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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟むさて。これからどうするべきか。アデルを連れて帰らないといけないんだけど、この場合ってシリウスさんも一緒に連れて行ったほうが良いのかな。そもそもどうすればここから帰れるんだろう。
「……シリウスさん、おれらアデルを連れて帰らないといけないんですけど……」
「そうだろうねー」
「シリウスさんはどうするんですか?」
一緒に来るのか来ないのか。おれからそう聞かれるとは思わなかったのか、シリウスさんはぱちぱちと目を瞬かせてそれからぶはっと笑いだした。……おかしいことを聞いたつもりはないんだけど……。
「俺を連れ帰るんだ?」
「アデルが好きなんでしょう? 一緒に居たいんだと思って」
「……お人好しって言われない?」
「人の恋路を邪魔するつもりはありません。応援はしますけど」
ちらりとニコロに視線を向けると逸らされた。ルードはおれとニコロの様子に首を傾げている。サディアスさんがニコロのことを好きなのを、十五歳のルードも知っているだろう。あ、でも今のニコロはカラーが違うから……同名の人って認識なのかな。
「ふーん……」
「魔王は休業中なんでしょう?」
「玩具屋、結構楽しいからね。アデルが考えて俺が作るの。ふたりの共同作業って良いじゃん?」
ケーキ入刀みたいに言わないでくれ……。そしてルードが「玩具?」と興味を持ってしまった。そこから始まるシリウスさんのプレゼン。ニコロはおれの耳を塞いでくれたけどしっかり聞こえています! ……もしかして、ルードが玩具を使うのはこういうのを聞いていたから!? ルードはすっごく興味深そうに聞いているし……。一通りのプレゼンが終わったのかニコロが耳から手を離した。
「……あれ?」
「ん、どうしたの?」
「ルードとシリウスさんって……もう知り合いになって良かったんですか……?」
我ながらすごく今更なことを聞いてしまった。だってルードとシリウスさんが知り合うのって、アデルが来てからじゃなかったの? そしてアデルにも会ってるし。あれ、昔馴染み的なことになるんじゃ……?
「別に構わないよ~。ルーちゃんが覚えているかも怪しい年月だし」
「そうなのか?」
「八年後の話だからね。覚えていれば覚えていたで特に支障はないよ。俺もアデルもね」
……そ、そうなのか……。まぁ、シリウスさんがそう言うのなら良いのかな。
「最近では魔物を使った玩具も作ってるから、良かったら一度来てみて」
「魔物を使った玩具?」
「そ。高速でレロレロする玩具とか、精液掛けると一気に育つ触手とか」
「えぐい!」
「気持ちいいよ?」
体験済み……!? おれがぎょっとしてシリウスさんを見ると彼はぽっと顔を赤らめた。そもそも魔物ってそう言う使い方して良いものなの!?
「アデルのスキルが便利でねー。大抵のは魔力込めないと使えないからさー。勝手に動いてくれる魔物玩具もプレイに良くない?」
「知りません!」
「え、それ魔物生きてるのか……?」
「浄化されてないからね」
「……」
ニコロとルードが引いてる。確かに玩具って魔力を使うみたいだけど……。って言うかそんなもん作っていたのか……。資金って一体どこから……。あ、もしかしてあのハーレムの中に資産家がいるとか……? 充分考えられるよな。
「そもそも、どうして魔物を使おうと思ったんですか……?」
「え、どうしてって……そりゃあ、魔物の有効活用だと思ったから。放っておけば人を襲うだけだしね。アデルのスキルで魔物を支配して、俺がちょいちょいと弄って無害にしてあげれば玩具の素材になるし」
「……魔王って魔物の王ですよね……?」
「あっはっは、あれだけ膨大な数の魔物、俺が支配できるわけないじゃん!」
……笑い事なんでしょうか、シリウスさん。遠い目をしてしまったおれに同情するようにぽんとルードが肩に手を置いた。
「そもそも、俺、人間だよ?」
「魔王設定どこ行った!?」
「役職名じゃん、魔王って。俺は望んで魔王になったわけじゃないし。だから休業しても無問題。――魔物の大半は聖騎士団に任せられるしね」
「……それが狙いか? 王都周辺に魔物を派遣するのは」
魔物を派遣……。スーツを着た魔物を想像してしまいおれはゆっくり頭を横に振って打ち消す。不思議そうにニコロがおれを見ていた。
「派遣って言うか、あそこら辺の魔物はただ人間とじゃれたいだけなんだけどね。後、親に会いたがっている。まぁ、会ったら襲うだろうけど」
――以前聞いた魔物の話を思い出した。魔物は両親に会いに来ているんだろうか……。人肌が恋しい……? うーん。なんとなく複雑な気分になるな、この魔物の設定って。
「ちなみに襲われるとどうなるの?」
「性的に襲われた後、運が悪いと死ぬかな!」
爽やかに恐ろしいこと言い放ったぞ、シリウスさん……! えっと、魔物って性的に襲うの? おれが混乱していると両隣りで同じタイミングでため息を吐くふたりがいた。ニコロとルードだ。
「あの、もしかして聖騎士団のやめるかやめないかって……」
「襲われるのを見たり実際襲われたらねぇ……。そりゃあ逃げたくなるよね」
「お、おう……」
にこにことシリウスさんが笑っている。笑いながら話すことだろうか。でも、昨日会った魔物は普通に戦っていたよなぁ……? なんでだろ? 魔物にも好みがあるとか? もしくはルードの強さに気付いていたとか? そっちのほうが納得がいく。
「ルードたちは襲われたことありますか?」
「あ、聞くんですね……。ちなみに俺はありません」
「ないな。魔物は見つけたら即退治が鉄則だ」
……速攻で倒せるって言うのもすごいよな。
「魔物の行進はどうして起こるんですか?」
「さぁ? 俺、魔物を統括してるわけじゃないから……。ただ、まぁ、復讐の場合が多いかな。魔物を限界まで弱めて放置していると行進が始まるみたい。あいつらにそういう感情があるのかどうかは知らないけど」
つまり、魔物って謎の生き物なんだな……。こればかりはおれがどうこう出来る問題じゃないみたいだ。ルードが言っていた行進って何年前の話だったんだろ。
『あと、この世界色々ぐちゃぐちゃにしているから、君が深く考えなくても良いよ』
いきなり頭に声が響いた。びっくりしてシリウスさんを見ると、彼はパチンとウインクをした。テレパシー? これもスキル? 一体シリウスさんは何個のスキルを持っているんだろうか。
「ホシナ? どうした?」
「あ、いえ……。大丈夫です」
ルードが心配そうにおれの顔を覗き込んでくる。幼いルードの顔にドキリとした。そんなおれをニコロが微笑ましそうに見ている。二十三歳のルードは男らしいイケメンだと思うけど、十五歳のルードは美少年って言葉がピッタリな気がする。
「……アデルと話すことは出来ますか?」
「んー、夜になれば少しはマシになるんじゃないかな」
「少しは?」
「二日酔いは響くんですよ……色々と」
ニコロがぽそりと言った。二日酔いってそんなにつらいもんなの……? おれ、成人しても絶対飲み過ぎないようにしよう……。心の中でそう誓って、気付いた。日本では二十歳で飲酒解禁だけど、もしかしてこの世界では十八歳から解禁なんだろうか。アデルが飲んでるくらいだし。
「……帰りたい?」
「え?」
「見つけたから連れて来たけど、あっちのほうが良かった?」
シリウスさんの言葉におれは目を伏せた。どっちの世界が良いかなんて口にできるはずがない。だってどっちの世界も好きだから。
「……? 連れて来た?」
ニコロが首を傾げた。そりゃそうだ。おれが話したのはルードだけ。そして、多分サディアスさんはおれが異世界から来たことを知っている。心を読めるサディアスさんだから……。おれ、多分知らないであっちとこっちを比べていたりしていたろうし。
「こっちも好きですよ。みんなが居るから」
「それなら良かったよ。うまい具合に出逢えたみたいだし」
……森の中に迷い込んだ時は正直途方に暮れたけどな!
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