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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

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 緩やかに下に着地すると、ルードが辺りを見渡す。サディアスさんがルードに近付いて来て、「もういないみたいだよ」と口にする。

 ルードがそれを確かめるかのように周りを見渡し、「そのようですね」と言うとまた先頭へと向かった。サディアスさんとニコロも馬車に戻っていく。……なんと言うか、あっという間に倒してしまった。一瞬だったけどサディアスさんの戦っている姿も見えた。



「……もしかして、サディアスさんってかなり強いんですか……?」

「ニコロからなにも聞いていない?」

「聞いてはいたけど……その、いつものサディアスさんのイメージと違って……」



 なるほど、と呟くルード。近くで見たわけじゃないからなんとも言えないけど、うん、普段のサディアスさんはいつもニコニコしているイメージがあった。でも、さっき見えたサディアスさんは――目がギラギラしていたような。



「戦闘狂のようなものだ」

「一言でまとめちゃった!?」



 想像できない……。ルードの表情を見ようとしたけど、ぎゅむっと抱きしめられて見えなかった。



「聖騎士団にはちょっとしたローカルルールがあってね。……戦闘中のサディアスに近付かないって言うのがあるんだ」

「え、それはどうして……? って言うかさっきニコロは近くに居ませんでした?」

「そう。ニコロは戦闘中のサディアスにも近付ける稀有な存在だったんだけどね……。サディアスのスキルは覚えているね? 他の声が聞こえると邪魔だからって……表向きは戦闘中は他を見る余裕がないって言っているけど、それは嘘だから」



 つまり、サディアスさんはニコロの思っていることは聞きたくないから、ニコロだけ近付けた……? って言うか、まさか魔物の考えていることを読み取りながら戦っていたりするんだろうか。考えていることを読んでいたとしても、それを実行される前に魔物を倒すなんて芸当が出来るもんなんだろうか――……。



「戦闘に関して、サディアスの右に出る者は居ない。そこまで自分を高められたのはニコロの存在が大きいのだとは思うけど……。ギャップがある、だったかな。そんな感じで人気はあるんだ」

「我から見たらまだまだだがな」

「え……」

「そりゃ精霊から見ればね……。人間にとってはかなりの脅威だよ。だからこその『公爵』だ」



 怪物、とニコロが言っていたけど……。

 ……うん、サディアスさんが戦っている時は近寄らないようにしようとひっそり心に決めて、おれはルードに凭れるように背を預けた。

 魔物を浄化しながら道を進んでいく。途中で休憩を数回挟みながら。休憩中はニコロもおれの近くに居て、久しぶりに会ったであろう聖騎士団の元同僚と話を弾ませていた。サディアスさんはヘクターさんとなにか話していたけど、おれが見ていたことに気付いたのかにこりと微笑んで手をひらひらと振った。

 なんとなく手を振り返して、それに気付いたルードがぽんとおれの頭を撫でる。一瞬しんと静寂になったけど、すぐにまたガヤガヤと話し声が聞こえて来た。



「『愛し子』効果すげぇ……」

「ずっとあんな穏やかな隊長なら良いのに……!」



 そんな声が。

 おれがいない時のルードって一体どんな雰囲気なのか……。気になるけれど、聞いたところで誰も答えてはくれないような気がした。休憩中に軽くご飯を食べたり飲み物を飲んだりした。

 三回目の休憩の時、ルードが鞄からマフラーを取り出しておれに巻いた。そろそろワープポイントらしい。そこを抜けると一気に寒くなるからって。おれはルードにちょっと屈んでもらって、ルードにマフラーを巻いた。



「……まさか隊長に当てられる日が来るとは……」



 ぽそりとヘクターさんがそんなことを言って、他の団員がこくこくと何度も同調するかのようにうなずいていた。「恋人欲しい……」と、切なそうな声を漏らす人たちもいて、おれは小さく眉を下げるしか出来なかった。

 ルードを先頭にワープポイントを抜けて、驚いた。本当に寒い。さっきまでそんなに寒くなかったのに! こんなに差があるなんて……。驚いて目を瞬かせると、ルードが「寒くない?」と聞いてきた。



「こんなにハッキリしてるんですね、寒暖の差」

「ヒビキの住んでいたところは違う?」

「んーと……世界で見ればどうだろ。日本じゃ春夏秋冬って言って四季があるんです。まぁ、最近だと春とか秋どこに行ったって感じで一気に暑くなったり、寒くなったりするんですけど……」



 温暖化の影響って聞いていたけど、本当のところは専門家でもないし、知らない。懐かしむように目元を細めると、ルードは「そう」と呟いてぎゅうっとおれを抱きしめた。……そう言えばルードは寒くないんだろうか。



「ルードは寒くないんですか?」

「ヒビキで暖を取っているから大丈夫」



 ……それは大丈夫なの……?



「ああ、ほら、見えて来た」



 すっとルードが人差し指を向ける。遠目からでもよくわかるくらい、大きな屋敷だ。あそこがルードの実家かぁ……と考えていると、ルードが黙ってしまった。久しぶりに会う家族に緊張しているのかな? と思ったけど、きっとルードの中では色々な葛藤があるのだろう。

 呼ばれていない自分が行っても良いのかどうか、とか。ルードなら考えそう。

 屋敷までは二十分と掛からなかった。

 屋敷の前につくと全員が馬から降りて、招待されたサディアスさんが馬車から降りて一隊を代表して屋敷の呼び鈴を鳴らした。ちらりとルードを見ると、少しだけ緊張しているように見えた。



「ようこそいらっしゃいました」



 呼び鈴を鳴らして一分も経たないうちに、執事服の男性が屋敷の門を開いてくれた。そして、ルードの姿を捉えると一瞬息を飲んだように見えた。それでも顔色一つ変えずにみんなを案内してくれて、馬小屋に馬を預けてフェンリルは「また後でな」とふっと消えちゃった。そのことに執事服の男性はホッとしたように胸をなでおろしていた。フェンリルが怖かったんだろうか。

 …………あのふわふわもこもこが…………?

 あれ、世の中のフェンリルの評価ってどんな感じなんだろう? そう言えばおれ、気にしてなかったな……。だってルードと契約しているから怖くは感じなかったし……。

 あ、フラウがルードのところに近付いてきた。そのことに執事服の男性はぎょっとしたように目を丸くしていたけど、すぐにみんなを屋敷へと案内してくれた。

 どうやら入る順番があるようで、サディアスさんが一番に入っていった。そして、おれとルードが一緒に屋敷の中に入るとビリビリとした視線を感じた。

 まるで――値踏みされているような、視線。サディアスさんははぁ、と小さく息を吐き、おれらの近くまで来た。そして、周りを睨みつけるように視線を尖らせる。



「……これだから面倒だよね、貴族って」



 おれに対してはふわっと優しく笑うから、さっきまでのサディアスさんはなんだったんだろうと思ってしまった。続々と聖騎士団の人たちも屋敷に入る。みんなを見る他の人たちの視線もそんな感じで、なんか怖い。

 おれが戸惑っていると、ニコロも近付いてきた。そしておれの隣に立つと耳元でこう囁く。



「絶対に隊長か団長の傍から離れてはいけませんよ」

「え?」

「こういう集まりの時はなるべく。あと、俺がなにを言われても反応してはいけません」

「ええ?」



 ニコロの『なにかを言われる』前提の話に思わず彼のほうに視線を向ける。ニコロは真剣な表情でおれを見ていて、思わずこくりとうなずいてしまう。そして、心配そうにサディアスさんへと視線を移した。
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