焦った表情を浮かべると、ニコロはクスリと笑い屋敷へと戻るために足を進める。あのパーティーで、ルードとニコロの心情になにか変化があったみたいだ。

 寝室に戻ってソファに座ると、「タオル持ってきますね」とニコロが出て行く。そう言えば中途半端にミサンガを編んでいた。ニコロが戻って来るまで、もうちょっと進めておこうとミサンガを手にする。刺繍糸、買ってこないとなぁと思いながら。

 ニコロはすぐに戻ってきて、冷たいタオルをおれの目元に乗せてくれた。



「サディアスさんとちゃんと話し合ってね」

「……そうですね。ちゃんと、向き合わないと」

「ところで、パーティーの夜、おれが眠った後なにかあった?」

「あー……うん、えー……と、一応、念のために伝えておきますけど、サディアスも隊長も手は出していませんからね、手は」



 うん? 『手は』ってなんだ、『手は』って。



「って言うか、俺も詳しくは知らないんですけど、サディアスと隊長がどっか行ったと思ったらメルクーシン家の喧嘩が勃発したってことくらいしか……」



 ……おれの考えが合っていれば、サディアスさんがメルクーシン家の人たちの心を読んで喧嘩させるように誘導させたのでは……? ルードはそれを見てなにを思ったのだろうか。それともフェンリルも一緒にそれを見ていたのだろうか。

 なにはともあれ、メルクーシン家の人たちは今頃ギクシャクしているんじゃないだろうか……。まぁ、おれには関係ないことだけどさ!



「味方だと心強いですけど、敵にはしたくない人たちですよね」

「……確かに。あの時のサディアスさん、すごい鋭利な刃物のように見えた」

「鋭利な刃物! あれまだ半分くらいですよ、怒りメーター」

「あれで……半分……!?」



 マジ切れしたサディアスさんってどんだけ怖いんだろう……。そう言えば、ルードが切れたところも見たことないや。おれがそう言うと、ニコロはタオルを取り替えながらあははと乾いた笑いを浮かべた。



「マジ切れした隊長たちは見ないほうがヒビキさまのためですよ……」



 おれにそう言うってことは、ルードやサディアスさんが切れたところをニコロは見たことがあるってことかな。その時の話を聞きたいような、怖いような、複雑な心境だ。まぁ、見ないほうが良いって言うのであれば、それに従っておこう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

曇らせ系BL鬱ゲーに転生したけど、イチャらぶエッチしまくりたいのでモブくん達と付き合います!

雨宮くもり
BL
曇らせ系学園BLゲームの世界に転生した僕は、最悪の鬱展開を回避するために攻略対象・イベントを総スルー! 攻略対象とはまったく関係ないモブくんたちとイチャイチャらぶらぶえちえちのファンタジーキャンパスライフを送ります! ※連作短編風味です。 ※主人公の性質上ほぼエロシーンです (表紙イラスト→トワツギさん)

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ
BL
 部活に出かけてケーキを作る予定が、高校に着いた途端に大地震?揺れと共に気がついたら異世界で、いきなり巨大な魔獣に襲われた。助けてくれたのは金髪に碧の瞳のイケメン騎士。王宮に保護された後、騎士が昼食のたびに俺のところにやってくる!  砂糖のない異世界で、得意なスイーツを作ってなんとか自立しようと頑張る高校生、ユウの物語。魔獣退治専門の騎士団に所属するジードとのじれじれ溺愛です。 🌟第10回BL小説大賞、応援していただきありがとうございました。 ◇他サイト掲載中、アルファ版は一部設定変更あり。R18は※回。 🌟素敵な表紙はimoooさんが描いてくださいました。ありがとうございました!

【完結】海の家のリゾートバイトで口説かれレイプされる話

にのまえ
BL
※未成年飲酒、ビールを使ったプレイがあります 親友の紹介で海の家で短期アルバイトを始めたリョウ。 イケメン店長のもとで働き始めたものの、初日から常連客による異常なセクハラを受けた上、それを咎めるどころか店長にもドスケベな従業員教育を受け……。

傾国の伯爵子息に転生しました-嵌められた悪女♂は毎日が貞操の危機-

ハヤイもち
BL
”だからお前のことを手に入れることにする” 高校三年生卒業間際の誰もいない教室で親友に告白された主人公。 しかし、気づいたら悪役子息:シャルル伯爵子息に転生していた。 元の世界に戻るためにはシャルルを演じ切らないといけない。 しかし、その物語のシャルルは王子を陥れ、兄弟たちで殺し合わせた末に、 隣国の王子をたぶらかし亡命→その後気まぐれで自国に戻った際に 騎士団長に捕らわれて処刑されるというすさまじい悪役だった。 それでも元の世界に戻るために主人公は悪役を演じ切ると誓うが…。 ※主人公は関西弁で本心隠す系男子。 2chスレ描写あります。 親友→→主人公(ヤンデレ) 隣国王子→→主人公 など主人公愛され描写あり。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

モブの強姦って誰得ですか?

気まぐれ
BL
「お前を愛している。」 オッスおらモブ!こに世界では何も役に立たないモブ君だよ! 今ね、泣きたいんだよ。現在俺は尊敬していた勇者に強姦されている!皆ここからが重要だぞ! 俺は・・・男だ・・・ モブの俺は可愛いお嫁さんが欲しい! 異世界で起こる哀れなモブの生活が今始まる!

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...