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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟む行きにかなりの魔物を倒したからか、魔物は出て来なかった。メルクーシン領から王都に戻るワープポイントを抜けて、それからやっぱり何度か休憩を取って、王都についたのは夜だった。魔物がいない分、結構早めについたみたい。
王都の北門で現地解散。そう言えば、ニコロはどこだろうと探す。どうやら元同僚さんの馬に乗って来たみたい。馬から下りてなにか話している。
「それじゃあ」
「ああ、じゃあな!」
それだけ言うとおれらのところに来た。ルードがフェンリルから下りて、次におれが下りる。差し出された手をしっかりと掴んで下りると、フェンリルはじっとおれらを見てから、
「ルード。……お前は今、幸せか?」
と問う。フェンリルがどうしてその質問をしたのかはわからないけれど、ルードは目を一瞬見開いて、それから柔らかく微笑んだ。
「――もちろん、幸せだ」
「ならば良い。その幸せを逃すなよ」
「わかっているさ」
フェンリルはそのまま消えてしまった。おれらは王都に入る前に、切れてしまったミサンガを燃やすことにした。ちょっと……いや、かなり残念そうに眉を下げるルード。おれはルードからミサンガを取って、精霊さんにお願いして燃やしてもらった。
灰になったミサンガは風に飛ばされてしまったけれど、精霊さんが大事そうに灰になったミサンガを包んでいるかのように、色々な色の球体が見えた。
「それにしても、それって本当に切れるんですね」
「うん、おれも驚いた」
おれの言葉に、ルードとニコロも驚いたようだった。だって、作ってすぐのミサンガが切れるとは思わないじゃん……。
「ルードが良かったら、また作りますけど……」
「是非お願いしよう」
食い気味に言われて、おれとニコロは目を合わせて笑う。そして、短かった遠征に終わりを告げるように、王都へと足を踏み入れた。
「さて、屋敷に帰る前に食事を摂る? それとも屋敷で食べる?」
「ん~、休憩中に色々摘んだから、あんまりお腹空いてないです」
「俺もです。さっさと屋敷に帰って寝たい。地味にきつかった……」
ニコロの言うこともわかる気がした。いくらフェンリルがふわふわもこもこでも、ずっと座っているのはきついものがあった。フェンリルもふたり乗って大変だったかもしれない。
「では、屋敷に帰ろうか。ああ、髪もなんとかしてもらわなければ」
「本当、思い切りましたよね。そこまでばっさり行くとは思いませんでした」
「そうか?」
そんな会話をしながら歩いていく。屋敷に戻るためにソニアさんのいる食堂に向かうと、夕食時だからかすごく混んでいた。こっそりとワープポイントに向かって、屋敷へ帰る。一瞬、ソニアさんと視線が合った。ソニアさんはルードの髪が短くなっていることに気付いて、びっくりしたように目を見開いたけど、お客さんに呼ばれて慌てて注文を取りに行った。
ワープポイントを使って屋敷に戻ると、じいやさんが迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ああ、今戻った」
「……坊ちゃん、髪が……」
「……自分で切ったから、後で整えてもらえるか?」
「かしこまりました」
どうやらじいやさんが整えてくれるみたい。……じいやさんって出来ないことがないのでは? ってくらい万能だなぁ。
「あのー、俺は部屋に戻って良いですか?」
「……ああ、ニコロもご苦労さま」
「いや、一番苦労したのは……。ま、隊長が選んだ道なんですから、好きにすると良いと思います。それじゃあ、隊長、ヒビキさん、おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
ニコロは頭を掻いて、それでも眠気には逆らえないようで自室へと足を進めた。おれらは顔を見合わせて、同時に笑みを浮かべる。
「それでは、髪を整えましょうか」
「そうだな、頼む」
おれらも寝室に向かい、ルードはじいやさんに髪を整えてもらった。シャキンシャキンとハサミの音が聞こえて、おれはその様子をじーっと眺めていた。バラバラだった髪が綺麗になっていく姿は見ていてとても感慨深いものを感じた。って言うか、じいやさんのハサミの使い方がプロだ。実は美容師でしたとか言われても納得してしまう。
「こんな感じですが、どうでしょう?」
「さすがじいやだな」
鏡を見せて確認させるじいやさん。じいやさんは「お気に召したのならなによりです」とてきぱき切った髪の毛を纏めて袋に入れた。髪が短くなったルードの姿はとても心が軽くなったかのように表情が明るかった。
「浴室の準備を出来ておりますので、絶対に入って下さいね」
「わかった」
「それでは、坊ちゃん、ヒビキさま、ごゆっくりお休みください」
ぺこりと一礼してじいやさんは出て行った。おれらはお風呂に入るための準備をして、浴室に向かった。シャワーだけだったから湯船に浸かりたかったんだよね。さっそくとばかりにシャワーを浴びて、おれの髪をルードが。ルードの髪をおれが洗って、躰も洗って一緒に湯船に浸かる。
躰の芯からぽかぽかとしてきた。
「これから、少し忙しくなると思う」
「あ、爵位の……?」
「それもあるが、色々とね」
「あんまり無理しないでくださいね」
もちろん、と言ってはくれたけど……。色々ってなんだろう。ちょっと気になるけれど、おれが聞いても良いのかどうか。
それにしても、髪の長いルードも格好良かったけれど、髪の短いルードも格好良いのだからイケメンってどんな髪型でも似合うのではって考えてしまう。もしかしたら明日、屋敷の人たちは驚くかもしれないなぁ。
「あの、ニコロとサディアスさんのことはどうするんですか?」
「うん……。どうしようね。それも含めて忙しくなりそうだ。まずは明日、報告書を作らなければ……」
少し、ルードが眠そうな声を出した。彼がここまで眠そうにうとうとしているのを見るのは初めてかも。ニコロが口にしていたことを思い出して、おれはざばっと湯船から上がると、ルードも湯船から上がる。生活魔法で髪と躰を乾かして、すぐに着替えて寝室に戻ると、ルードの手を引いてベッドまで向かう。ベッドにふたりで潜り込むと、ぎゅっとルードがおれを抱きしめた。
「……昔、誰かとこうやって眠ることに憧れていたんだ」
「ルード?」
「幼い頃の私は、魔力が高すぎるせいで身体が弱くて……。そんな私を、家族はどう扱ったら良いのかわからなかったみたい。そのうちに、フェンリルと契約して、年に一度魔力を与えていた。その頃にはもう……そう、化け物を見るような目を、していたな……」
ルードの話を聞いておれはたまらず顔を上げてルードの表情を見た。苦しい表情を浮かべているのなら、止めなきゃと思って。だけど、ルードの表情はなんだかとても優しくて、そっとおれの頭を撫でる。
「昔、サディアスに言ったことがあるんだ。メルクーシンの名はもう要らないって。私は……ヒビキが呼んでくれた名で、生きていきたい……」
そう言うと、ルードは目を閉じてしまった。すぅすぅと寝息が聞こえる。メルクーシン領に行くのは、きっとルードにとって勇気のいることだったろう。
「……お疲れさまでした、ルード。ゆっくり休んでください」
ぎゅっとルードに抱き着いてそう言うと、おれも目を閉じた。たった一日……いや、もしかしたら半日だけだったかもしれないけれど、ルードの家族に会って、彼らのことを知って、おれはきっとあの人たちと仲良くなれないだろうなぁと悟った。
だってあまりにもルードのことを人として見ていないから。孫にルードのことを化け物なんて教える人たちと仲良くなんてなりたくない。
これからメルクーシン家はどうなるのだろう。サディアスさん、一体なにをするつもりなんだろう。そんなことを考えていても、割と疲れていたみたいで睡魔が襲ってきた。
明日、屋敷の人たちはルードの短くなった髪を見て、どう思うのだろうか……。きっとみんな、一瞬驚いてそれから良く似合っているって笑ってくれるだろう。
だって、だって、ここが……ルードの『居場所』なのだから。誰もルードを傷つける人なんていないと、信じている。
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