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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟むって言うことは、色々本編とは違うわけで……。そもそも本編終了後ってアデルが言っていたっけ。どのルートの終了後なんだろう。シリウスさんルート?
「じゃあ後はハッピーエンドだったね。サディアスルートでは共依存、ニコロルートでは聖騎士団辞めてお店を持つ、国王ルートでは王妃……王配? になって国を盛り上げる、ルードルートは結婚の許可を貰いにメルクーシン領へ旅立つ、シリウスルートは……。シリウスが消えて終わり」
どのルートでもないじゃん! しかもなんかハッピーエンドに思えない言葉があったんだけど!? おれがぎょっとしてアデルを見ると、アデルは頬杖をついておれを見た。
「ハッピーエンドとは……?」
「サディアスの場合共依存以外のハッピーエンド思い浮かばないほど、彼病んでいたからね? この世界のサディアスは病んでいる感なかったけど。シリウスは魔王だから、魔物を引きつれてどこかへ消えていくって言うのがハッピーエンドになっちゃったみたい」
それハッピーエンドって言うの? そういうゲームしたことないからよくわからないよ……。しかし、ゲーム本編のサディアスさんが病んでいるって、なにかあったのかなぁ。それにしても知れば知るほど別人に思えてしまう。
「あと、誰とも恋人にならなかった場合は『アデル』がひとりで旅立つエンド。自分の居場所を求めて。で、ボクが本編終了後って言ったのは、シリウスの存在が最初からあったから。攻略キャラのエンドを回収してから起こるシリウスルートが、この国に来てからあった。だからボクはおかしいと思ってシリウスの城にみんなと一緒に来て、シリウスに土下座されたワケ。ちなみに土下座するシリウスなんてゲーム中にないからね。そこら辺でボクはようやく自分の置かれた状況に納得したかなー……。年齢もおかしければ辿っている人生もかなり違うみたいだし、ここはゲームの中だけど、ゲームそのものじゃないって」
淡々と言葉を綴るアデルに、おれはただ聞くことしか出来なかった。おれの知っている人たち……ルードたちは、どのくらいゲームと同じ道を歩んでいたんだろう。そもそも、主人公であるアデルも違う道を歩んでいるし。おれが考え込んでいると、アデルは頬杖をやめてじっとおれを見る。
「別にそんなに深く考えなくても良いんじゃない」
「え?」
「ゲームとここは別物だもん。プレイヤーだったからわかる。キミはキミで好きにしたら良いと思うよ」
そんなにあっさりしていて良いんだろうか。ぐるぐる悩むよりは良いのかもしれないけど……。おれの好きにって言われても……。
「……話してくれてありがとう。ゲーム本編とここが全然違うってよくわかったよ」
「そりゃよかったね。よし、帰ろう」
「え? どうやって?」
「この鍵を使って。ああ、でも今日が二日目なら王都のほうが大変なことになってるか。ボクのスマホ持ってるよね? もう要らないから壊して良いよ」
そんなにあっさり壊して良いものなの、これ!? おれが戸惑っていると、扉がノックされた。アデルはまた「開いてるよー」と声を掛ける。ガチャリと扉が開いて、ルード、ニコロ、シリウスさんがぞろぞろ入って来た。
「みんな、どうしてここに?」
「遅いから、なにかあったのかと……」
ルードがぼそぼそとそう言って、あ、心配してくれたんだと思った。優しいなぁ。
「大丈夫。ちょっと話を聞いていただけだから」
「そうか」
どこか安堵したように息を吐くルード。ニコロが心配そうにおれを見て来たから、微笑んで見せる。
「お話しは終わった?」
「うん。ボクの役目はこれで終了。そうでしょ、シリウス」
「……? どういう意味?」
ガタンとアデルが椅子から立ち上がって、シリウスさんの元に向かう。シリウスさんは嬉しそうにアデルに抱き着こうとして、アデルがひらりと身を躱しそれを拒否。漫才のようだ。
「この後、かなりの数の魔物が王都周辺を襲うよ。キミはどうする? 助けに行く? それともボクと一緒に帰る?」
「えっ……」
魔物が王都周辺を……? それは阻止しなきゃいけないことだ。だけど、おれがなにかを言う前にニコロがおれの背中に手を置いて、ぐいぐいとアデルたちに近付ける。
「ニコロ?」
「ホシナの役目はこの人を帰すことでしょう? それに、あなたには【浄化の力】がないんですから。早く帰って隊長を安心させてあげてください。ここは俺が引き受けるから」
「ニコロ!?」
大丈夫ですって、と笑うニコロ。おれがなにかを言う前に、アデルが魔物を呼んでおれの腹に蔓みたいのを巻き付けてその場から歩いていく。おれはまだ、なにも言っていないのに……!
「ホシナ……。良いのか、これで?」
「シリウスが迎えに来てくれるそうなので。それに、俺の姿は他の人たちには見えないみたいだし、暴れてから帰りますよ」
「……ふぅん。とりあえず、見送るか」
「そうですね」
そんな会話が聞こえて来たけど、本当にシリウスさんがニコロを迎えに行ってくれるんだよな……? 不安げにシリウスさんを見上げると、彼はぱちんとウインクをした。ずるずる引きずられてどこまで来たのかわからない。蔓が解け、目の前には大きな扉が……。もしかしてここから帰れるのかな?
ルードがおれに近付いて来て、ぎゅっと抱きしめて来た。おれもルードを抱きしめ返す。二十三歳のルードよりも薄い身体。
「またホシナに出逢える日を待っている」
「――うん、待っていてください。きっとおれは、あなたに恋をするから」
抱きしめていた腕を緩めて、こつんと額を合わせる。ルードは優しく微笑んでいて、おれも笑みを浮かべた。そして、ここに残るというニコロに、媒体であるアデルのスマホを渡す。
「これを壊して、絶対帰ってきてね」
「もちろん帰りますよ。心配しないでください。ちょっと助太刀して帰るつもりですから」
「うん、待ってる。待ってるからね……!」
ルードがおれから離れ、代わりにニコロがぽんとおれの頭を撫でた。そして、シリウスさんに視線を向ける。シリウスさんはこくりとうなずき、アデルに扉を開けるように言った。
アデルは鍵を開けて、ぎぃぃと重い音を立てて扉を開く。真っ暗だ。
「じゃあね、ルーちゃんの愛し子。アデルのこと、よろしくね」
「え、シリウスさんは……?」
「ニコロを帰さなきゃいけないから、ここに残るよ。とはいっても、すぐに帰すから安心して」
そう言って、トンっとおれとアデルを押した。扉が閉まり、そのあと、落下するような感覚。って言うか感覚じゃなくて落下しているよな!? 随分広い落とし穴だな!? 混乱のあまりそんなことを考えてしまった。
『ヒビキ!』
声が聞こえた。この声は二十三歳のルードだ。おれは声のほうに手を伸ばす。ひらひらとリボンが見えた。おれが、ルードに預けたリボンだ。そのリボンを掴むと、ぐっと引っ張られた。
「う、わぁああっ!?」
「ヒビキ!」
誰かに抱きとめられた。誰かなんて、顔を見なくてもわかる――……。
「ルード……?」
「ヒビキ、良かった……」
ぎゅうっと抱きしめられて、おれも抱きしめ返す。ああ、やっぱりこっちのルードのほうがしっくりくる。ごほんっと咳払いする音にびくっとした。アデルたちがおれを見ていた。
「……あ、えっと……。も、戻りました……?」
「おかえりなさい。ひとり足りないようですが……」
「あ、えっと、ちょっとやることがあるので残ってますが、すぐに来るみたいです」
ぎゅうぎゅうとルードに抱きしめられたまま、そう言うとアデルが「帰っていい?」と聞いてきた。おれに聞かないでくれ。
「アデル殿下にはお聞きしたいことがありますので、王城にお越しいただきたいです」
「……ハイハイ。あ、そうだ」
アデルはおれに近付くと、「満月の日にスマホを見ること」と耳元で囁いた。満月の日に? とおれがアデルを見ると、アデルは妖艶に微笑んだ。
そして、それから五分もしないうちにニコロとシリウスさんが帰って来た。人が絵の中から出て来るって不思議な感じ。
そう言えばカラーが変わっていたけど、戻って来たニコロはいつものニコロのカラーになっていた。ってことは、おれも元に戻っているのかな。
「シリウス、あなたにも聞きたいことが山のようにあるので、城に来るように」
「わかってますー」
……とりあえず、みんな戻ってこられたしこれで良いのかな?
「あの、おれらが絵の中に入ってから、どれくらいの時間が経ってますか?」
「二十分だ」
二十分!? それしか経っていなかったのか! それでもすごく心配してくれたんだろう。ルードがおれを離そうとしない。
「ご協力、本当にありがとうございました。後日、改めてお礼をさせてくださいね」
フェリクス陛下がおれらに向かって微笑みかけた。ユーグさんもうなずいている。……いや、特になにもしていないんだけど……。ただ話をしただけ。おれが呆然としていると、ルードがおれを抱っこした。
「用件が終わったのでしたら、これで失礼します」
「る、ルード!」
歩けるから下ろして、と言う前にスタスタと歩いて行ってしまう。フェリクス陛下は目を丸くしてからクスクスと笑い、手を軽く振った。ニコロが慌てたようにおれらを追いかける。
――これでおれの役目は終わった、で良いのかな……?
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