102 / 222
3章:その出会いはきっと必然
11
しおりを挟むさて。これからどうするべきか。アデルを連れて帰らないといけないんだけど、この場合ってシリウスさんも一緒に連れて行ったほうが良いのかな。そもそもどうすればここから帰れるんだろう。
「……シリウスさん、おれらアデルを連れて帰らないといけないんですけど……」
「そうだろうねー」
「シリウスさんはどうするんですか?」
一緒に来るのか来ないのか。おれからそう聞かれるとは思わなかったのか、シリウスさんはぱちぱちと目を瞬かせてそれからぶはっと笑いだした。……おかしいことを聞いたつもりはないんだけど……。
「俺を連れ帰るんだ?」
「アデルが好きなんでしょう? 一緒に居たいんだと思って」
「……お人好しって言われない?」
「人の恋路を邪魔するつもりはありません。応援はしますけど」
ちらりとニコロに視線を向けると逸らされた。ルードはおれとニコロの様子に首を傾げている。サディアスさんがニコロのことを好きなのを、十五歳のルードも知っているだろう。あ、でも今のニコロはカラーが違うから……同名の人って認識なのかな。
「ふーん……」
「魔王は休業中なんでしょう?」
「玩具屋、結構楽しいからね。アデルが考えて俺が作るの。ふたりの共同作業って良いじゃん?」
ケーキ入刀みたいに言わないでくれ……。そしてルードが「玩具?」と興味を持ってしまった。そこから始まるシリウスさんのプレゼン。ニコロはおれの耳を塞いでくれたけどしっかり聞こえています! ……もしかして、ルードが玩具を使うのはこういうのを聞いていたから!? ルードはすっごく興味深そうに聞いているし……。一通りのプレゼンが終わったのかニコロが耳から手を離した。
「……あれ?」
「ん、どうしたの?」
「ルードとシリウスさんって……もう知り合いになって良かったんですか……?」
我ながらすごく今更なことを聞いてしまった。だってルードとシリウスさんが知り合うのって、アデルが来てからじゃなかったの? そしてアデルにも会ってるし。あれ、昔馴染み的なことになるんじゃ……?
「別に構わないよ~。ルーちゃんが覚えているかも怪しい年月だし」
「そうなのか?」
「八年後の話だからね。覚えていれば覚えていたで特に支障はないよ。俺もアデルもね」
……そ、そうなのか……。まぁ、シリウスさんがそう言うのなら良いのかな。
「最近では魔物を使った玩具も作ってるから、良かったら一度来てみて」
「魔物を使った玩具?」
「そ。高速でレロレロする玩具とか、精液掛けると一気に育つ触手とか」
「えぐい!」
「気持ちいいよ?」
体験済み……!? おれがぎょっとしてシリウスさんを見ると彼はぽっと顔を赤らめた。そもそも魔物ってそう言う使い方して良いものなの!?
「アデルのスキルが便利でねー。大抵のは魔力込めないと使えないからさー。勝手に動いてくれる魔物玩具もプレイに良くない?」
「知りません!」
「え、それ魔物生きてるのか……?」
「浄化されてないからね」
「……」
ニコロとルードが引いてる。確かに玩具って魔力を使うみたいだけど……。って言うかそんなもん作っていたのか……。資金って一体どこから……。あ、もしかしてあのハーレムの中に資産家がいるとか……? 充分考えられるよな。
「そもそも、どうして魔物を使おうと思ったんですか……?」
「え、どうしてって……そりゃあ、魔物の有効活用だと思ったから。放っておけば人を襲うだけだしね。アデルのスキルで魔物を支配して、俺がちょいちょいと弄って無害にしてあげれば玩具の素材になるし」
「……魔王って魔物の王ですよね……?」
「あっはっは、あれだけ膨大な数の魔物、俺が支配できるわけないじゃん!」
……笑い事なんでしょうか、シリウスさん。遠い目をしてしまったおれに同情するようにぽんとルードが肩に手を置いた。
「そもそも、俺、人間だよ?」
「魔王設定どこ行った!?」
「役職名じゃん、魔王って。俺は望んで魔王になったわけじゃないし。だから休業しても無問題。――魔物の大半は聖騎士団に任せられるしね」
「……それが狙いか? 王都周辺に魔物を派遣するのは」
魔物を派遣……。スーツを着た魔物を想像してしまいおれはゆっくり頭を横に振って打ち消す。不思議そうにニコロがおれを見ていた。
「派遣って言うか、あそこら辺の魔物はただ人間とじゃれたいだけなんだけどね。後、親に会いたがっている。まぁ、会ったら襲うだろうけど」
――以前聞いた魔物の話を思い出した。魔物は両親に会いに来ているんだろうか……。人肌が恋しい……? うーん。なんとなく複雑な気分になるな、この魔物の設定って。
「ちなみに襲われるとどうなるの?」
「性的に襲われた後、運が悪いと死ぬかな!」
爽やかに恐ろしいこと言い放ったぞ、シリウスさん……! えっと、魔物って性的に襲うの? おれが混乱していると両隣りで同じタイミングでため息を吐くふたりがいた。ニコロとルードだ。
「あの、もしかして聖騎士団のやめるかやめないかって……」
「襲われるのを見たり実際襲われたらねぇ……。そりゃあ逃げたくなるよね」
「お、おう……」
にこにことシリウスさんが笑っている。笑いながら話すことだろうか。でも、昨日会った魔物は普通に戦っていたよなぁ……? なんでだろ? 魔物にも好みがあるとか? もしくはルードの強さに気付いていたとか? そっちのほうが納得がいく。
「ルードたちは襲われたことありますか?」
「あ、聞くんですね……。ちなみに俺はありません」
「ないな。魔物は見つけたら即退治が鉄則だ」
……速攻で倒せるって言うのもすごいよな。
「魔物の行進はどうして起こるんですか?」
「さぁ? 俺、魔物を統括してるわけじゃないから……。ただ、まぁ、復讐の場合が多いかな。魔物を限界まで弱めて放置していると行進が始まるみたい。あいつらにそういう感情があるのかどうかは知らないけど」
つまり、魔物って謎の生き物なんだな……。こればかりはおれがどうこう出来る問題じゃないみたいだ。ルードが言っていた行進って何年前の話だったんだろ。
『あと、この世界色々ぐちゃぐちゃにしているから、君が深く考えなくても良いよ』
いきなり頭に声が響いた。びっくりしてシリウスさんを見ると、彼はパチンとウインクをした。テレパシー? これもスキル? 一体シリウスさんは何個のスキルを持っているんだろうか。
「ホシナ? どうした?」
「あ、いえ……。大丈夫です」
ルードが心配そうにおれの顔を覗き込んでくる。幼いルードの顔にドキリとした。そんなおれをニコロが微笑ましそうに見ている。二十三歳のルードは男らしいイケメンだと思うけど、十五歳のルードは美少年って言葉がピッタリな気がする。
「……アデルと話すことは出来ますか?」
「んー、夜になれば少しはマシになるんじゃないかな」
「少しは?」
「二日酔いは響くんですよ……色々と」
ニコロがぽそりと言った。二日酔いってそんなにつらいもんなの……? おれ、成人しても絶対飲み過ぎないようにしよう……。心の中でそう誓って、気付いた。日本では二十歳で飲酒解禁だけど、もしかしてこの世界では十八歳から解禁なんだろうか。アデルが飲んでるくらいだし。
「……帰りたい?」
「え?」
「見つけたから連れて来たけど、あっちのほうが良かった?」
シリウスさんの言葉におれは目を伏せた。どっちの世界が良いかなんて口にできるはずがない。だってどっちの世界も好きだから。
「……? 連れて来た?」
ニコロが首を傾げた。そりゃそうだ。おれが話したのはルードだけ。そして、多分サディアスさんはおれが異世界から来たことを知っている。心を読めるサディアスさんだから……。おれ、多分知らないであっちとこっちを比べていたりしていたろうし。
「こっちも好きですよ。みんなが居るから」
「それなら良かったよ。うまい具合に出逢えたみたいだし」
……森の中に迷い込んだ時は正直途方に暮れたけどな!
5
お気に入りに追加
2,381
あなたにおすすめの小説
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる