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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟む朝、起きると既にルードは仕事に行っていて、ナイトテーブルの上に「行ってきます」とただ一言書いてある紙が置いてあった。あの日から、ルードはこうやって書置きしてくれるようになった。ナイトテーブルから紙を取って、クスリと笑う。丁寧に畳んでからベッドを降りクローゼットに向かう。
着替えを取り出して、小さな箱の中に紙を入れた。箱はリーフェからもらったものだ。ちゃんと蓋をしてクローゼットを閉める。チュニックに着替えて、三つの鈴をポケットに入れ、部屋から出て食堂に向かう。
「おはようございます、ヒビキさま」
「お、おはようっ! びっくりした!」
後ろから声を掛けられて肩を跳ねさせると、くすくすと笑う声が聞こえた。リーフェだ。
「すぐに食事の用意をしますね」
「うん、お願い」
食堂の椅子に座り、朝食を待つ。すぐに用意してくれて、おれは手を合わせて「いただきます」と呟いてからパンを手に取った。今日の食事もすごくおいしい。
もぐもぐと食べて、食後には紅茶を淹れてくれた。
正式にお世話になるので、改めてみんなにそう話したら、みんな一瞬驚いたような顔をしてから、泣き出す人や笑顔になる人となんだか良くわからない反応をされてしまった。後でじいやさんに聞いてみたら、おれがいつ帰るのかが不安だったらしい。帰ることによって、ルードがどうなるのかを心配していたみたい。
愛されているね、ルード。
「今日はどうなさいますか?」
「えっと、じゃあ……本でも読もうかな」
「かしこまりました」
お腹いっぱい朝食を食べて、今度は書庫に移動する。大分不自由なく読めるようになってきたから、本を読むのが楽しい。
「そういえば、今日ニコロは?」
「今日は買い出しのようですよ」
「……ちゃんと行っているんだ」
「仕事ですからね」
にこにこと笑うリーフェに、ニコロの帰宅が遅くなりそうだなと思う。リーフェはサディアスさんを応援しているし、ニコロの背中を叩いているような感じ。逃げ帰ってくるニコロを見ては、「いい加減素直になりなさいな」と肩をすくめている。
ニコロも仕掛けているのがリーフェだって気付いていると思う。リーフェを見てため息を吐くから。
「リーフェは彼らがどうなると思う?」
「時間の問題だと思います。アシュリー家ってだけで」
「アシュリー家の人たちって一体……」
書庫について本を選んで椅子に座ると、リーフェは考えるように視線を巡らせて一冊の本を取り出した。それをおれに渡して「読んでみてください」と言うと仕事に戻っていった。渡された本に視線を落とす。ロマンス小説っぽいけど……。リーフェのお勧めなのかな? と表紙をめくる。
読み始めて、日記のようなものだと感じた。エッセイ小説、なのかな。パラパラと読み進めて……もしかして、これ、アシュリー家の愛し子が書いたのかなって思った。そう書いてあるわけではないけど、人に執着する者に愛されて監禁されたような内容だったから。ロマンスじゃない、若干のホラーを感じる……。
その人はわけがわからないままその家に連れて来られて、部屋から出られないように鎖で繋がれていたみたい。鎖は部屋を歩き回れるほど長く、トイレやお風呂はちゃんと行けるようになっていたようで、食事もちゃんと与えてくれたみたい。
それでも夜になるのが恐ろしかったと書かれていた。えっちの内容も隠さずに書かれていておれがこれを読んで本当に良かったのだろうかと悩んだ。暴力的な内容でぞわっと鳥肌が立った。
アシュリー家の全員がそういうわけではないんだろうけど。……もしも、ニコロがこれを読んでいたなら……そう思うと怖いなぁ。でも、ニコロが本でサディアスさんを避けるとは思えないから、やっぱりなんか理由があるんだろう。
本の内容は、執着した人が亡くなったことによって解放されたが、自分に変な性癖が出てしまったことを嘆いて終わっていた。
……変な性癖……。昨日のことを思い出して、思わず机に突っ伏す。
ルードがおれに与える快楽。色んな所を触れられて、色んな所で感じるようになった。これも変な性癖に入るんだろうか。媚薬の効果か、痛くはなかったけど。って言うかおれはなにを思い出しているんだ! 赤くなっているであろう頬を冷ますように突っ伏したまま深呼吸を繰り返す。
「他の本を読んで落ち着こう……」
躰を起こして、冒険ものの本を読みだす。やっぱりこういう話は好きだな! ワクワクするような感覚。魔法と剣の世界――って、ここもそうか。
……もしも、おれが本来の『アデル』として生まれていたら、どういう人生だったのだろう。ゲームの内容通りの人生だったのかな。
アデルから聞いた本編の内容を思い出して思わず両腕を擦る。
全然違う人生を歩んでいるなぁとぼんやり考えた。
「……それにしても、おれはこれからどうすればいいのだろう……」
はっきり言って、取り柄なんてものないぞ、おれ……。今はまだ未成年ってことで仕事もしていないけれど、後二年もすればこの世界では成人だし……。なにか仕事を探さないとなぁ……。おれに出来る仕事ってなにかあるかな……。
そんなことを考えていると、書庫の扉がノックされた。
「はーい?」
おれが返事をすると、ガチャっと扉が開いた。そこに居たのは、ルードとサディアスさんでおれは首を傾げる。あれ、まだお昼になっていないのに、どうしてふたりがここに居るんだろうと。
「やぁ、ヒビキさん。ちょっと良いかな?」
「え? ええと……」
ルードに視線を向けると彼は少しだけ眉を下げて、それからこくりとうなずいた。サディアスさんは書庫の中に入ると、ルードも入る。ルードはおれの傍に来て、肩に手を置くと睨むようにサディアスさんを見ていた。
「そんなに睨まないでよ、ルード。……ヒビキさんの力を借りたいんだ」
「おれの力、ですか?」
平凡なおれが力になれることがあるんだろうか、と不安そうにサディアスさんを見上げると、彼はにこりと微笑んだ。それからオーバーともいえる動きで肩をすくめて見せる。
「そう。精霊の祝福を持つ、ヒビキさんの力を貸して欲しい」
精霊の祝福。おれのスキルが必要ってことなんだろうか? そう考えてじっと自分の手のひらを見つめ、それから顔を上げた。
「それは、個人でってことですか? それとも――」
「聖騎士団からの正式な依頼だよ」
「団長、やはり私は反対です。ヒビキを連れて行くなんて……」
なんの話なのかさっぱりわからない。困惑するおれをよそに、ルードとサディアスさんが話している……。おれが関係しているのは間違いないんだろうけど……。
「おれに依頼ってなんですか?」
「遠征について来て欲しいんだ」
「遠征に? どこですか?」
そう言えば王都から出て行ったことはなかったな。魔王城っぽいところはノーカンにしておく。どこか知らないし。
「ルードの故郷」
「へ?」
ぱちんとウインクするサディアスさんに、重々しく息を吐くルード。
ど、どういうことなんだ……!?
「メルクーシン家主催のパーティーがあるんだよ。それに呼ばれているんだ」
「え、ルードの実家でパーティー? それと聖騎士団ってなにか関係あるんですか?」
「魔物が来ないようにして欲しいんだって。そういう依頼が聖騎士団に来たんだ。それで、いつもはひとり神官を連れて行くんだけど、ちょっと体調不良のためいけないって連絡が来てね。ヒビキさんが引き受けてくれないかなぁって」
「し、神官の代わりですか!?」
そんな重役をおれがやっていいのか!? と目を大きく見開く。ルードを見上げると、苦々しそうに表情を歪めていた。
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